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第115話 三町相互取引契約

 第115話 三町相互取引契約

 

 ノースには。

 鉱石がある。

 鉄がある。

 工具を作る職人がいる。

 だが。

 食料の多くを。

 外から買っている。

 ラングには。

 荷車がある。

 商人がいる。

 塩。

 樽。

 南へ続く販路がある。

 だが。

 自分たちで作れる商品は。

 多くない。

 バルドには。

 鮭がある。

 加工場ができる。

 水車も。

 作り始めている。

 だが。

 金も。

 売り先も。

 運ぶ力も足りない。

「三つを」

「一つの商いにするのか」

 イサクが聞く。

「一つにはしない」

「つながるだけだ」

「何が違うんです?」

 ミリアが聞く。

「一つにすれば」

「どこかが止まった時」

「全部止まる」

「つなぐだけなら」

「別の相手とも商いができる」

 ◇◇◇

 契約の第一。

 三つの町は。

 互いに。

 優先して。

 取引の相談をする。

 だが。

 独占権は与えない。

「ノースだけに」

「鮭を売るわけではない?」

 ヴォルグが聞く。

「ああ」

「ラングだけに」

「運ばせるわけでもない」

 イサクが。

 少し残念そうな顔をする。

「ノース以外から」

「鉄を買うこともできる」

「わしにも」

「独占権はないのか」

「ない」

「誰にも与えない」

 ◇◇◇

 契約の第二。

 今ある契約を。

 変えない。

「ロイドの」

「五千匹の契約は」

「そのままだ」

 ロイドが。

 短く頷く。

「鮭を何匹捕るか」

「いくらで売るかは」

「ダンたち漁師が決める」

「この場で」

「勝手に約束しない」

「では」

「ノースへ売る量は?」

「加工場が動いてから」

「改めて決める」

「先に数量を縛れば」

「鮭が足りなかった時」

「また」

「町が契約に縛られる」

 ◇◇◇

 契約の第三。

 金を先に渡す時は。

 使い道を決める。

 鉄を買う金。

 塩を買う金。

 樽を買う金。

 荷車を借りる金。

「町そのものへ」

「金を貸さないのですか?」

 ミリアが聞く。

「必要な物へ払う」

「何に使うか分からない金を」

「大量に入れない」

 十年前。

 補助金は。

 町を豊かにするように見えた。

 だが。

 人を。

 一つの仕事へ集中させ。

 逃げられなくした。

「金を入れるなら」

「出口も決める」

「返せなくなった時に」

「土地も」

「仕事も」

「奪わない形にする」

 ◇◇◇

 契約の第四。

 一つの町で。

 道が止まった時。

 残りの二つが。

 必要な物を優先して運ぶ。

 ノースで。

 食料が足りなくなれば。

 バルドとラングが運ぶ。

 バルドで。

 工具が壊れれば。

 ノースが作る。

 ラングの街道が。

 使えなくなれば。

 別の運び手を。

 三者で探す。

「利益のためだけでは」

「ないんですね」

 ミリアが言う。

「ああ」

「止まらないための契約だ」

 ◇◇◇

「それで」

 ヴォルグが聞く。

「わしには」

「何の得がある」

「安定して」

「食料を買える」

「鉱山が止まった時も」

「取引相手が消えない」

「ラングは?」

 イサクが聞く。

「北と南をつなぐ」

「継続した仕事ができる」

「バルドは?」

「工具と」

「販路を得る」

「それだけですか?」

 ミリアが聞く。

「もう一つある」

 三つの町に。

 同じ書類が残る。

 誰と。

 何を。

 いくらで取引したか。

 三者が。

 それぞれ記録する。

「一つの町の帳簿を」

「書き換えても」

「残り二つに残る」

 ヴォルグが。

 笑う。

「また」

「三組作るのか」

「ああ」

「一つしかない記録は」

「弱点だからな」

 ◇◇◇

 ヴォルグ。

 ノース。

 イサク。

 ラング商会。

 俺。

 バルド領。

 三人が。

 契約書へ署名する。

 ロイドは。

 既存契約が。

 変更されていないことを確認し。

 証人として名を記した。

「名前は?」

 ミリアが聞く。

「何のじゃ」

「この契約の名前です」

「必要か?」

「帳簿に書く時」

「困ります」

 俺は。

 三つの署名を見る。

「三町相互取引契約」

「そのままですね」

「分かればいい」

 ミリアが。

 表紙へ。

 丁寧に名前を書いた。

 ◇◇◇

 翌朝。

 バルドへ向かう馬車の前に。

 ヴォルグが立っていた。

「次に会う時は」

「わしがバルドへ行く」

「何をしに来る」

「金を返せる町になったか」

「見に行く」

「まだ」

「二百金貨足りないぞ」

「なら」

「早く稼げ」

 ヴォルグが。

 大きく笑った。

 ◇◇◇

 馬車が。

 ノースを離れる。

 持ち帰るもの。

 金貨三百枚。

 三つの町の契約。

 ノースという。

 新しい取引相手。

 モルデンへつながる。

 決裁の記録。

 そして。

 残ったもの。

 次の返済。

 金貨五百枚。

 不足。

 二百枚。

 返済期限まで。

 半年。

 ノースの危機は。

 乗り越えた。

 だが。

 バルドの借金。

 金貨十二万枚は。

 まだ。

 一枚も消えていない。

「帰るぞ」

「バルドへ」

(第116話 残り二百金貨)



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