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第117話 仕事を作る

第117話 仕事を作る

 俺は。

 ガロンへ聞く。

「何人必要だ」

「木工職人」

「六人」

「鍛冶職人」

「二人」

「期間は?」

「三か月」

「バルドの工事と」

「並行できるか」

「今の職人だけでは」

「厳しい」

「人を増やせば?」

「新しく雇うのか」

「いや」

「冬の間」

「仕事が減る木こりがいる」

「軸を削る仕事なら」

「教えられる」

 新しい仕事。

 新しい賃金。

 水車を作れば。

 ノースの鉱山が動く。

 ノースが動けば。

 バルドの商品を買う。

 単に。

 金を受け取るのではない。

 三つの町の取引が。

 最初に動き始める。

◇◇◇

「契約書を作ります」

 ダレンが言う。

「着手金」

「金貨六十枚」

「納品時」

「残り六十枚」

「納期」

「三か月後」

「故障した場合の」

「修理条件も必要ですね」

「それから」

 俺は言った。

「ノース側の」

「設置責任者を決める」

「設置まで」

「こちらが行うのでは?」

「作った者と」

「使う者が」

「互いに確認する」

「故障した時」

「誰の責任かを」

「後から争わないためだ」

 製作。

 運搬。

 設置。

 試運転。

 使用開始後の修理。

 どこまでを。

 誰が担うか。

 最初に分ける。

「責任を」

「逃れるためですか?」

 ミリアが聞く。

「違う」

「問題が起きた時」

「直す者を」

「すぐに決めるためだ」

 ダレンが。

 すぐに書き加える。

◇◇◇

「これが」

「三つの町の契約の」

「最初の仕事ですね」

 ミリアが言った。

「ああ」

「鮭ではなく」

「水車から始まるとは」

「思いませんでした」

「事業は」

「計画通りの順番で」

「始まるとは限らない」

「使える機会から」

「先に使う」

「では」

「残り八十金貨を」

「どうします?」

「一つの商品で」

「全部を作る必要はない」

 水車。

 輸送。

 加工場。

 春の工事。

 今ある仕事を。

 組み合わせる。

「二百金貨を」

「一度に探すから」

「大きく見える」

「百二十と」

「八十に分ければ」

「次に探す数字が変わる」

 十九匹の敵を。

 九匹と。

 十匹へ分けたように。

 大きな問題も。

 小さく分ければ。

 処理できる仕事になる。

◇◇◇

 その日の夕方。

 王都へ向かった。

 ベルクから。

 短い報せが届いた。

 北方監督室に残る。

 十年前の文書。

 モルデン伯爵が。

 王都到着前に。

 保管場所の変更を命じた。

「証拠を」

「隠すつもりでしょうか」

 ミリアが聞く。

「まだ」

「そこまでは言えない」

「保管場所を変えるだけなら」

「違反ではない」

 ベルクの報せには。

 続きがあった。

 保管変更の対象は。

 ノース。

 バルド。

 ラングに関する文書。

 四度目の監査で。

 確認対象となったものばかり。

 移動先は。

 北方監督室が管理する。

 別の文書庫。

「自分の部署の書類を」

「自分の管理する場所へ」

「集めるんですか?」

「ああ」

「怪しくないですか?」

「怪しいことと」

「証明できることは違う」

 ベルクと。

 同じ答えだった。

◇◇◇

「では」

「止められないんですか?」

「止める必要はない」

「え?」

 原本は。

 移動する。

 だが。

 十年前の文書は。

 ノースで照合されている。

 ベルクの監査印を押した複写。

 ノースで保管する一組。

 バルドへ送った一組。

 監査記録として。

 ベルクが持つ一組。

 すでに。

 三か所に残っている。

「原本を動かしても」

「書かれていた事実は」

「もう動かせない」

「でも」

「原本を失ったら」

「複写だけでは」

「弱くなりませんか?」

「だから」

「移動の記録を残させる」

◇◇◇

 モルデンの。

 保管変更命令。

 文書を。

 持ち出した者。

 運んだ者。

 受け取った者。

 移動した日。

 移動前の文書数。

 移動後の文書数。

 そのすべてを。

 ベルクは。

 追加監査の対象にした。

 保管場所を。

 一度変えれば。

 一枚の命令書が増える。

 一人が触れば。

 一人の名が増える。

 移動先へ届けば。

 受領記録が増える。

「隠そうとして」

「動かせば動かすほど」

「記録が増えるんですか?」

「ああ」

 前の世界でも。

 何人も見た。

 都合の悪い数字を。

 隠そうとした人間を。

 最初は。

 一枚の資料だった。

 その一枚を隠すために。

 別の数字を直す。

 その数字を合わせるために。

 決裁を変える。

 説明を変えれば。

 今度は。

 以前の説明と合わなくなる。

 隠せば隠すほど。

 辻褄を合わせる仕事が増える。

 そして最後は。

 何を隠したかではなく。

 隠すために何をしたかで。

 転落していった。

 モルデンは。

 十年前。

 残す数字と。

 消す数字を選んだ。

 だが。

 今度は。

 すでに。

 見ている者がいる。

 数えている者がいる。

 複写を持つ者がいる。

「モルデンは」

「証拠を消したわけではない」

「証拠に」

「自分から触れた」

◇◇◇

 ベルクの報せの。

 最後には。

 こう書かれていた。

 保管変更命令を。

 監査資料。

 第七号として登録した。

 理由については。

 モルデン伯爵本人へ。

 確認する。

 ミリアが。

 顔を上げる。

「査問では」

「モルデン伯が」

「質問する側でした」

「ああ」

「今度は」

「ベルクさんが」

「質問するんですね」

「それだけではない」

 移動した文書が。

 一枚でも減れば。

 誰が管理していたか。

 記録から追える。

 文書の内容が。

 書き換えられれば。

 照合済みの複写と比べられる。

 移動を取り消しても。

 命令を出した事実は残る。

 進んでも。

 戻っても。

 記録が増える。

◇◇◇

「追わないんですか?」

 ミリアが聞く。

「今は」

「ベルクが追う」

「モルデン伯を」

「逃がしてしまいませんか?」

「逃げた者は」

「必ず」

「もう一度動く」

「動けば」

「記録が残る」

 査問では。

 モルデンが。

 数字を選んだ。

 だが。

 次に会う時。

 同じ席へ。

 座れるとは限らない。

「その時は」

「どうするんです?」

「今度は」

「こちらが聞く」

 なぜ。

 監査対象の文書だけを。

 移したのか。

 誰の許可で。

 どこへ運び。

 誰に渡したのか。

 十年前。

 何を知り。

 何を承認したのか。

 今は。

 答えを出せない。

 だが。

 質問は。

 一つずつ増えている。

 モルデンとの戦いは。

 終わっていない。

 むしろ。

 あの男が。

 自分から。

 最初の記録を残したところだった。

◇◇◇

 それでも。

 俺たちが追うのは。

 今ではない。

 王都の記録は。

 ベルクが追う。

 俺たちが追うのは。

 バルドの数字だ。

 俺は。

 返済予定表を見る。

「残り」

「八十金貨」

 モルデンは。

 待てる。

 証拠も。

 逃げない。

 だが。

 バルドの支払日は。

 待ってくれない。

(第118話 残り八十金貨)



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