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生活安全部 情報特務課

今回もゲームはお預けです。

東京のS区を黒いワンボックスカーが走っている。一見すると犯罪組織に使われそうな遮光性の窓に闇に溶け込む黒い大容量の車であるが、その実、警視庁の捜査車両、いわゆる覆面パトカーである。犯人らに使われるであろう車両を使用する事で特性を理解する意図があるらしい。


乗車しているのは前に若い男性が2人、最後部は誰も乗車せず、3人掛けの後部座席の真ん中に1人、貫禄のある中年男性が座っている。

この3人は1月前に刑事部から新設の課に異動になった。有り体に言うと左遷であるが、新設の『情報特務課』の重要性を理解しているため、文句は無かった。


助手席で糸目の男性、松林巡査が口を開く。

「そういえば、何でこの2人が選ばれたんか、聞いてませんでした」

「必要あるか?」

後ろからドスの効いた声が返ってくるが、飄々と返す。

「だって、警視監の補佐が巡査2人って、明らかにおかしいですよね?」

「あ、俺もそれ気になってました」

運転手の寺田巡査も追従する。

「そういう所だよ」

わからないという顔で続く言葉を待つ。


「情報特務課ってのはな、基本的には何でも屋だ。そんな所に既存知識で凝り固まったやつ入れてみろ。これは自分の仕事じゃないって、仕事放り出すぞ。お前ら2人は、まず俺への遠慮がない。そして若く、2人で連携が出来る。」

川中島警視監は2人にそう言うと足を逆に組み直す。

「若者扱いやめてください。若者はそういうの一番嫌がるんですよ、知ってます?」

「なんだそれ、妙に含みがあるな」

「新卒100人に聞いたアンケート調査のランキングみたいなやつで見ました。若者扱いされてこき使われるのが嫌って」

「最近はそういうのがあるのか、本当に世の中変わったな」

「調べればすぐ出てきますよたぶん、スマホ使っていいですか?」

「ああ」

「ヨッシャ、許可出たんでゲームでもしよ」

「あ、先輩だけズルい」

「おい!」

「あ、いてて冗談ですって、肩に手ーかけないで、助けてテラ」

「自業自得じゃないですかー、ってあれ?」

「ん?なんや?」


矢継ぎ早に車内での会話が温まってきたが、車が赤信号で止まったとき、ふいに寺田が何かに気付いた。


「先輩、あそこにいるのって学生時代にカレー屋で泣いてた男の子じゃないっすか?」

「んー?ああホンマや。たしかアリス君て言っとったな」

「ん?アリス?」


川中島警視監がアリスという名前に反応する。


「警視監も知っとるんですか?」

「ああ、まあ先ずは2人の話を聞こうか」


川中島が気まずそうに顔を伏せると松林が話しだす。


「あれは、俺とテラが金沢にある大学に通ってた頃の話です。小中高だけでなく、まさか大学まで一緒になるとは思ってなかったんですが、コイツとは大学でも一緒にメシ食いに行く仲でした。そんな中、金沢カレーの美味い店がありましてね。そこに週3は通う常連だったわけです。」

「ある日、いつも通り先輩とカレーを食べにいったんすけど、カウンター席で300円の円盤カレー食べてボロ泣きしてる彼を見まして、普通は声かけないんですけど、店員さんもオロオロしてたんで、食券買ったあと隣に挟むように座って話きいてみたんす」

「そしたらアリス君っちゅう名前で、このカレーが離別したオヤジさんが気まぐれに作ってくれたカレーと同じ味がするーゆうてですね」。

「それで先輩と2人で、何かあげたい気持ちになりまして、カツ一切れずつですが、アリス君の皿に乗せてあげたんです。そしたら一瞬で泣き止んで、お礼を言ったんすよね」。

「正直あんときはびっくりしたわ。それまでボロ泣きだったのに急に泣き止んで。あまりに印象的だったから今まで覚えてたって話でした」。


精神的な障害を持っている人間は、その原因に関連する情報がトリガーになって、感情的になる。


「お前らの連携力が高い理由がわかった気がするよ」

「まあ、ここまでやりやすい相手もいないでしょうね。彼の事覚えてたのはアリス君っちゅう珍しい名前も理由ですね。さて、今度は警視監の話ですよ」

「ああ」


川中島はどこから話そうか思案しながら前置く。


「この話は誰にも話したことないから、長くなるぞ」

「ええ?長くなるんです〜?簡潔にまとめてくださいよ」

「それに有杜の事だけじゃないからな、この事を語るには10年前の事件の真相を話さなきゃならん」

「って今捜索してる死体と関係あるって事っすか?」

「ああ」


これは今捜査している事にも、俺の家族にも関係している事だ。この2人がまさか有杜と会った事があるというのも以外だったがな。



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