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半対の天使  作者: 薙叢雲剣
第一章 転生
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第四十四話 討伐作戦その6



 side 正剛少将



 横たわる鞠の死体を見て歯を食いしばる。我が思っていた中で一番起きてほしくない事が起きていた。

 倒れている鞠はピクリとも動かない。再生能力者は直ぐに自身を再生させれば大丈夫だが、それだけの力が残っていなかったのか、それとも何かしらで出来なかったのか。どちらかは分からないが、鞠が死んでいると言う事は確実だ。

 鞠の胸からだらだらと流れる血が地面を赤くしていく。その血は我々の未来を暗示している様だった。


「だめだな。我々にもう勝ち目はない」


 最後の砦たる鞠が死んでは、もう戦えるだけの継戦能力が無い。ただでさえ力が枯渇してきている状況でヒーラーたる鞠が死んだら終わりだ。

 勝てない事が確実になった今、これ以上の戦闘に意味が無くなってしまった。鞠の死体を回収したいが、ただでさえこれまで苦戦していた相手を前にしては無理だろう。

 苦虫を嚙み潰しながら我は撤退を指示する。


『全隊員に告ぐ……鞠が死んだ。これから我々は撤退する。繰り返す、今回の戦いは終了だ。我々は撤退する』


 我の気持ち的には鞠の仇を取りたい。しかしながら、部下の全員が死んでもこの天使には絶対に勝てないだろう。

 それならば被害を最小限にとどめる為、撤退した方が良い。これは隊長としての責務だ。

 しかしながら、この天使を前にして我々の撤退は困難だろう。ばらばらに逃げて天使にケツを掘られては、全滅しかねない。一つにまとまって撤退するしかない。それでもいくばくかの犠牲者が出るだろうが、全員が死ぬよりかはマシだ。


『全隊員に告げる。船の上空300メートル先で再集合、天使に一撃を与えたのちに撤退する』


 部下に命令を告げつつ、我は天使をなるべく刺激しない様に後ろの穴から撤退する隙を伺っていた。

 天使は未だ鞠の事を見ていてこちらを気にする素振りを一切しない。


『隊長、こちら第二班の浅野です。第二班と第三班の集合が終わりました。第一班は今から50秒後に集合地点に着きます』


 部下からの連絡を聞きつつ、天使の動きを細やかに観察する。

 部下が集合するまで50秒ほどあるが、それから逆算してここを飛び出すのは40秒後が適切だろう。

 AR型情報端末でタイマーをセットしつつ、さらに天使の動きを見る。

 あれから微動だにしない天使はずっと鞠の死体を見ている。その鞠の死体なのだが、心臓から全ての血が抜けたのか、血液が止まっていた。

 何とも痛々しい光景だが、我はこれを起こした一因としてしっかり目に焼き付けなければならない。それが鞠への弔いにもなると信じて。

 極30秒の時間、誰も動かない時が過ぎていた。

 あと10秒で飛び出す事を意識して下半身に力を入れる。なるべく天使に気づかれない様に超能力で身体を強化しつつ、最後の別れであるだろう鞠の死体を見た。

 その時、我は一瞬鞠が動いたように見えた。それは単なる気のせいだったのかもしれない。それは船に揺られただけなのかもしれない。それは、我が見せた幻覚なのかもしれない。しかし、確かに動いたように我には見えた。

 過去で考えても自分がなぜあの時鞠の死体を深く観察したのか分からない。ただ、何となく思うのが、我は一つの希望に縋っていたのだろう。鞠がまだ生きていると言う希望に。

 

「っつ!」


 そして我の薄かったはずの希望が神の奇跡か叶ってしまう。

 仰向けに寝ている鞠の胸は血で汚れていて見づらいが、確かにそこに空いていたこぶし大の穴が塞がっていた。

 能天使も我に一歩遅れて気づいたのだろう。能天使が慌てて後方に下がろうとした瞬間、能天使がその場から消えた。ほんの刹那遅れて音が聞こえる。あまりに早すぎて目では追えなかったが、その甲板に大きな穴が空いている事で我は察した。

