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【桃姫と戦神】ペットの龍が戦神様そっくりになってしまって……どうしたらいいんだろう  作者: 竹輪㋠


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9/11

桃姫、心が揺れる

 その日の晩、意思が弱い私はさっそく幻術薬を使ってしまう。

「タオヤオ、また戦神が贈り物を門のところへ置いているよ」

「えっ!」

 エンに指摘されて見に行くと、またもや贈り物が 積まれていた。

 珍しい布の服や、装飾品……昆布に穀物などの食料品まである。

 助かるけれど……。

 幻術薬も貰ったのに……困る。

 私の心を読んだようにエンが肩をあげた。


「くれるっていうんだからもらっておけばいいんだよ。返すなんて失礼なんだから」

「そ……そうだね」

「この髪飾り……ほら、素敵だよ。桃の花の形の宝石がついてる。タオヤオにぴったりだ。ねえ、つけてみて」

 ニコニコと笑うエンは無邪気に言うけれど、なんだかとても高価なもののような……。

 固まっていると、エンが箱から出して私の髪に挿してしまった。


「エン……か、返さないといけないかもしれないから……」

 こんなにもらってしまって……どうしたらいいのだろう。

 オロオロしている私の髪に刺された簪がやけに重く感じた。

 でも……。

「ああ、とっても似合ってるよ。タオヤオは世界一綺麗だ」

 エンに褒められてしまうと心が揺らぐ。

「……ほんと?」

「ほら」

 手鏡で見せてもらうと、金色の私の髪に濃い桃色が映えていた。


「素敵……」

 思わず声をあげると、目が合ったエンが優しく微笑んでいた。

 まるでジンさんに微笑まれているような気になる……。

 これは……エンなのに。


「ジ、ジンさんにお礼を言わないとね……」

 熱い頬を覚ますように手の甲でぬぐう。

「髪に挿して見せてあげると喜ぶよ」

 エンは当然のようにそう提案した。


 贈り物を屋敷の中に入れて、エンとたわいない話をする。

 眠くなったらエンの腕枕で横になり、頭を撫でてもらう。

 誰かに寄り添ってもらえるというのは……とても有難いことだと思った。





「喜ぶ……かな」

 次の日、私はジンさんが仙桃を取りに来るという知らせを聞いてソワソワと待っていた。

 簪も……髪に挿してみた。

 でも……。

 エンは返すのは失礼だし、見せたら喜ぶと言ってくれていたけれど。

 こんなことをせずに返したほうが……。


 少し待っていたけれど、ジンさんはまだ来ない。

 やっぱり、簪は恥ずかしいから外そうと手をかけた時、リンリンと呼び鈴がなった。

 出荷口に背を向けていた私に声がかかる。

「こんにちは。タオヤオ。ああ……よく似合っています」

 声に私は簪から手を離してゆっくりと振り返った。

 そこにはお面をつけたジンさんがいた。


「あの……こ、こんにちは。そ、その、あ、ありがとうございました」

 どもりながらなんとか言葉を紡ぐと、やはりそれを最後まで聞くジンさんの口元がほほ笑んでいた。

「宝石は貴方に似合う色だと思って取り寄せたんです。つけてくれて嬉しいです。突っ返されたらどうしようかと心配していました」

 ジンさんのような立派な神様でも、そんなふうに思うのかと、少し驚いた。


 そして、同時に自分がどんなに無神経なことをしようとしていたのか反省した。

 折角相手のために選んだ贈り物を返されたら……悲しい気分になるに違いない。

 そこには身分差など関係ないのだ。

 私のことを大切にしてくださる。そう思うと胸が温かくなった。


「あの……お礼に……こんなものしかないのですが」

 私は用意していた桃酒を渡した。以前も喜んでくれたもの……これしかできることが思いつかなかった。

「ああ、大好物なんです。嬉しいです」

