第12話 商品を探せ
翌朝。
俺たちは領地へ戻っていた。
ダンとの約束はした。
船はある。
次は荷だ。
「レオン様」
ミリアが眠そうな顔で言った。
「本当に見つかるんですか?」
「分からん」
「またですか」
「だから探す」
ミリアがため息をついた。
最近よく見る反応だった。
「グラン」
「はい」
「この領地で売っている物を教えてくれ」
グランは少し考えた。
「魚です」
「他は」
「木材」
「他は」
「鹿」
「他は」
「海藻です」
「なるほど」
少ない。
だがゼロではない。
「まず見て回りたい」
俺は言った。
「案内してくれ」
「承知しました」
最初に向かったのは漁村だった。
海沿いの小さな集落。
漁師たちが網を修理している。
ボルドもいた。
「また来たのか」
「ああ」
「今日は何だ」
「領内の調査だ」
ボルドが笑った。
「領主様らしくなってきたな」
俺は構わず聞く。
「冬は何が獲れる」
「ニシンですな」
俺は足を止めた。
「どれくらい獲れる」
「大量です」
「数字はあるか」
ボルドが固まった。
「数字?」
「ああ」
「去年はどれくらい獲れた」
「分かりません」
「一昨年は」
「分かりません」
周囲の漁師たちも首を振る。
誰も知らない。
毎年獲っている。
だが記録はない。
「レオン様?」
ミリアが聞く。
「どうしました?」
「問題が見つかった」
「ニシンですか?」
「違う」
俺は首を振った。
「数字だ」
二人が固まる。
「数字?」
「ああ」
「どれだけ獲れるか分からない」
「はい」
「どれだけ売れるかも分からない」
「はい」
「利益も分からない」
俺はため息をついた。
これでは商売にならない。
だが。
もう一つ気になることがあった。
「ボルド」
「はい」
「冬のニシンは全部売れるのか」
ボルドは首を振った。
「余りますな」
「なぜだ」
「商人が来なくなるからです」
「冬だけか」
「はい」
「北方街道が閉鎖されますので」
やはりか。
話が繋がった。
「だから余るのか」
「そうです」
「安く買われることもあります」
静かになった。
俺は海を見る。
そして南のラング港を思い浮かべた。
「レオン様?」
ミリアが首を傾げる。
「何か分かったんですか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「商品はあった」
「え?」
「最初からな」
二人が固まる。
「ニシンですか?」
「ああ」
「でも余るんですよ?」
「余るんじゃない」
俺は首を振った。
「市場に届いていないだけだ」
ボルドが目を見開いた。
「市場に?」
「ああ」
俺は海を指差した。
「冬になると街道は止まる」
「はい」
「だが海は止まらない」
ミリアの目が大きくなる。
「あっ」
ようやく気付いたらしい。
「船ですか?」
「ああ」
「バルドからラングへ運ぶ」
誰も喋らない。
「ラングには市場がある」
「はい」
「そこから南へ売る」
グランが息を呑んだ。
「そんなことが……」
「できるかどうかはまだ分からん」
俺は答えた。
「だから数字が必要だ」
魚が何トン獲れるのか。
運賃はいくらか。
利益はいくら残るのか。
数字がなければ判断できない。
「グラン」
「はい」
「今日から記録を付けてくれ」
「記録ですか」
「ああ」
「魚の種類」
「はい」
「量」
「はい」
「値段」
「はい」
「全部だ」
グランが真剣な顔で頷いた。
感覚ではない。
数字で戦う。
「レオン様」
ミリアが聞いた。
「つまり商品はニシンなんですか?」
俺は口元を緩めた。
「半分正解だ」
「半分?」
「商品はニシンだ」
「はい」
「だが本当に価値があるのは」
俺は北の海を見た。
「市場への道だ」
ミリアが固まる。
グランも固まる。
そしてボルドだけが小さく呟いた。
「船……」
「ああ」
どうやら。
最初の商売が見えてきたらしい。
(第13話 冬に魚を売れ)
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