第11話 船を売りたい男
「北の海を使う気か?」
俺は男を見る。
商人にしては顔色が悪い。
儲かっている人間の顔ではなかった。
「そうだ」
俺が答えると。
男は鼻で笑った。
「やめておけ」
「なぜだ」
「儲からん」
即答だった。
俺は椅子に座る。
「理由は?」
「荷がない」
男も腰を下ろした。
「北へ運ぶ荷もない」
「南へ運ぶ荷もない」
「だから船が余る」
なるほど。
話が見えてきた。
「名前は」
「ダン」
「商人か」
「海運だ」
男は酒を一気に飲み干した。
「船を三隻持ってた」
「過去形だな」
「一隻売った」
ミリアが小さく呟く。
「儲かってないんですね」
「儲かってたら昼間から酒なんか飲まん」
ダンは吐き捨てた。
正直で助かる。
こういう人間の方が話は早い。
「残り二隻か」
「ああ」
「遊んでいるのか」
「半分な」
「維持費は?」
ダンが顔をしかめた。
「聞くか普通」
「聞く」
「月に金貨二枚」
高い。
だが想定内だ。
船は金食い虫だ。
動いても金がかかる。
止まっていても金がかかる。
「だから売りたいのか」
「売れればな」
俺は少し考えた。
金はない。
船もない。
だが港はある。
そして。
荷物も作れる。
「レオン様」
ミリアが小声で聞く。
「嫌な予感しかしません」
「鋭いな」
「またかぁ……」
「正答率が上がってきた」
「嬉しくありません」
ダンが吹き出した。
「お前ら面白いな」
俺は肩をすくめた。
「よく言われる」
「ダン」
「なんだ」
「船はいくらだ」
ダンが笑った。
「買う気か?」
「ああ」
「金は?」
「ない」
酒場が静かになった。
ダンが固まる。
船乗りたちも固まる。
「金がないのに船を買うのか?」
「そうだ」
「馬鹿か?」
「よく言われる」
ダンが大声で笑った。
酒場の客まで笑っている。
だが構わない。
俺は続けた。
「だから提案だ」
「提案?」
「船はお前が出せ」
「おう」
「荷は俺が作る」
ダンの笑顔が止まった。
「利益は折半だ」
酒場が静まり返る。
「……本気か?」
「ああ」
「荷もないのに?」
「今はない」
俺は答えた。
「だが作る」
ダンが俺を見る。
値踏みするように。
信用できるか。
嘘をついていないか。
そんな目だった。
「何を運ぶ」
当然の質問だ。
だが。
まだ答えられない。
「分からん」
「分からんのか」
「だから調べる」
ミリアが深呼吸した。
「調べるんですね」
「ああ」
「分かりました」
経営とはそういうものだ。
商品を探す。
市場を探す。
利益を探す。
順番にやる。
いきなり成功する訳ではない。
「一つだけ聞く」
ダンが真面目な顔になる。
「なんだ」
「お前の領地」
ダンは身を乗り出した。
「本当に何もないのか?」
俺は少し考えた。
そして。
北の入り江を思い浮かべた。
誰も使っていない天然港。
豊かな森。
広い海。
そして。
誰も価値に気付いていない土地。
「いや」
俺は小さく笑った。
「何もないんじゃない」
「?」
「まだ売れていないだけだ」
ダンが黙る。
数秒後。
初めて笑った。
商人の笑顔だった。
「面白い」
どうやら。
最初の協力者が見つかったらしい。
(第12話 商品を探せ)
次話もお楽しみに!ブックマークしておくと更新通知が届きます




