桃姫、伯父の恋人を知る
「もしかして、天宮の侍女と語ってここに通ってくださったのは、伯父様の代わりに私を見守ってくださっていたのですね」
伯父様が私に問いかけるような視線を寄越したので、私は話を続けた。
「シュアンラン様は天宮の侍女として仙桃の受け取りをしていたのです。その際に私の話を聞いてくれたり、流行りごとを教えてくれたり、時には珍しいものを分けてくださいました。今思えば、ジンイェン様と共に私を支えてくださっていたのでしょう」
「ほ、ほんとうか……」
「少しでも……貴方方の力になりたかったのです」
天宮の北衛軍の副将なのだ。わざわざそうしてくれていたのは……伯父様への想いがあってのことだろう。
「シュアンラン……君ならどんな男神だって望めるだろうに」
膝から崩れた伯父様をシュアンラン様が抱きしめるように支えた。
「私が望むのは貴方だけです」
シュアンラン様の言葉がジンイェン様の言葉と重なった。
そうだ……好きな人を望めないなら、どんなに他の人に好かれても仕方がない。
そのうち抱きしめ合う二人を私は胸を熱くして見守っていた。
伯父様の好きな人はずっと伯父様を待っていてくださったのだ。
感動していると、私と目が合った伯父様が慌てだした。
「あ、あの、話はわかったから、まずは離れてくれ。ヤオヤオが見ている!」
「ええ」
パッと離れた二人だが、空気は甘い。
「しかし、魔が仙界を襲うこの事態に、貴方ほどの人が桃源郷に留まっていていいのか? 他に守るべきところもあっただろう」
伯父様が疑問を投げかけると、彼女は説明をしてくれた。
「私がここを守るように仰せつかったのは、魔との戦乱に乗じて桃源郷を潰しにかかる輩を排除するためです。魔はとっくにジンイェン様が祓っておられるでしょう」
「えっ!?」
「千年前、明らかに桃源郷の結界が壊された形跡がありました」
その言葉に伯父も私も固まってしまった。
「な……なにを……言っているんだ? まさか、わざと桃源郷を襲わせたってことか?」
「却下された案ですが、天都から魔を反らすために桃源郷を犠牲にする案も出ていました」
「……それが仕方のないことだったとしても、我が一族は……壊滅状態だったのだぞ? 一族と精霊は事前に避難させるべきだろう⁉」
思わず伯父が叫んだ。誰かに仕組まれていたことだったなんて、まさか……。
「そうです。もしもその案が通っていたとしても、犠牲は最小限に抑える筈でした。そもそも、ジンイェン様の軍が魔を祓ったのですから桃源郷を襲わせる必要はなかった」
直接手を汚さす、結界を壊すだけで桃源郷を壊滅状態にした者がいるのだ……。
「桃の一族など……いなくなってもいいと……そんな」
伯父様が悔しさに震えていると、シュアンラン様が続けた。
「天帝様もジンイェン様も私も……桃の一族を守りたいと思っています。タオヘン……私と結婚してください。私は武家の娘。必ずや強い子をたくさん産んでみせましょう。副将のほうはこの千年で後継を育てました。すでにあなたの元に嫁ぐ準備はできています」
その言葉に伯父様が顔をあげる。シュアンランの真剣な表情に嘘はないようだった。
「なにもかも……私のために捨てるというのか?」
力のない伯父の声がシュアンランに向けられる。
彼女はにっこりと笑った。
「あなたへの愛を捨てる気はありません」
「桃の一族を一緒に復興してくれると?」
「あなたが私を愛してくれるなら」
「そんな……そんなのは……ずっと……あい……」
伯父様がシュアンランに愛の告白をしようとしたとき、またハタと目が合った。
「ゲェホ、ゲェホ、ゲホ……!」
急に我に返った伯父様が咳ばらいをした。私は慌ててまあまあと手をかざした。
「私のことはお気になさらず、続けてください伯父様」
「……い、いや、ヤオヤオ」
ワクワクと見つめていると、視線を外す伯父様。
ドゴオオオン……。
その時、外から大きな爆発音が聞こえた。
「な、なに⁉」
慌てる私と伯父様とは逆にシュアンランは冷静だった。
「始まりましたね。弔い合戦です」
そうして彼女はそう言い放った。




