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第5章 初バズと“繋がる力”

配信が終わった後も、エレノアの胸の高鳴りはしばらく収まらなかった。


静まり返った部屋の中で、彼女は椅子に座ったまま、水晶を見つめている。


つい先ほどまで、そこには無数の言葉が流れていた。

見知らぬ誰かたちの声。


(……皆様と、確かに繋がっておりましたわ)


あの戦いは、一人ではなかった。

それが何よりも強く、鮮明に残っている。


「お嬢様……すごい声が聞こえておりましたが、大丈夫でございましたか」


控えめに扉が開き、ミレイユが顔を覗かせる。


「ええ、大丈夫ですわ」


エレノアは振り返り、微笑む。


「少々、賑やかではありましたけれど」


「賑やか……?」


ミレイユは首を傾げる。


その反応に、エレノアは小さく笑った。


「後ほど、少しお見せいたしますわ。とても不思議な体験でしたの」


「ぜひ、拝見したいです」


その素直な言葉に、エレノアは頷く。


(そうですわね……これは、一人で抱えておくには少し惜しい)


翌日。


王都の一角。

とある魔導通信店の前で、人だかりができていた。


「これか……昨日の配信ってやつ」

「この“ルナ・ルミナス”ってのがそうらしい」


店頭に設置された水晶には、昨夜の映像が再生されている。


罠にかかる姿。

慌てふためく様子。

そして――ボスを倒す瞬間。


「ははは、貴族なのにリアクションが素直すぎるだろ」

「でも最後、普通に上手くなってないか?」


笑い声と感嘆が混じる。


そして、その場にいた一人が呟いた。


「……なんか、応援したくなるな」


その一言に、周囲がわずかに頷く。


映像は、そのまま他の水晶にも転送される。


酒場。

宿屋。

商人の集まる市場。


少しずつ。

しかし確実に。


“ルナ・ルミナス”の名は広がっていった。


一方その頃。


エレノアは自室で、画面を前に固まっていた。


「……これは、何かしら」


視界に浮かぶ数字。


登録者数:432


視聴履歴:急増


推薦表示:拡散中


「……四百?」


思わず、同じ言葉を繰り返す。


昨夜は百五十程度だったはず。


それが、たった一晩でここまで増えるとは。


「お嬢様……その数は」


隣で覗き込むミレイユも、さすがに驚いている。


「私にも、正確な仕組みは分かりませんが……」


エレノアはゆっくりと息を吐く。


「どうやら、昨日の配信がどこかで広まっているようですわね」


(これが……バズ、という現象でしょうか)


言葉としては知っていた。

だが、実感としては初めてだ。


画面の端に、新たなコメントが表示される。


『昨日の見た』

『面白かった』

『今日もやる?』


「……まあ」


エレノアの口元が緩む。


期待されている。


その事実が、素直に嬉しい。


夜。


再び、水晶の前に座る。


昨日とは違う緊張がある。


“見られている”という実感。


だが――それは決して嫌なものではない。


むしろ、背筋を伸ばしたくなるような感覚。


「……配信、開始」


光が灯る。


視聴者数:120


「……」


一瞬、言葉が止まる。


昨日の開始時とは、桁が違う。


だがすぐに、軽く息を整える。


「ごきげんよう皆様。本日も月明かりの下でお会いできて嬉しいですわ」


自然と、あの挨拶が口をつく。


「ルナ・ルミナスでございます」


コメントが一気に流れる。


『きたあああ』

『本物だ』

『待ってた』


視聴者数:180


「本日は……昨日の続きを、少々進めてみたいと思います」


声は落ち着いている。


だが胸の奥では、確かな熱が灯っていた。


ゲームを起動する。


昨日よりも、操作に迷いが少ない。


コメントを拾う余裕もある。


「こちらに進むと、罠があるのですね」


『そうそう』

『覚えてるの偉い』


「同じ失敗は繰り返したくありませんもの」


軽く微笑む。


そのやり取りに、コメントがさらに増える。


視聴者数:250


(……皆様がいるから、前に進める)


その感覚が、はっきりと形になり始めていた。


しばらく進んだ後。


ふと、エレノアは立ち止まる。


振り返るように、視線を画面に向ける。


そして、静かに口を開いた。


「皆様」


コメントが一瞬だけ緩やかになる。


「昨日の戦いで、私は一つ理解いたしましたの」


言葉を選びながら、続ける。


「この力は、私一人のものではございません」


視聴者数:300


「皆様と共にあることで、初めて意味を持つものですわ」


コメントが再び流れ始める。


『いいこと言う』

『泣いた』


エレノアは、ほんの少しだけ目を細める。


「ですから――」


そして、ゆっくりと言い切る。


「これは、私一人の勝利ではありません」


「皆様と共に掴んだ結果ですわ」


その瞬間。


コメント欄が、これまでで最も激しく動いた。


視聴者数:400


『うおおおお』

『推せる』

『これは伸びる』


その光景を見ながら、エレノアは確信する。


この力は。


この“繋がる力”は。


決して小さなものではない。


むしろ――世界を変え得るほどの可能性を秘めている。


月明かりが、静かに差し込む。


その下で、ルナ・ルミナスは笑っていた。


昨日よりも、少しだけ確かな自信を胸に。











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