第15章 月は世界を照らす
火種は、やがて炎となった。
王城での接触。
聖女との対話。
その断片的な情報は、瞬く間に王都中へ広がっていく。
噂は尾ひれをつけ。
物語となり。
そして――
「見てみたい」という欲求へと変わった。
夜。
配信開始前。
エレノアは水晶の前で、静かに目を閉じていた。
(……ここが、一つの区切りですわね)
これまで積み上げてきたもの。
視聴者。
流れ。
影響力。
すべてが、今この瞬間に集まりつつある。
「配信、開始」
光が灯る。
視聴者数:12000
「……」
一瞬、空気が張り詰める。
だがエレノアは、いつも通りに微笑んだ。
「ごきげんよう皆様。本日もお越しいただき、ありがとうございます」
変わらない挨拶。
それが逆に、場を落ち着かせる。
コメントが一斉に流れる。
『きたあああ』
『今日やばい人数』
『歴史的瞬間』
視聴者数:15000
エレノアはゆっくりと周囲を見渡すように視線を動かす。
(……これが)
自分が築いた“場”。
一人ではない。
だが、確かに自分から始まったもの。
「さて、本日は――」
少しだけ言葉を区切る。
「特別な企画をご用意しておりますの」
コメントがざわつく。
『何する!?』
『大型企画?』
「本日は、皆様と共に“大会”を開催いたしますわ」
その一言で、空気が弾ける。
ゲーム画面が映し出される。
対戦型の人気タイトル。
だが今回は――
「参加型です」
はっきりと告げる。
『!?!?』
『参加できるの!?』
『うおおおお』
視聴者数:18000
「ルールは簡単」
エレノアは説明を始める。
「事前に登録していただいた方々の中から、順に対戦していきます」
「そして――」
少しだけ微笑む。
「最後まで勝ち残った方には、特別な報酬をご用意しておりますわ」
コメントが爆発する。
『神企画』
『絶対参加する』
『これはやばい』
試合が始まる。
次々と挑戦者が現れる。
勝利。
敗北。
歓声。
悔しさ。
すべてが混ざり合い、一つの“場”を作り上げていく。
「……お見事ですわ」
エレノアは対戦相手を称える。
その一言で、場の空気が温かくなる。
時間が進む。
視聴者数:20000
もはや、誰も“ただ見ているだけ”ではない。
参加している。
関わっている。
共に、この時間を作っている。
(……これですわ)
エレノアは確信する。
“配信”とは。
一方的なものではない。
双方向。
そして――
共創。
最後の一戦。
決勝。
緊張が走る。
コメントが止まる。
誰もが見守る中――
勝敗が決まる。
「……優勝、おめでとうございます」
エレノアは静かに告げる。
そして。
「本日の報酬は――」
一度、間を置く。
「私からの特別な配信参加権といたしますわ」
『!?!?!?』
『神すぎる』
『伝説回』
視聴者数:23000
歓声が溢れる。
画面越しに、それが伝わってくる。
エレノアは、ゆっくりと目を細める。
(……届きましたわね)
王家でもない。
神殿でもない。
別の形の“力”。
人と人が繋がることで生まれるもの。
「皆様、本日はありがとうございました」
静かに頭を下げる。
「これからも――」
そして、微笑む。
「共に楽しい時間を作ってまいりましょう」
配信終了。
光が消える。
静寂が戻る。
だが。
その静けさの向こう側では。
確実に、何かが動いていた。
王城。
アルベルトは報告を受け、言葉を失う。
神殿。
セレスティアは静かに微笑む。
商会。
ダリウスは満足げに頷く。
そして――
エレノア・フォン・ルミナス。
彼女は窓の外の月を見上げる。
「……世界は、広いですわね」
小さく呟く。
だがその声には、確かな手応えがあった。
かつては“選ばれる側”だった少女は。
今や、自ら光を放つ存在となった。
その光は、まだ小さい。
だが確実に。
多くの人々を照らし始めている。
そして――
その輝きは、これからさらに広がっていく。