 その穴から遠くで大きな水しぶきが起こったのが見えた。あまりに遠い為に小さく見えるが、数十メートルもの水しぶきである事は間違いない。

 我は、その水しぶきからゆっくりさっきまで天使が居た場所に目線を移す。そこには一瞬分からなかったが、さっきまで死んでいたはずの鞠が立っていた。

 なぜ一瞬鞠だと分からなかったと言うと、我の知る鞠の姿では無かったからだ。

 鞠の頭の上には黄金に光る輪が、背中には左半身に生えた半対の三つの大きな翼が、翼の後ろには太陽のコロナの様な輪の後光が。

 天使と言うよりかは神にも見える存在が目の前に居た。

 ゆらりと優雅に歩く鞠が閉じていた瞳を開く。その瞳は異常なまでに金色で天使の同じ様な無機質で機械的な目をしていた。

 その無機質な瞳がこちらに一瞬向けられる。直ぐにその目は我から外れたが、我は完全に固まってしまった。

 蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事で強大な何かに睨まれた我は一切体を動かすことが出来ない。

 キラキラと宝石の様で綺麗な瞳だったのに、あの瞳に恐怖心を抱いて身が震えた。

 視線が外れると我の体から緊張が抜けるのがはっきりと分かった。

 我が緊張が抜けた事でふらついていると、鞠が次の瞬間突風と共にその場から居なくなった。音速を瞬時に超えたために、とてつもない衝撃波が辺りを襲うが、何とか物にしがみついて耐える。

 我は天使によって開けられた穴から外を見る。すっかり遠いいシルエットになってしまった鞠を、我はただ見る事しかできなかった。


「鞠…」


 我は天使の輝きを放っている鞠を見ながら思う。

 あの鞠の天使の姿。あれは我も一度しか見た事のない天使の特徴と酷似していた。

 今からちょうど6年前。突如として出現した天使たちの中に鞠と酷似した天使が一体いた。その天使の特徴は三対六枚の翼に、光輪を着けていた。

 天使には位階がある事は皆も知っているだろう。その中でも特別な天使と言う物が居る。それは、子のヒエラルキーでは見る事が出来ず、父のヒエラルキーでしか現れない特徴がある。

 その差異の一つが翼の枚数だ。

 父のヒエラルキーには座天使、智天使、熾天使が居るが、どれも翼の枚数が違う。

 例えば座天使。一番天使らしくない見た目をしている。

 我は座天使は一度も見た事が無いが、軍の極秘資料で見た事がある。その書類では画像が無く文言だけだった。


[それらの車輪の有様と構造は緑柱石の様に輝いていて、四つとも同じ姿をしていた。その有様と構造は車輪の中にもう一つの車輪があるかのようであった]


 他の天使とは比べ物にならば程天使らしくない天使だ。そして、座天使には唯一翼が無い。

 次に智天使だ。

 智天使は座天使と同じように我は一度も見たことが無い。極秘資料には画像が載っていて、その見た目を見た事がある。


[そのそれぞれに四つの顔と、四つの翼があり、翼の下には人間の手の形をしたものがあった]


 極秘資料にあった画像では、智天使は四つの顔があり、それぞれ人、鷲、牛、獅子があった。智天使には二対四枚の翼が生えていて、半人半獣の見た目をした天使だった。

 そして、最後にして一番高位の天使。熾天使セラフィム。

 我はその天使をこの目で一度だけ見た事がある。6年前に見た熾天使は遠くから見たが、その存在感が薄れることなく遠くの我にも届いていた。

 部下から借りた望遠鏡で見えた天使の詳細な姿は、天使の中でも最多となる三対六枚の翼だった。

 その翼はあまりにも大きく、一枚の翼は3メートルを優に超えていた。

 後ろ姿しか見えなかったが、翼の間からちらりと見えた天使の輪は神々しいまでの美しさがあった。

 あの天使を見た後に軍にある天使の機密資料を探した。そして、その天使の正体を我は知ったのだ。

 熾天使セラフィムは極秘資料にはこう書かれていた。


[熾天使セラフィムはそれぞれ六つの翼を持ち、二つをもって顔を覆い、二つをもって足を覆い、二つをもって飛び交っている]


