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第114話 残り二百金貨

第114話 借りない理由

 査問の翌朝。

 モルデンは。

 ノースを発った。

 六か月間。

 条件付きで。

 鉱山運営を認める。

 月ごとの報告先は。

 北方監督室と。

 監査局。

 同じ数字を。

 二か所へ送る。

「六か月後」

 馬車へ乗る前に。

 モルデンが言った。

「計画が守られているか」

「数字で判断します」

「ああ」

「数字なら」

「こちらも用意する」

「増やせばよいというものでは」

「ありませんよ」

「消すよりはいい」

 モルデンは。

 何も答えなかった。

 馬車の扉が閉じる。

 三つの峰と。

 一本の秤が。

 雪の街道へ消えていった。

◇◇◇

「勝ったのか?」

 ヴォルグが聞いた。

「負けなかった」

「同じではないのか」

「違う」

 モルデンは。

 失脚していない。

 十年前の責任も。

 認めていない。

 エルドへの指示も。

 北方監督室が。

 地方を壊す仕組みを作ったことも。

 証明できなかった。

 だが。

 ノースは。

 王都直轄にならなかった。

 ヴォルグも。

 鉱山に残った。

 鉱夫の登録。

 安全責任者。

 坑道図の更新。

 賃金と。

 住居と。

 前借金の分離。

 人を守るための仕組みが。

 王国の正式な記録に。

 残った。

「今回の目的は」

「ノースを守ることだった」

「なら」

「目的は達した」

◇◇◇

 ベルクは。

 机の上の書類を。

 一冊ずつ。

 封印していた。

「四度目の監査は」

「終わっておらんのじゃろ」

 ヴォルグが聞く。

「はい」

「十年前の決裁記録を」

「王都で確認します」

「モルデンを」

「裁けるか」

「分かりません」

「またそれか」

「証拠があれば」

「記録します」

「なければ」

「記録できません」

 ヴォルグが。

 鼻を鳴らす。

「じゃが」

「今度は」

「見るべきものを知っておる」

「はい」

 ベルクは。

 新しく作られた。

 死者の名簿を見る。

「今度は」

「名前のない者も」

「探します」

◇◇◇

 ベルクが。

 王都へ向かった後。

 ヴォルグが。

 一つの革袋を。

 机へ置いた。

 重い音がする。

「約束の報酬じゃ」

 袋の中には。

 金貨。

 三百枚。

 ミリアが。

 目を見開く。

「三百金貨!」

「数えるか?」

「もちろんです!」

 ミリアが。

 袋を抱える。

 十枚ずつ。

 机へ並べ始めた。

「ノースを救い」

「鉱山を残した報酬じゃ」

 ヴォルグが言う。

「これで」

「バルドは春まで持つか」

「ああ」

「だが」

「次の返済には足りない」

 ミリアの手が。

 止まる。

「次の返済は」

「金貨五百枚でしたよね」

「ああ」

「三百枚あるので」

「残りは」

「二百枚です」

「貸そうか」

 ヴォルグが言った。

「利息は取らん」

「返すのは」

「鮭が売れた後でよい」

◇◇◇

「借りない」

「なぜじゃ」

「返済する金を」

「新しい借金で埋めれば」

「借りる相手が」

「王都からノースへ変わるだけだ」

「わしを」

「信用できんか」

「信用している」

「では」

「なぜじゃ」

「信用できる一人へ」

「全部を依存する方が危険だからだ」

 今回。

 ヴォルグは。

 解任される可能性があった。

 もし。

 鉱山を王都に奪われていれば。

 ヴォルグの資金も。

 約束も。

 止まっていた。

「ヴォルグが倒れれば」

「バルドまで倒れる」

「そんな資金の組み方はしない」

 ヴォルグは。

 しばらく。

 俺を見ていた。

 やがて。

 小さく笑った。

「わしを」

「勘定へ入れんのか」

「入れる」

「だが」

「頼り切らない」

「面倒な男じゃ」

「そう言われる」

◇◇◇

「では」

「残り二百金貨を」

「どうするんです?」

 ミリアが聞く。

「バルドで作る」

「簡単に言いますね」

「簡単ではない」

「だから」

「帰る前に」

「一つ作っておく」

 俺は。

 地図を広げた。

 ノース。

 ラング。

 バルド。

 三つの場所を。

 線でつなぐ。

「同盟か」

 ヴォルグが聞く。

「王都と戦うための?」

「違う」

「一つが止められても」

「残りの二つが」

「商いを続けるための契約だ」

(第115話 三町相互取引契約)



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