表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
102/118

第102話 地図にない坑道

※この作品は毎日更新予定です。

ブックマーク・評価をいただけると励みになります

 コン。

 コン。

 山の奥から。

 音が続いている。

 十三人は。

 まだ生きている。

「第七坑道の地図を出せ」

 俺が言うと。

 鉱山管理者たちは。

 互いの顔を見た。

「早くしろ」

 ヴォルグの声が。

 低く響く。

 一人の管理者が。

 屋敷へ走った。

◇◇◇

 持ってきた地図は。

 大きなものだった。

 山の形。

 坑道の入口。

 採掘区画。

 換気口。

 鉱石を運ぶための線路。

 細かく。

 書き込まれている。

「第七坑道は」

「ここです」

 管理者が。

 地図の端を指した。

 新しい坑道。

 ほぼ一直線に。

 山の中へ伸びている。

「崩れた場所は?」

「この先です」

「地図では」

「行き止まりだな」

「はい」

「その先に」

「空洞があった」

「はい」

「なら」

「この地図は使えない」

 管理者の顔が。

 こわばる。

「ですが」

「これは最新の地図です」

「最新でも」

「現場と違えば」

「古い地図だ」

◇◇◇

「坑道を掘った者を」

「全員集めろ」

「全員ですか?」

「第七坑道で働いた者だ」

「班長」

「支柱を立てた者」

「線路を敷いた者」

「鉱石を運んだ者」

「生きて戻った者は」

「全員だ」

「しかし」

「今はゴブリンの対応を」

「そのために集める」

 管理者は。

 まだ動かなかった。

「地図を描いた者だけが」

「坑道を知っていると思うな」

「実際に歩いた者の頭にも」

「地図はある」

 ヴォルグが。

 管理者を睨む。

「聞こえんかったか」

「集めろ」

「はい!」

◇◇◇

「レオン様」

 ミリアが。

 紙を抱えて戻ってきた。

「坑道に残っている十三人」

「名前が分かりました」

 紙には。

 十三人の名前が。

 並んでいた。

 年齢。

 家族。

 担当。

 最後に見た場所。

「よく調べたな」

「家族の人たちに」

「聞きました」

「十三人では」

「分かりませんから」

 ミリアが。

 紙の一番上を見る。

「ルッツさん」

「四十二歳」

「支柱班の班長」

「妻と娘が二人」

「バルさん」

「十九歳」

「採掘を始めて」

「まだ三か月」

 一人ずつ。

 名前がある。

 帰りを待つ者がいる。

 十三という数字ではない。

 十三人の人間だった。

「その紙を」

「入口へ張れ」

「はい」

「戻った者には印をつけろ」

「一人ずつ確認する」

「はい!」

 ミリアが。

 再び走る。

◇◇◇

「ヴォルグ」

「何じゃ」

「ノースの採掘を」

「すべて止めろ」

 周囲が。

 静まり返った。

 鉱山管理者が。

 慌てて口を開く。

「全坑道ですか?」

「ああ」

「第七坑道だけではなく?」

「全部だ」

「そんなことをすれば」

「納鉱量に届きません」

「今も」

「届かせるつもりだったのか」

「契約があります」

「遅れれば」

「違約金が」

「人が死んでいる」

「ですが」

「違約金も」

「ノースが負担するのです!」

「なら」

「払えばいい」

 俺は。

 ヴォルグを見る。

「わしがか?」

「ああ」

「簡単に言うな」

「町を失うより安い」

 ヴォルグが。

 俺を睨む。

「それだけではない」

「鉱夫三百人の賃金を」

「一か月保証する」

「前借金の返済も」

「一か月止めろ」

「避難した者を」

「解雇させるな」

「住居も取り上げさせない」

「全部」

「わしが払うのか」

「これは慈善ではない」

「事業を残すための」

「緊急投資だ」

「採掘を続ければ」

「鉱夫が死ぬ」

「鉱夫が死ねば」

「鉱山も死ぬ」

 ヴォルグは。

 しばらく。

 何も言わなかった。

「一か月で」

「足りるのか」

「足りなければ」

「延ばす」

「やはり」

「わしの金ではないか」

「条件を出したのは」

「お前だ」

 ミリアが。

 小さく手を上げる。

「私」

「指名されなくても」

「よかったかもしれません」

「もう遅い」

「ですよね」

◇◇◇

 ヴォルグは。

 鉱山管理者たちへ向き直った。

「今から」

「全坑道の採掘を止める」

「鉱石の出荷も」

「すべてじゃ」

「鉱夫の賃金は」

「一か月分」

「わしが保証する」

「前借金の返済も止める」

「避難を理由に」

「仕事と家を奪うことは許さん」

 管理者の一人が。

 なおも食い下がる。

「王都には」

「何と説明を」

「町を守るためじゃ」

「それで認められなければ?」

「わしの名前を出せ」

「全責任は」

「ヴォルグが負うとな」

 男たちが。

 黙って頭を下げた。

◇◇◇

「もう一つ」

 俺は言った。

「今日から」

「評価する数字を変える」

「数字?」

「採掘量は」

「ゼロでいい」

 管理者たちが。

 顔を上げる。

「評価するのは」

「何人を避難させたか」

「何本の退路を作ったか」

「何人を救助したか」

「ゴブリンの首には」

「金を出さない」

「なぜです?」

 ミリアが聞く。

「金を出せば」

「鉱夫まで戦い始める」

「倒した数ではない」

「生きて帰した数に」

「報酬を出す」

 ヴォルグが。

 ゆっくり頷いた。

「聞いたか」

「今日から」

「鉱石を出した者ではない」

「人を帰した者に」

「金を払う」

◇◇◇

