エピローグ その先にある光
あれから、しばらくの時が流れた。
王都の景色は変わらない。
石畳の道。
行き交う人々。
だが――その“中身”は確実に変わっていた。
「昨日の配信、見たか?」
「ああ、あの大会のやつだろ」
「参加できなかったのが悔しいな」
街角で交わされる会話。
かつては貴族や神殿の話題が中心だった場所に、今は“配信”という新しい文化が入り込んでいる。
商会でも変化が起きていた。
「ルナ様が紹介された商品は?」
「すぐに手配しろ。遅れるな」
流通の速度が変わる。
需要の発生源が変わる。
それはもはや、一過性の流行ではない。
“仕組み”として定着し始めていた。
王城。
アルベルト・クラウディウスは、窓の外を見つめている。
遠くに見える王都。
その中にある、新たな流れ。
「……制御できぬものではない」
小さく呟く。
否定ではない。
受け入れでもない。
ただ、認識。
王として、無視できない現実。
その背後で。
「面白い時代になりましたね」
セレスティア・ルクレールが静かに微笑む。
「ええ」
アルベルトは短く答える。
「だが――」
少しだけ間を置く。
「それをどう扱うかが、問題だ」
その言葉に、セレスティアは何も返さない。
ただ、静かに目を細めるだけ。
一方。
ルミナス侯爵邸。
「お嬢様、本日の準備が整いました」
ミレイユが報告する。
「ありがとう」
エレノアは軽く頷く。
机の上には、水晶。
そして、その隣にはいくつかの資料。
企画書。
提携案。
配信は、ただの遊びではなくなっている。
だが――
「……とはいえ」
エレノアは小さく笑う。
「やることは変わりませんわね」
水晶に手を伸ばす。
(楽しいことを、するだけ)
それがすべて。
だがその“すべて”が、今は大きな意味を持っている。
「配信、開始」
光が灯る。
視聴者数:25000
「ごきげんよう皆様」
変わらない声。
変わらない笑顔。
『きた!』
『待ってた!』
『今日も楽しみ!』
コメントが流れる。
その一つ一つが、確かな繋がり。
エレノアは、その光景を見つめながら思う。
(……ここが、私の場所ですわね)
王妃でもなく。
誰かの付属でもなく。
自分で作り上げた場所。
「本日も、楽しんでまいりましょう」
その一言で、場が動き出す。
月明かりのように。
静かに。
だが確かに。
彼女の光は広がっていく。
そしてその先には。
まだ見ぬ景色が、いくつも待っている。
物語は終わったわけではない。
ただ――
新たな日常が始まっただけ。
彼女は今日も、世界と繋がる。
光の向こう側で。
――Fin。




