桃姫、幸せになる (最終話)
屋敷に戻ると、伯父様も泣いたのか腫れた目で私を迎えてくれた。
「ジンイェン様……私たち桃の一族の代わりに仇を討ってくださってありがとうございます。現当主として、お礼申し上げます」
伯父様が深くジンイェン様に頭を下げる隣で、私も深く頭を下げた。
この先……一族を死に至らしめた者を許すことなどできないだろう。
けれども。
こうして痛みを分かち合い、助けてくれる存在がいるだけで……どれだけ救われるだろうか。
伯父様はそのまま、むせび泣いている。
私も、無念とやるせなさでいっぱいだ。
「タオヘン様……」
伯父様の肩をシュアンラン様がそっと抱いていた。
きっと、桃源郷の未来は明るい。
「タオヤオ」
私の肩に置かれた温かい手に抱き寄せられる。
今は涙で悲しみを流すしかない。
それから。
天帝様の怒りに触れた黒蓮家は霊力を奪われ仙界から追い出された。妃の座を下ろされた玲蓮様も一緒である。下界に落とされて生活するのは黒蓮家にとって死を選ぶよりも屈辱だろう。
黒蓮家と繋がっていた蘭霊家は禁薬に手を出したこともあり、御家断絶となった。
一方、伯父様とシュアンラン様が婚姻を結び、桃源郷の当主に妻ができた。
いつのまにか花をつけなくなっていた桃の大木も、二人を祝福するかのようにまた花を咲かし、その実をつけた。
連動するように、たくさん伯父様の子を産むと宣言したシュアンラン様が、驚くことにすぐに懐妊した。
「きっと毎日タオヘン様の仙桃を頂いていたからですね」
シュアンラン様がそんなことを言ったのが広まって、毎日欠かさず天帝様の妻たちが食すようになった。
すると……なんと五人の妃のうち、二人もご懐妊になった。
諦めていた天帝様も大喜びだ。
それからは天都でも仙桃が大人気になり、とうとうなかなか手に入らない品物になってしまった。
「人気が出たのはいいが、生産が追いつかないな」
嬉しい悲鳴に伯父様とせっせと仙桃を箱を詰める。
近頃は私の作る仙桃のほうも霊力が高まると人気が出ていた。
それには「タオヤオの仙桃はわたしのものなのに……」とジンイェン様が口をとがらせて嫉妬していたけれど。
「タオヤオ……私の愛しい妻。さあ、桃堺宮に戻りますよ」
声が聞こえると同時に腰に腕が回る。
あっと思う間にくるりと体を回転させられて抱きしめられた。
「おかえりなさい、ジンイェン様」
どうにかこの美しい男神の顔にも慣れ、私は軽く頬に口づけを贈る。
素敵な私の旦那様だ。
伯父様も私もあちこち忙しすぎてお披露目は落ち着いてからすることにした。
シュアンラン様もご懐妊したので、今はできるだけ静かに過ごしたいのだ。
ジンイェン様もシュアンラン様も援助は惜しまないと言ってくださるが、桃源郷の復興はなるべく仙桃を売った資金で賄いたい。
私の作った仙桃を詰めた箱を指さすと片手で軽々とジンイェン様が持ち上げる。
もう片方の腕は私の腰を掴んだままだ。
「では、タオヘン、我が妻を連れて帰ります」
「はい、お気をつけて。ヤオヤオ、今日もありがとう」
「伯父様もお疲れさまでした。シュアンラン様もお体にお気をつけて」
「お疲れ様です、タオヤオ」
手を振るとふっくらしたお腹を抱いたシュアンラン様も手を振ってくれる。
伯父様がお腹を気遣いながらシュアンラン様に寄り添う。
幸せそうな二人。伯父様の顔も緩みっぱなしである。
月が満ちれば……伯父様の子が生まれてくる。
それは桃源郷を明るくする命だ。
「二人のこどもはどちらに似るでしょうね」
「シュアンランが産む子は気が強そうですね。タオヘン様に似ればいいが」
「ふふふ。どちらでもかわいいのは変わりありませんね」
想像すると顔が綻ぶ。
私が笑うとジンイェン様がこちらをじっと見つめていた。
「あの二人の子もかわいいでしょうが……私たちの子も負けないくらいかわいいでしょう。……そろそろタオヤオの仙桃の効果も出る頃かも知れません」
さらりとそんな言葉を聞いて、だんだん顔が熱くなる。
それは……私もジンイェン様の子が欲しいわけで。
彼の胸に顔をうずめると、ジンイェン様が片手に持っていた桃の箱を後ろのリエフォンにそっと渡す。それと同時に体がヒョイと持ち上げられた。
「早く私たちの宮に戻りましょうか」
「は……はい」
ジンイェン様に抱きかかえられて桃堺宮に戻ると、エンとエンの兄龍が迎えに出てくる。
すっかり鍛え上げられてきたエンは以前よりムキムキになってしまって、あのかわいらしいふわふわ感はどこへやら……。少し寂しい。
相変わらす桃の世話も手伝ってくれるし、頼もしいのだけれど。
その後、桃の一族は強い子供がたくさん生まれ……。
桃源郷の中を走り回った。
桃の木は咲き誇り、桃の精霊たちがあちこちで舞を舞った。
桃源郷は賑やかな声でいっぱいである。