 第七坑道で働いた者たちが。

 集められた。

 二十六人。

 煤に汚れた顔。

 負傷した腕。

 破れた服。

 その中に。

 昨日。

 坑道から逃げ帰った者もいた。

 俺は。

 大きな紙を。

 地面へ広げた。

「一人ずつ」

「歩いた道を描け」

「道ですか?」

「地図どおりでなくていい」

「覚えているものを」

「全部描け」

 最初の男が。

 炭を持つ。

 第七坑道の入口。

 線路。

 採掘場。

 崩れた壁。

 二人目が。

 別の線を書く。

「こんな道は」

「地図にありません」

 管理者が言う。

「排水路です」

 鉱夫が答える。

「水が出た時に」

「勝手に掘りました」

「報告は?」

「しました」

「誰に?」

 鉱夫が。

 管理者を見る。

 管理者は。

 目を逸らした。

◇◇◇

 三人目が。

 別の横穴を書く。

「これは?」

「空気を通す穴です」

「地図にはないぞ」

「採掘を止めずに」

「空気を入れろと言われたので」

「俺たちで掘りました」

 四人目。

 五人目。

 地図にない線が。

 次々と増えていく。

 排水路。

 換気口。

 鉱石を仮置きする空間。

 崩落を避けるための迂回路。

 正式な図面には。

 何もない。

 だが。

 現場では。

 必要に迫られて。

 道が増えていた。

「管理者は」

「知らなかったのか」

「報告は受けています」

「なら」

「なぜ地図にない」

「採掘を止めて」

「測量する時間が」

「取れませんでした」

 理由は。

 すべて同じだった。

 納鉱量。

 期限。

 採掘を止められない。

 だから。

 地図を直さない。

 安全を確認しない。

 道だけが。

 増えていった。

◇◇◇

「レオン様」

 ミリアが。

 重ねられた線を見る。

「これ」

「地図にない道が」

「多すぎませんか?」

「ああ」

「でも」

「皆さんが描いたものを」

「重ねると……」

 ミリアが。

 炭で描かれた。

 三本の線を指す。

 排水路。

 換気用の横穴。

 運搬用の迂回路。

 別々の目的で。

 別々の班が掘った道。

 それが。

 山の奥で。

 一か所へ集まっている。

「ここは」

「何ですか?」

「分からない」

 鉱夫たちが。

 首を横へ振る。

「誰も」

「そこまで掘っていないのか」

「俺たちの班は」

「手前までです」

「向こう側は」

「別の班が」

「その班は?」

 沈黙が落ちる。

 誰も。

 答えようとしなかった。

 ミリアが。

 先ほどの名簿を取り出す。

 十三人の名前。

 年齢。

 家族。

 担当。

 その一番上を。

 もう一度見た。

「ルッツさん」

「支柱班の」

「班長……」

 ミリアの声が。

 止まる。

 一人の鉱夫が。

 小さく頷いた。

「坑道に残った」

「ルッツの班です」

 十三人。

 閉じ込められている者たちだった。

◇◇◇

「この道を使えば」

「十三人の近くまで」

「行けるのか」

「排水路からなら」

「行けるかもしれません」

「ゴブリンは?」

「狭いので」

「大きな群れは通れません」

「兵士は通れるか」

「一人ずつなら」

 救助路が。

 見え始めた。

 だが。

 地図を見ていた若い鉱夫が。

 震える指を。

 山の中央へ伸ばした。

「待ってください」

「どうした」

「この空洞」

「第七坑道の先にあったものと」

「場所が合いません」

「何が言いたい」

「崩れた壁の向こうは」

「もっと西です」

「では」

「ここにある空間は?」

 鉱夫は。

 答えなかった。

 代わりに。

 ヴォルグが。

 古い地図を引き寄せる。

 十年前。

 閉鎖された西の坑道。

 その奥。

 人を残したまま。

 塞がれた場所。

 現在の地図と。

 古い地図を。

 重ねる。

 位置が。

 ほぼ一致していた。

「まさか」

 ミリアが呟く。

「第七坑道は」

「つながっていない」

 俺は言った。

「だが」

「地図にない道が」

「旧坑道の近くまで伸びている」

 誰かが。

 意図してつないだのではない。

 排水。

 換気。

 運搬。

 それぞれが。

 目の前の問題だけを解決した。

 誰も。

 全体を見ていなかった。

 その結果。

 封じたはずの場所へ。

 道が集まった。

「地図に」

「なかったのではない」

 俺は。

 重なった線を見る。

「誰も」

「一枚につなげていなかっただけだ」

 その時。

 山の中から。

 再び。

 音が響いた。

 コン。

 コン。

 今度は。

 先ほどよりも。

 近い。

 そして。

 岩を叩く音に混じって。

 甲高い叫び声が。

 聞こえた。

 ゴブリンが。

 十三人のいる場所へ。

 近づいていた。

「救助班を作る」

「今からですか?」

「ああ」

「鉱夫と兵士を」

「一組にする」

「地図を知る者と」

「戦える者を組ませろ」

「何組です?」

「三組」

「一組は十三人を救う」

「一組は退路を守る」

「残りは?」

 俺は。

 地図にない道が。

 集まる場所を指した。

「ゴブリンが」

「どこから来ているのか」

「数字を取りに行く」

(第103話 採掘量ゼロ)


最後までお読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマーク登録をお願いします。

評価(★★★★★)も作者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