襲来(妹と義妹)
機械的なスーツの外に出ると有杜は深呼吸をする。普通しばらく体を動かさなければ、痺れが発生したり、バランス感覚がおかしくなったりと体の不調があるはずだが、その感覚はない。
例えば、2時間程でも座ってパソコンに向き合っていたとしよう。肩は凝るし、席を立った瞬間に血の流れが急激に変わるためか、軽い目眩を起こす事もあるだろう。
普通立って、普通に歩ける。
スーツの機能の一つだろうと納得しながら頭を振る。
部屋の鏡をみると寝転がっていたにも関わらず、髪はある程度整っており、そのまま移動しても大丈夫そうだ。
「ニア…か?」
これに関してはニアが何かやったと考えるのが妥当である。
ひとまず、目ヤニが付いているため顔だけ洗うか。部屋から出て、階段を降りていく。
◇ ◇ ◇
時は10分さかのぼり、有杜宅。
ニアは自分を『新しく有杜の勤めている会社の先輩』に仕立て上げるべく、忙しなく動いていた。
リビングにはゲーム製作などの仕事道具と思われるメモやノート、デスクトップパソコンはプログラミングソフトウェアを立ち上げた状態でスリープ状態にする。あふれる生活感を抑え、仕事場の先輩が来るから少し片付けた感を演出する。
インターホンのマイクに向けて、「今出ます」と応えると映像の2人がざわついた。
兄の家に女がいる。
渋そうな顔をする1人とワクワクしたかのような1人。
ガチャっと音を点てて玄関ドアが開く。
「どなたでしょうか?」
「あ、こんにちは!私、出久葉瑠っていいます。有杜の妹です。」
活発そうな女性は葉瑠と名乗ると少し畏まった態度になる。今度は後ろにいた女性が少し前に出て話す。
「あ、あの。私は透華です。お姉さんは?兄さんとどういった関係ですか?」
「あー、妹さん達ね。とりあえず中に入って、お茶を飲みながらでも話は出来るから、と言っても私家主じゃないんだけどね」
先程までのニアとは違い、流暢に話す。
AI学習とは、反復と正しい情報の精査である。あらゆる映画、アニメ、作品から『会社の先輩』像を抽出して融合する。相手の反応や作品の人気度から正解を判断し最適化していく。
2人は狐につままれたかというように見つめ合うと、お邪魔しますと言いながら家に入る。
兄の家には何度も来ているし、畏まる必要も無いはずなのに、まるで他人の家に入るかの様だ。
リビングに入るとニアは「座って待ってて」と言う。
不明点は多いが、待っててと言われると素直に待ってしまうのが日本人というものだ。特に妹どうしで会話することもなく、お茶が目の前に置かれる。
「お昼も近いし、完食って感じでもないから、本当にお茶だけだけど」
「気にしないでください」
「で、私と出久君の関係だっけ?」
対面に座った女性は言う。
「ただの会社の先輩だよ。ウチの会社、出社しなくても良くてさ。リモートワークなんだけど、機材の組み立てとか、入ったばっかりで教える事も多いから訪ねてきたってこと」
それを聞いてホッとしたのか透華はお茶を少し啜る。葉瑠はゴクゴク飲んでいた。
「兄には会社辞めたって聞いてたので、心配してたんです。新しい職場が見つかったんですね」
「お姉さん、お名前は?まだ聞いてないけど」
丁寧に話す透華と、食い気味に聞く葉瑠。
「私?ひとまずはニアと名乗っておくわ。コードネームってやつね。私たちの業界って本当に噂や世間話から情報が漏れたりするから、基本的に本名を名乗らないの。ニアさん?でもニア先輩でも、ニアって呼び捨てでも大丈夫よ」
「ではニアさんで。ニアさん、兄はどこに?」
「透華ちゃん、守秘義務とか社外秘って言葉知ってるかしら?」
「…兄の居場所は会社の秘密って事ですか?」
「いいえ、普通に寝室にいるわ。でも部屋の中は、そういった秘密でいっぱいだから、入っちゃいけないって言おうとしたの。そんなに怖い顔しないで」
透華は身を乗り出していた体制を後ろに戻しながら慌てて、「そんなつもりじゃ」というような仕草を見せた。
一方で葉瑠は、そんな透華を後ろから見て小声で「兄さんに何かあったら、タダじゃ置かないんだからっ」と、透華の言いそうな言葉でからかっている。
「そのうち降りてくると思うから、お昼ご飯は一緒に外で食べると良いわ」
「良いですね、おにぃに何奢って貰おうかな?」
「ちょっと葉瑠、兄さんだって就職したばかりなんだから、あんまり負担掛けないの」
「別に良いんじゃないかしら、彼、見た感じあまり外出するタイプじゃないし、連れ回して奢らせるくらいの方が、兄としての体裁を保てて喜ぶんじゃない?」
「ですよね、透華が考えすぎなんだよ。ニアさんも行きますよね?」
「私は自分の食生活管理してるから、行かないわ。歳をとると痩せなくなって嫌ね」
ニアは口に手をあてて苦笑する。
そんな中、聞こえた階段の軋む音で会話を中断するのだった。
キャラの内面描写少なくてスミマセン。
感情って難しいですよね。