 あまりに抽象的でわかりずらい資料だが、この目で見たあの神々しい姿は、まさに天使の最高位にふさわしい見た目をしていた。

 しかし、鞠の背中にあったあの後光。あんなものは熾天使には無かった。それに鞠の翼は半分しかない。

 不思議な事ばかりだが、その翼の数は熾天使によく似ていた。

 

~~~


 side 鞠


 

 白い空間とも黒い空間とも分からない場所から目が醒める。

 一瞬にして意識が覚醒した僕は、目の前に居た天使にびっくりしてしまい、思いっきり殴ってしまった。

 あまりに反射的であり、僕も殴った後に殴ったことを認識した。

 ゆっくりと流れる視界の中で天使が甲板を破り地平線へ吹き飛んでいくのが見える。天使の腹が大きく抉れているのが、あれめちゃくちゃ痛そうだ。

 天使の抉れた腹を見て、自分の傷の事を思い出して、あわてて自分の体を3次元的視覚で確認してみると…。

 

「…」


 なんじゃこれ?!それが最初に抱いた感想である。

 僕は心臓を確認したはずなのに、他の場所を見て驚いてしまった。

 最初に目に映ったのは何と言っても大きな翼。2メートルはあろうかと言う大きな翼が左半身から三つも生えている。

 さっき殴り飛ばした天使よりかは翼の枚数が多い気もするが、天使の翼である事には間違いなさそうだ。

 そして、次に目についたのは頭の上にちょこんと載っている光輪だ。

 なんか左半身だけが皆の想像する天使になっていた。

 さっき僕の心臓を貫いた天使と同じ姿になった事に動揺する。

 しかし、そんな動揺している時間は無いようだった。

 探知範囲が異様なまでに拡張された3次元的視覚で周囲の状況を見ていると天使に動きがあった。

 って、今思ったのだけれど、3次元的視覚の探知範囲がめちゃくちゃ増してるんだけど…?

 ちょっと前の僕ならば情報を処理できずに脳がパンクしていたであろう情報量でも今は何の支障もなく処理で来ている。

 どこまででも広げていけそうな視覚に僕は全知全能の神になったかのような高揚感を覚える。楽しくてどんどん遠くの物を見ようとしたが、今の現状を思い出して止まる。

 さすがに今の状況で呑気に視覚旅行をしている余裕はない。

 お腹を不思議な力で治療しながら天使が海から上がってきた。びちょびちょでしなびれて見えるが、その感じる力は大きい。

 天使はお腹の治療を終えると巨大な光の弓を作り出すと、矢も持たずに弦だけを引いた。

 天使の3倍ほどもある弓の弦を引ききると、矢が生成される。

 遠くからでも感じる矢に籠った力に僕は瞬間的に事態を察する。流石にまずい事を察した僕はこの船が沈む事が無い様に被害の少ない海の上で受ける事にした。

 本能的に分かる天使の翼を大きくはためかせて空に駆け上がる。全力で駆けだしたは良いものの、思っていたよりも速いスピードが出てしまった。その弊害で衝撃波をまき散らして船のガラスが全部割れたのが見えてしまう。

 ちょっと気まずい思いになったものの、必要経費と言う事で自分を納得させる。…ごめんなさい。

 僕が船から離れて大海原の上で停止して迎撃の構えを取る。その構えを取ったのと同時に天使の矢が放たれたのが見えた。

 音速なんて優に超える速さで向かってくる光の矢を僕はのんびりと待ち構える。

 確かに速いハズの光の矢だが、僕にはその光の矢が遅く見えていた。

 処理能力が向上した脳では0.01秒でも10秒にも100秒にも体感時間を伸ばせる。

 そんな世界で僕は軽く右手を光の矢の方に向ける。体感時間では数十秒にも感じるが、実際の時間は1秒にも満たない。

 光の矢がもう寸前まで迫ってきているが、僕はゆったりとしていた。そして、光の矢が僕の右手に触れた。

 本来貫いて僕の体全てを蒸発させるだけのエネルギーを持った光の矢は、僕の右手に触れた瞬間にフッと消えた。

 天使は僕が消滅する姿を想像していたのだろうが結果は真逆だった。僕の心臓を潰した天使が、無表情の顔を崩しているのは気分爽快だ。

 天使は慌てて次の光の矢を放ってきたが結果は何も変わらなかった。