 ジンさんが受け取ってくれて、ほっこりする。


「そ、それではこれが今日のぶんの仙桃で……」

 品物を渡そうとするとジンさんはそれを受け取らなかった。

「今日は少し時間があるんです。桃源郷を散歩しませんか?」

「……桃源郷を?」

 ジンさんの提案に驚いた。

 天都と違って、桃の園しかない面白みのない場所だ。今までそんなことを言った者などいない。


「桃の木しかありませんよ?」

「素晴らしい景色があるではないですか」

「素晴らしい……景色」


 私が守ってきた景色。

 それをそんなふうに言ってくださるんだ……。


「案内してくださいますか?」

「は……はい!」

 嬉しくなって張り切って答えた。





 しかし、いざ、並んで歩くと恥ずかしい。

 こんな作業着ではなく、もう少しましな服があっただろうに。

 先日貰った薄絹の布を肩に巻けば少しはましだったかもしれない。


 横に立つジンさんは見上げるほど背が高い。

 体もしっかりしていて……すごくかっこいい。

 濃紺の着物も美しくて、歩くだけでキラキラして見えた。


 私のみすぼらしいこと。


 ぎゅっと袖を伸ばして指先を隠す。

 なんとか見栄えのするのは髪に挿した簪だけだ。


 そこまで考えてハッとする。

 そもそも並んで歩くという発想がいけない。

 後ろに下がろうとすると、つまずいて転びそうになってしまった。


「おっと……気をつけて」

 サッとジンさんが私の背中に手を回して体を支えてくれた。

 て、手が……。

 思わずぴょんと前に飛んでしまう。

 いくらエンで慣れてきたとしても、今ここにいるのは本物の戦神様なのだ。


「一番大きな桃の木が見たいです」

 そんな私をクスリと笑ったジンさんが要望を伝えてきた。

 あの丘の上に見える一番大きな桃の木。

 私も、あの古い巨木が一番好きだ。


「あの巨木は……花をつけないんです。でも、伯父様が戻ってきたら……きっと……」

 両親と過ごしていた頃のように、木が元気になるかもしれない。

「そういえば、タオヘンが戻ってくるのですね。楽しみですね」

「……はい」

 複雑な気持ちで返事をするとジンさんがポンポンと私の頭を撫でた。

 だ、だから……ど、どうして……。


「タオヤオ、水場で少し涼みましょう」

 顔が火照って仕方のない私はその提案に乗る。

 小川の淵に並んで座ると、ひんやりとした風が幾分か熱を取ってくれた。

 一息つくと、隣のジンさんがジッと私を見つめている。


「お面を外してもいいですか?」

 そんなことを言われて、慌てた。

 お面をとったら……戦神様だと委縮してしまう。


「……困ります」

「でも、エンはお面などつけていないでしょう?」

「そうですけれど」

「エンだと思えばいいではないですか」

「……では、少しだけ」

 私の了承を得るとジンさんがお面を外して戦神様になった。

 どうしよう……。

 心臓がドンドンと音を立て始めてしまう。


「や、やはり、困ります。心臓が持ちません。戦神様」

「ジンイェン……です、タオヤオ」

 動きの止まった私の顔を覗き込んでくる戦神様……。

 美男過ぎる。

 エンの時は耐えられるのに……!


「わ、私の心臓を破ってしまうおつもりですか……?」

 袖で顔を隠し、情けない声で言うと、頬を赤めた戦神様がさっとお面を戻した。

 もしかしたら戦神様も蒸れて熱かったのかもしれない。

 そう思い当たると申し訳ない気持ちになった。


「……お、お面は熱がこもります……よね? ごめんなさいどうぞ外してください」

 私が譲歩すると、今度はジンさんが首を横に振った。


「今、みっともない顔になっていると思うので、このままつけておきます」

 そうして結局、ジンさんのままでいてくれた。

 やっぱり……なんて優しいのだろうと思った。



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