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第13章 再会の場

王城。


白亜の壁に囲まれたその空間は、変わらぬ威厳を放っていた。

磨き上げられた床。

高く伸びる柱。


そして――


かつて、エレノアが“未来の居場所”として歩くはずだった場所。


「……」


彼女は一歩、足を踏み入れる。


その歩みは静かで、揺るがない。


過去に対する感傷は、すでに整理されている。


残っているのは――現実だけ。


案内された先は、小規模な謁見室。


公式の大広間ではない。


(形式張らない、ということですわね)


つまり。


交渉の場。


扉が開かれる。


中に入ると、そこには一人の男が立っていた。


アルベルト・クラウディウス。


かつての婚約者。


王太子。


その姿は以前と変わらない。


整った顔立ち。

洗練された立ち振る舞い。


だが――


その視線だけが、わずかに異なっていた。


「……久しいな、エレノア」


先に口を開いたのはアルベルトだった。


低く抑えた声。


「ごきげんよう、殿下」


エレノアは優雅に一礼する。


その所作は完璧。


だがそこに、かつてのような従属の色はない。


完全に対等な距離。


短い沈黙。


互いに、相手を観察する。


(……変わりましたわね)


エレノアは内心でそう感じる。


表面的ではない。


“立場”の変化。


それが空気に現れている。


「単刀直入に言おう」


アルベルトが口を開く。


回りくどさはない。


「お前の活動について、確認したい」


「確認、ですの?」


エレノアは首を傾げる。


「配信、というもの」


「そして、その影響力」


言葉を選びながら続ける。


「王国にとって、無視できるものではなくなっている」


率直な評価。


かつての軽視は、もはやない。


「……光栄ですわね」


エレノアは静かに微笑む。


「殿下にそのように評価していただけるとは」


その言葉には、わずかな皮肉が混ざる。


だが露骨ではない。


あくまで“上品に”。


アルベルトの眉が、わずかに動く。


だがすぐに表情を戻す。


「その力を、どう使うつもりだ」


問い。


本質的な部分。


エレノアは少しだけ考える素振りを見せる。


そして――


「皆様と楽しむため、ですわ」


あっさりと答える。


あまりにもシンプル。


だが、その裏には多くの意味が含まれている。


「それだけか?」


アルベルトの声がわずかに低くなる。


「ええ」


エレノアは即答する。


「ですが、それが何よりも重要です」


その瞳はまっすぐ。


揺らぎがない。


「……理解できんな」


アルベルトは小さく息を吐く。


「人を動かす力を持ちながら、それを遊びに使うなど」


その言葉には、王族としての価値観が滲む。


力は統治のために使うもの。


それが常識。


エレノアはその言葉を静かに受け止める。


そして――


ほんの少しだけ、笑った。


「では、殿下」


一歩、距離を詰める。


「人は、何によって動くとお考えです?」


問い返す。


アルベルトは一瞬だけ言葉に詰まる。


「……権威、あるいは利益」


やや間を置いて答える。


王族として、正しい答え。


「なるほど」


エレノアは頷く。


「確かに、それも一つですわね」


そして、続ける。


「ですが――」


わずかに視線を細める。


「“楽しい”という感情も、人を動かしますわ」


その一言で、空気が変わる。


「楽しさは、人を集めます」


「人が集まれば、流れが生まれます」


「流れが生まれれば――」


少しだけ間を置く。


「それは、力になります」


静かな声。


だが、確信に満ちている。


アルベルトは黙り込む。


その理屈は、否定しきれない。


現に今、目の前でそれが起きている。


「……だからこそ、だ」


やがて口を開く。


「その力を、王国のために使え」


本題。


命令ではない。


だが、提案とも言い切れない。


中間。


エレノアはその言葉を聞き、わずかに目を伏せる。


(来ましたわね)


予想通り。


そして――


ゆっくりと顔を上げる。


「お断りいたしますわ」


迷いなく、言い切る。


沈黙。


重い空気。


アルベルトの表情がわずかに強張る。


「……理由は」


低く問う。


「簡単ですわ」


エレノアは微笑む。


「私は、誰かに使われるつもりはありませんもの」


その言葉は、静かで。


そして決定的だった。


かつては、王妃として“選ばれる側”だった。


だが今は違う。


自ら選び、自ら動く。


その立場。


「……変わったな、エレノア」


アルベルトが呟く。


その声には、複雑な感情が混ざる。


驚き。

苛立ち。

そして――わずかな後悔。


「ええ」


エレノアは穏やかに答える。


「おかげさまで」


その言葉は、丁寧でありながら鋭かった。


扉の外で、気配が動く。


誰かが、このやり取りを聞いている。


――聖女。


だがその存在に気づきながらも、エレノアは何も言わない。


ただ静かに、アルベルトを見つめる。


「……本日は、このあたりでよろしいでしょうか」


最後にそう告げる。


主導権は、すでに彼女の側にあった。


王城の空気が、わずかに変わる。


それはまだ小さな揺らぎ。


だが確実に。


“力の構図”が変わり始めている。












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