第七話 新しき超能力
幼稚園に通い始めて数ヶ月。
僕が思っていた通り友達なんて出来なかった。いや、分かってはいたのだ。だってせいぜいが3単語の組み合わせでしか会話ができないし、子供らしく感情的だ。そんなのが、前世も合わせれば50にもとどきそうなおじさんと合う訳がなかった。
唯一話せるのは僕のクラスを担当している職員だけ。そんな現状だからこそさらに超能力に没頭していった。
ある日、壁を越えた。そう、壁を越えた。そう形容するのが正しい感覚だろう。突然世界が開けた感覚は超能力が目覚めた時に酷似している。それと同様に、自分の新しい超能力が何かわかる。
「再生」
そう呟いて超能力を発動させる。最近の超能力の酷使で徐々に減ってきていた天使の灰が少しだけ増えた。
「…」
もう、本当に意味がわからない。
前々から思っていたのだが、この力はどんな能力なのだろう。一番最初に思いついたのは崩壊の能力だった。でも、それだと不思議なことがある。その崩壊させたエネルギーはどこに行っているのだろうか?と言う疑問。もしも、その世界にアインシュタインがいるならばE=mc2条って言う式があるはずだ。その式が正しいのであれば、崩壊した質量はエネルギーに変換されるはず。にも関わらず大爆発どころか火花すら出ない。
でも、超能力という未知の力だからあまり深くは考えてこなかった。
しかし、この再生の力で僕は分かった。僕の力は崩壊でも再生でもない。今までは崩壊の方しか発言していなかっただけだった。だから分からなかったのだ。
僕の能力は…
「壊転と生転」
二つで一つの能力。
そして分かった。分かってしまった。
超能力は生まれ持っての物である。それは覚醒していなくても身体に宿しているのだ。
だからこそ僕はこれまで死なずに生きてこれたのだと分かった。崩壊の力は途轍もない。それこそ一瞬で全ての物を砂に変えてしまうのだから尚更だ。その強い力は自身にも向く。常に身体を崩壊させ続けるのだ。普通ならこんな状態、すぐに死んでしまう。しかし、その崩壊する力に対抗する力が再生の力だ。
今までは感知できなかったが、能力が覚醒したことで分かった。崩壊する力と再生する力が拮抗していることに。
今までは身体に抵抗感を覚える事がしばしばあった。その正体が今分かったのだ。
ーガチャ
「鞠、帰ったわよ」
僕が今の感覚に考えを巡らせていると母が帰ってきた。
その手には買い物袋を下げている。
「鞠、今からご飯作るから、その天使の灰を片付けておきなさい」
「…うん。分かった」
僕は母に言われるがままに片付けた。しかし、心はここに在らずと言った感じで、今感じている感覚に全部振り分けられている。
僕の異変に気がついたのか、母は尋ねてくる。
「鞠、どうしたの?何かあった」
そんな問いにも心ここに在らずだ。
と言うのも。新たに開眼した感覚は、鞠に途轍もない情報量を与えていた。壊転一つでもかなりの情報量だったのに、生転の方は壊転に比較にはならない程の情報量だ。
そんな二つの超能力が合わさる事で、脳が処理できない程の情報が滝の様に常時流れ込んでいた。
あまりの情報力に脳が情報を処理することを諦めて思考を放棄することで、何とかしていると言った状況だった。
僕の反応のなさを見て母は慌てた。
「ど、どうしましょう。鞠の反応がない。きゅ、救急車を」
母が電話をする。そこまでは認識できるが、何を喋っているかまでは分からなかった。
それから情報の海に立ち尽くすこと数十分。体感的には数時間にも数日にも感じる程だったが、現実の時間的に言えばそのぐらいだろう。
ドタドタと階段を急いで駆け上がる音が聞こえる。
母が玄関を開けて待っていたのか、すぐに救助隊が部屋の中に入ってきた。
「これがそのお子さんですか?」
「はい、そうなんです。いくら話しかけても反応がなくて」
「わかりました。まずは病院に運びましょう」
棒立ちしている僕を救助隊の人が抱え上げてタンカーに寝かせる。
「よし!固定したな!まずは救急車に乗せろ」
固定したのを確認すると、ものすごい勢いで僕を運び出して行った。
母も連れ添うように隣に着いてきている。それを見て認識することはできるが、あまりの情報の多さにそれをアウトプットできない。
救急車に乗せられると、すぐに病院へ向かった。
〜〜〜
それから、何時間経ったのだろうか。体感的には数日とも数十日とも言える長い時間だった様に思える。それでも、現実の世界は案外長いようで、まだ20分も経っていない。
運ばれている救急車の中で母が懸命に話しかけてきているのは分かったが、何もできない。
病院に着くと、病院側と話はついていたのか、すぐに医者が駆けつけて診察を始めた。
「呼吸、正常。脈拍、正常。血圧、正常。SpO2、98正常。瞳孔は縮まっているな」
次々と確認していく。
「あの!うちの子は大丈夫なんですか?!」
母の何とも言えない、泣き出しそうな、焦っているような声は聞いてるこっちが不安になってくる。
「わかりません。ただ、今のところバイタルは安定しています」
遠くから医師と母のやりとりが聞こえてくる。
できることなら大丈夫なことを母に伝えてあげたい。
「先生。レントゲンは取りました。データを送ります」
いつの間にかレントゲンを取られていたらしい。それらしい部屋に入った訳でもないのに撮れるとは、技術の進歩に感心してしまう。
そんなくだらない事を考えているとは知らずに、医師はいろいろな資料を見ていた。
「ふむ、体に異常はないか。なら、脳の方にあるのかもな。脳波を測ってくれ」
医師がそう言うと看護師が次々と準備を始めた。
何か頭にヘルメットの様なものを被せられると少し駆動する音が聞こえてきた。
その機械が脳の中を見ていると思うと怖くなる。
「先生。終わりました」
「ふむ、……これはすごいな。全ての数値が異常に高い」
「先生どうしますか?」
「…脳の不活性剤を5mm打て」
「はい」
プスっと肌に何かが刺さった感触がした。そして次の瞬間には僕は意識を失った。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




