第五話 お引越し
初めてB16番区に行った日から1ヶ月たった。
部屋を見渡す。至る所にダンボールが重なって置いてある。本来テレビが置いてあった場所はガラッとした何もない空間になっていた。そう引越しだ。
1ヶ月前から羽振りが良くなった母がついに引っ越しをするのだ。マジで思っているのだが、いったいそんなお金どこから出てくるのだろうか。前よりも仕事を増やしているどころか減っている気がする。それなのにも関わらずお金は増えた。本当にヤバいところに身売りとかしてないよね?
でも、そんな事を聞けるわけもなくモヤモヤとした気持ちがずっと続いているのだ。
「ほら鞠、引っ越し業者がきちゃうわ。準備しましょう」
最近は筋力も少しついて自由に体を動かせる様になり、走れる様になった。たった1ヶ月なのに子供の体は成長も早くどんどんできる事が増えていく。そのことが嬉しくて、明日に希望を持った日々を送れる。そのことがどれだけ素晴らしく貴重なのかは、前世の年老いてく体を経験した者にしか分からない。
体も成長したが、超能力の方も成長した。母に買ってもらった天使の灰を使って超能力の訓練をする事で効率が上がり追い込むことが簡単になった。あとの時はあとちょっとで追い込めそうなのに、頭が痛くて取りにいけない事が頻発していた。
そんな訳でグングン成長した超能力はトイレットペーパーで言うなら二ホールを砂に変える事ができる。
もしも、トイレットペーパーのまま続けていたら母の雷が何度も落ちていた事だろう。
ーピンポーン
僕がそんな事を母に着替えさせられながら考えていたら引っ越し業者がやってきた。
母が応対しに玄関に行く。未だ変な感じな服をどうにかして行ってから対応しに行って欲しかった。
服を直していると業者が入ってきて、簡単な作戦会議をする。
「それじゃあ、私達はお外で待っていましょうか」
母に抱き抱えられると外の道路で待った。
この時代の引越し業者は昔のような肉体労働は殆どない。強いて言うならば荷物を玄関まで運ぶだけだ。そのあとは全て機械が積み込みをしてくれる。その機械が人間よりも早く作業するから、20分程度で終わってしまった。
僕はあまりの呆気なさに機械の素晴らしさを改めて実感した。前世の頃は機械音痴だったが、今世では機械のことも学ぼうと思った瞬間である。
「では、我々は先に荷物の搬入を行なっておきます。2時ごろには全て終わっていますので、その頃に着てください」
「はい。わかりました」
業者はトラックに乗ると静かに発信させた。この都市では排気ガスを出すエンジン車と言うものが無い。それは天使が世界に現れた事によって海上輸送が著しく難しくなったのが原因だ。それに完全人口都市である大和は、電気自動車が走る事を前提に作られている。故に電線が道路に埋め込まれており電気自動車は一度も充電する事なく走り続けられるのだ。
もちろんのこと自動車だけではなく、他のすべての機械製品は常に充電状態を保つ事ができる。なんともすごい都市なのだ。
「それじゃあ。新しい家の近くで時間を潰しましょうか」
それから徒歩でバス停にまで行き新しい街R60番区へと向かった。
〜〜〜
R60番区は、もともと住んでいたD95番区からかなり近い位置にある。距離で言えば電車で15分と言ったところだ。
R60a駅に着いた。
駅名がややこしくて多い東京とは違い、すべてがアルファベットと数字で管理された駅名は分かりやすい。都外民からしたら九段下駅なんて言われても分かるまい。東京の人だって怪しいぐらいだ。それとは違い、駅名を言えば大体どのへんかが説明しなくとも分かる。
まあ、一部のカメラを持った人間は発狂しそうな事だがな。
さて、駅に着いた訳だが駅内の時計を見るとまだ1時間は余裕がある。
「時間に余裕もありそうね。鞠、少しカフェに寄りましょうか」
カフェに着くと昼間とゆう事もあって席は空いていた。
母は私を抱き上げると子供同伴席と言う場所に入っていった。
どうやらこんな物まであるらしい。この都市?国は子供に手厚いのかもしれない。多分その少子化対策には異次元と言う言葉は付いてはないだろう。
子供同伴室には複数人の親子がいる。
席に着くと店員は来ず、席にあるタッチパネル式メニュー表で頼む。
「鞠は何が良い?」
母がタッチパネルを見せてきた。数はかなりあるが、コーヒーの様な大人向け商品はダメだ。感性は大人でも体事態は子供なのだ。苦い物は無理だ。
今の体は甘い物が好きだからジュースにでもしておこう。
僕はぶどうジュースをタップした。
「ぶどうジュースね。私は…カフェラテにしょうかしら」
母も選んで注文する。
この世界のカフェは接客以外はすべて機会によって行われる。故に直ぐにウエイトレスさんがお盆を持ってきた。
注文通りにカフェラテとぶどうジュースが運ばれてきた。ウエイトレスさんはにこやかな笑顔でお辞儀すると次の注文に向かった。
前世の風景とは全く違う光景に僕は興味津々だ。これまでカフェなんて来たことが無いから、初めて見る物が多い。特に、すぐに運ばれてくる商品には脱帽だ。機械化することで効率が上がる事は知っていたけれど、ここまですごいとは思っても居なかった。
これなら前世の機械化に賛成しておけばよかった。前世では機械音痴だったが為に信用が出来ず、見送った過去がある。これはちょっと反省だな。
ぶどうジュースを飲みながら母と過ごすこの時間。このたわいない時間が僕には幸せなのだ。
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時間を過ごすこと40分。歩く時間も考えるとそろそろ時間になるので店を後にした。
もちろんの事店の会計はスマートで携帯をかざすだけで会計を済ませた。
店を出て歩き始める。まだ歩幅の小さい子供だからか母について行くのがやっとだ。別にゆっくりでも時間的に構わないのだが、僕は母に抱き上げられた。
それから母に抱えられる事10分ほどで目的のマンションに着いた。
この都市自体が近年で来たと言うことでマンションもきれいだ。階段もあるがエレベーターがすべての家についてる。エレベーターに乗って3階へ着くと0301号室に向かう。
ちなみにだが、0301号室と書いてあるようにこのマンションには25階まである。
前世では高級なマンションに分類される部屋だが、この都市ではこれがデフォルトだ。
玄関は開いていて、近くに工具などが置いてある。
引っ越し業者がすでにほとんど終わらせているのか、玄関から見えた室内はきれいだ。
中を覗いていると引っ越し業者がこちらに気付いた。
「雨宮さん。いいタイミングできましたね。ちょうど作業が終わりました」
ちょっと待って!?今僕は自分の苗字を知った。え?雨宮だったの。ってことは僕の本名は雨宮鞠。こうなるのか。え?本当にちょっとまって。これが後藤、とか、斎藤、とか男っぽい名前なら鞠と言う名前も納得できた。でも、雨宮って、雨宮って…めちゃくちゃ女っぽいじゃん!
あまりの真実に呆然自失としている事など気にするでもなく、その後のやり取りはすんなり行われた。
「「「では、ご利用ありがとうございました!」」」
三人の引っ越し業者が帽子を外して礼をする。
「いえいえ、こちらもありがとうございます」
そんな社交辞令を交わすと母は玄関を閉めた。
そのバタンという音で意識が戻る。その知ってしまった情報は自分を気絶させるほどの事だった。
「それじゃあ、家の掃除をしましょうか!」
あらかたの家具設置は済んでいる。
でも、母の手伝いなんて出来ないぐらい僕は心にダメージを負っていた。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