 僕が何をしているのかと言うと、壊転でエネルギーを発散させているだけだ。かなり広範囲に拡散させることで周囲の温度も3℃ほどしか変わっていない。しかしながら、かなり広範囲に拡散させたのに気温が3℃も上がったのは驚きだった。それだけ天使の放った攻撃のエネルギー量が大きかったのだ。

 天使は子の攻撃方法ではダメな事を察して、こちらに猛スピードで突撃してきた。

 でも、それは悪手と言わざる負えない。本来ならば後ろに居る船を狙った方が効果的だ。しかし天使は僕を攻撃してきた。所詮は機械的な生物と言う事なのだろう。

 天使が向かってくるのを落ち着いた目で見ながら、迎撃の準備をする。

 この近接での戦いは直ぐに決着がつくと予想する。それは天使の攻撃が当たれば、僕の体が全て蒸発する結果と、僕の攻撃が天使に当たれば、天使が消滅する結果の二つがある。その結果はどちらも一撃で終わる事から今回の近接戦闘では直ぐに決着がつくだろう。

 どんどんと接近してくる天使を前に壊転の出力を上げていき即時に開放できるようにしておく。

 暴発するギリギリまで圧縮すると、まだ距離が離れている天使に向けて僕も飛び出した。

 飛翔速度は僕よりも天使の方が軍配が上がる。しかし、お互い近づいている今ならば一切関係のない話だ。

 どんどんと近づく両者の距離はついに100メートルを切った。僕も天使も100メートルなんて目と鼻の先ほどに感じる距離だ。

 天使はとてつもないエネルギーを感じる光の槍を作り出すと僕を貫く様な体制を取ってさらにスピードを上げた。

 僕は天使がスピードをあげたのを見てスピードを落とす。なるべくグッドタイミングで攻撃を当てたい僕はなるべく交差速度は落とした方が良い。流石に戦闘経験のない僕でも止まって迎撃するような悪手はしない。

 もう両者の距離は30メートルも無い。

 僕はさらに集中力をあげて体感時間を延ばす。僕は右手を、天使は光の槍を前に出して両者は遂にぶつかった。

 体感時間を延ばされた世界で僕の右手と光の槍が触れる瞬間を見た。

 両者が触れた瞬間に僕は壊転を開放する。瞬間、壊転が光の槍のエネルギーを発散させて消し飛ばす。そして、勢いのまま僕は天使の左腕に触れた。壊転の力が伝播して天使の左腕が一瞬で灰となり崩れ落ちた。

 交差してすれ違った僕たちは即座に方向を転換する。天使が曲がりながらこちらに光の矢を飛ばしてくるが、僕も翼を細かく動かして光の矢を交わしていく。光の矢の最後の一発を壊転で発散させると、僕は天使に向かって加速した。天使も光の槍を再度生成すると突撃する。近距離での再度突撃は加速時間が無いので先ほどよりかは遅い。

 僕は脳が無い天使だなと思い先ほどと同じ結果になるだろうと思いながら光の槍に触れた。


「ッ!」


 しかし、僕が壊転で光の槍を消すよりも先に自ら光の槍が消えた。天使は翼を一度大きく羽ばたかせると、僕の上に回り込んでいた。

 この瞬間、光の槍が囮だった事を瞬時に察した。

 慌てて目線で追うと天使は光の弓を出現させていて、もうすでに弦を引き切っている。

 さすがにヤバい事を察知した僕は回避起動を取るが、一瞬間に合わずに右足を貫かれた。

 激痛にのたうち回りたくなるが、舌を噛んで我慢する。ここで治したら隙が生まれてこのまま押し切られることを本能で察知した僕は足を治さずに天使に向かって接近した。


「っ!」


 天使が驚いた顔をした。まさか突撃してくるとは思っても居なかっただろう。

 慌てて天使が光の槍を作り出そうとしたが、その前に僕の右手が天使の顔面に触れた。


「チェックメイトだ、天使!」


 壊転を全出力で放つと一瞬にして天使が灰になった。

 さらさらと天使の形をした灰が崩れ落ちていく。一瞬にして灰になった天使は本当に居たのかと疑いたくなるほどに灰が風に流されて何もなくなっていった。

 

「…」


 僕は足を治しながら天使が灰になった場所をただ見つめていた。

 なんだかあっけない最後に何とも言えない気持ちになる。別に天使を殺してナイーブな気持ちになっている訳じゃない。けれども、なんだかむなしいような気持ちに僕はなっていた。

 僕は一度だけ空を見上げる。やけに青い晴天の空がどこまでもどこまでも続いていた。


