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第118話 残り八十金貨

第118話 残り八十金貨


「残り」

「八十金貨」

 ミリアが。

 返済予定表へ。

 大きく書いた。

 八十。

 ノースから。

 受け取った。

 三百金貨。

 水車の仕事。

 百二十金貨。

 合わせて。

 四百二十。

 次の返済。

 五百金貨。

 期限は。

 初夏。

「あと少しですね」

 ミリアが言った。

「ああ」

「では」

「何とかしますか」

「何とかする」

「どうやって?」

「それを考える」

 ミリアが。

 俺を見る。

「まだ」

「決まってないんですか?」

「ああ」

◇◇◇

 ダレンが。

 帳簿を開いた。

「一時的に」

「税を上げれば」

「八十金貨なら」

「集められるかもしれません」

「やらない」

「では」

「ヴォルグ殿から」

「借りるというのは」

「それもやらない」

「利息なしでも?」

「ああ」

「返済するために」

「借金を増やしてどうする」

 ダレンが。

 黙った。

 ミリアが。

 手を上げる。

「では」

「来年の鮭を」

「先に売る」

「誰に?」

「ラングとか」

「ノースとか」

「却下」

「早い!」

 来年。

 戻る見込みの鮭は。

 一万九千匹。

 そのうち。

 ロイドとの。

 五千匹の契約は。

 変えない。

 新しい加工所でも。

 五千匹を扱う。

 残りにも。

 売り先を作る。

 だが。

 まだ戻ってもいない魚を。

 金に困ったからと。

 安く約束する。

 それは。

 十年前と。

 同じ入口だった。

「あと八十だから」

「条件が悪くてもいい」

「そう思い始めたら」

「危ない」

 ミリアが。

 八十という数字を見る。

「小さいのに」

「厄介ですね」

「小さいから」

「厄介なんだ」

◇◇◇

 俺は。

 バルドで。

 今売れるものを。

 もう一度並べた。

 木材。

 炭。

 保存食。

 船。

 倉庫。

 人手。

 工房。

 どれも。

 使っている。

 冬だから。

 外の工事はできない。

 土は。

 凍っている。

 水車も。

 今は。

 屋内で。

 部材を作っているところだ。

 加工所も。

 春を待っている。

「何も」

「余ってませんね」

 ミリアが言う。

「余っている物を」

「探しているんじゃない」

「え?」

「まだ」

「金になっていない物を探す」

 あるのに。

 売っていない。

 使っているのに。

 値段がついていない。

 捨てている。

 止まっている。

 届いていない。

 そういうものは。

 どこにでもある。

 問題は。

 見えていないことだ。

◇◇◇

 それから。

 何日か。

 何も見つからなかった。

「本当に」

「八十金貨」

「ないですね」

 ミリアが。

 帳簿を閉じた。

「帳簿の中にはな」

「外にあります?」

「だから」

「それを探している」

「八十金貨が」

「その辺を歩いていたら」

「捕まえてください」

「分かった」

「もう、聞いてないでしょ話」

◇◇◇

 二月。

 雪は。

 まだ残っていた。

 だが。

 風の匂いが。

 少し変わった。

 その朝。

 領主館の扉が。

 開いた。

 ダンだった。

「レオン」

「どうした」

「来い」

「どこへです?」

 ミリアが聞く。

「海」

「また、山登り?!」

「何かあったのか」

 ダンは。

 それ以上。

 説明しなかった。

「見れば分かる」

◇◇◇

 海岸へ出た。

「良かった、鮭の漁場じゃなくて」

 冷たい風。

 白い息。

 沖を見る。

「……何だ」

 海面が。

 妙に光っている。

 朝日の。

 反射ではない。

 水の下を。

 何かが。

 動いている。

 一つではない。

 何百。

 何千。

 いや。

 もっと。

 岸の近くまで。

 大きな影が。

 伸びていた。

 その時。

 海の中の何かが。

 一斉に。

 向きを変えた。

 銀色。

 海そのものが。

 一瞬。

 銀色になった。

「うわ……」

 ミリアが。

 声を漏らす。

「全部」

「魚ですか?」

「ああ」

 ダンが答えた。

「ニシンじゃ」

「こんなに?」

「毎年来る」

「毎年!?」

「ああ」

 ダンは。

 海を見ている。

「今年は」

「特に多い」

 俺も。

 銀色の海を見る。

「ダン」

「どれくらい」

「獲れる?」

 ダンが。

 俺を見る。

 少し。

 眉をしかめた。

「その聞き方は」

「違う」

「何?」

「獲れる数を」

「聞くな」

 海には。

 まだ。

 ニシンが。

 押し寄せている。

「じゃあ」

「何を聞けばいい」

 ダンは。

 短く答えた。

「いくつ」

「売れる」

「それを」

「先に決めろ」

 俺は。

 もう一度。

 海を見た。

 魚は。

 ある。

 毎年。

 あった。

 それなのに。

 バルドの金には。

 なっていない。

 なぜだ。

 残り。

 八十金貨。

 その答えが。

 銀色の海の中に。

 ある気がした。

(第119話 海が銀色になった)



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