~~~


 僕はゆっくりと空を飛び船に戻ってきた。

 空から見える船の甲板にはスサノオ部隊の隊員が整列しており、そこに正剛少将の姿が見える。

 僕はゆっくりと高度を落としながら船の甲板に着地した。

 僕が甲板に着地すると周りに居たスサノオ部隊が僕の周りを取り囲んで警戒態勢を取っている。

 英雄の帰還に祝われると思っていた節も確かにあった。しかし、警戒するように周りを取り囲まれたのは少し悲しい気分になった。

 でも、スサノオ部隊を責める事は出来ない。

 僕は自分の左半身から生えた翼を少し動かして自分の手で触ってみる。天使の翼は少し触っただけでも手触りの良さに驚いてしまう。まさにこの触り心地は天毛級だ。

 しかし、その天使の翼はとても臭かった。どんな匂いかと言えば血の匂いと汗などの体臭の混じり合った臭いだ。こんな純白の翼なのに血の匂いがするのは気分が悪い。特に自分から生えているともならば、だ。

 帰ったらお風呂に即効入ろうと心に決める。


「鞠…。なんだよな?」


 正剛少将が距離を取りながらそう話しかけてくる。

 僕を完全に警戒している姿勢だが、僕は正剛少将を咎める事はしない。この純白で大きな翼を見ればそれは仕方ない。


「ええ、そうですよ」


 僕は敵意が無い事を表すように両手をあげながらそう言う。

 僕の言葉を聞いて少し安心したスサノオ部隊の隊員たちだが、決して戦闘態勢を解かない。

 さすがは精鋭の部隊だと思いつつも、僕は気にする事無く正剛少将の元へと歩いて行った。

 隊員が僕の事を止めようとするが、正剛少将が一つ手をあげると、隊員たちの動きが止まる。


「…大丈夫だ。これは鞠本人で間違いない」


 正剛少将がそう言ってくれるのは嬉しい。

 僕は正剛少将の元まで歩いていくと、正剛少将が頭を撫でてくれた。


「鞠、今回は世話になったな。鞠は我々の救世主だ」


 そう言われるとなんだか恥ずかしく思う。

 確かに記憶を遡れば、僕はスサノオ部隊の危機を救った事は間違いない。それでも救世主と言われるとむずむずして恥ずかしいのだ。


「しかし鞠よ。その翼はどうなっているんだ?」


 おっと、恥ずかしくて忘れていた。

 本当にこの翼どうしよう。どうやって生えているのかも分からないこれをしまえるのかなんて分かるはずもない。

 背中の服も破れているし、船の廊下もこの翼では通れる気がしない。…ホント、どうしよう。


「…分かりません。この翼とかこの光輪とか、どうなっているのかなんて僕が聞きたいです」

「…まあ、そうだわな」

「正剛少将は知りませんか?」


 知らないとは思いつつも一縷の希望に縋って聞いてみた。


「知らない」


 しかし、思っていた通りに正剛少将も知らなかった。

 明らかに肩を落とす僕を見て慰めの言葉を送ってくれる。


「大丈夫だ」


 それだけだったが、大人としてか、それとも正剛少将自身の器の大きさ故かは分からないが、ものすごくこの言葉に安心感を覚えた。


「ありがとうございます」


 僕はにっこりと笑顔を正剛少将に返した。

 しかし、内心ではどうやって母に説明しようかと悩んでいた。さっきの天使以上の強敵である事に間違いはなさそうだ。




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