タイトル未定2024/09/11 03:24
第五話
ゴブリンがこちらに突撃してくる。体長が1メートルほどしかないが、その生まれつきの強靭な肉体から生まれるエネルギーはすさまじく成人男性並みのスピードで向かってくる。
俺はそんなゴブリンを見ながら近くの太い根っこに腰を下ろすと完全に観戦モードに入った。
確かにゴブリンは村民からしたら脅威かも知れないが俺からしてみれば雑魚も雑魚で目をつぶっていても勝てる自信がある。
それにゴブリン程度ヘスティアが一人で倒してくれないと魔王討伐なんてお話にもならない。
その事はヘスティアも分かっているのか軽く剣を抜くと静かに構えを取る。
あの構え方は神楽流の構え方だな。かなり珍しい流派で祭祀などでよく見るような流派で戦闘ではほとんど見ない。言ってしまえば戦闘用では無い流派なのだ。
さて、お手並み拝見と行こうか。ヘスティアがどれ程まで戦えるのかを。
ゴブリンがかなりの勢いで突っ込んでくるがまだ10メートルほどと剣の間合いには遠い。ヘスティアは一切剣筋を動かすことなく静の構えで自分の領域に入るのを待っている。8メートル5メートル3メートルと一瞬にして近づいてくるがヘスティアはまだ動かない。そしてゴブリンが2メートルを切った瞬間にヘスティアが音もなく動くと綺麗な舞の様にゴブリンを上下に両断した。
かなり切れ味が良いのか、切ったはずの場所は分かたれる事無く未だ繋がっている。ゴブリンはまだ自身が切られたことを認識していないのか、追撃に振り返ろうとした瞬間、下半身だけがその場に崩れ去り。上半身は勢いのままに地面に落ちた。
ヘスティアはゴブリンの上半身が地面に落ちた事を認識するよりも前に剣を鞘にしまうと俺の方に決め顔を送ってきた。
かなりうざいが確かに今の動きは素人としては良かった。しかし、それ以上でもそれ以下でもない。言ってしまえば初心者に毛が生えた程度の実力だ。
まあ、何となく身のこなし方からしてその程度の実力だとは分かっていたが、神と言うぐらいだから少し期待していた。
「まあ、そこそこの実力だな。正直役には立たん」
「…自分でも分かってはいましたが、他人から言われるとこうもイラっとするのですね」
それは仕方ない。事実は事実だ。しかし、この程度の実力では前線を任せるのは無理だな。ゴブリン程度なら大丈夫だがオーガクラスともなると、まず勝てないだろう。
俺は倒したばかりのゴブリンの死体から左耳を切り取り麻袋に入れる。これが無いとゴブリンの討伐数に数えられないのだ。
「なあ、一つ聞いて良いか?お前は治癒魔術以外に何が使えるんだ?ああ、もちろん剣は抜いてだ」
「…そうね。私の一番得意なのは治癒だけど、それ以外なら四大魔法はそこそこに使えるわよ」
四大魔法か…。となると魔法使いのポジションになるのか。
俺が出来ないポジションに入ってくれるならば一応役には立つか。
「じゃあ次にゴブリンに出会ったら魔法でゴブリン倒してくれない?」
「え、ええ。分かりましたわ」
とは言った物の、もうこの辺にゴブリンの気配が無い。俺も探知魔法が使えればいいんだけど、事情があって魔法が使えないんだよな。
あれ?そう思ったけど、俺以外に使える可能性のある奴が俺の隣にいるじゃん。
「ところでなんだけど探知魔法って使える?」
「ええ、一応初級程度でしたら」
おお!こりゃいいわ。初級の探知魔法ならば100メートルほどの距離を探知できる。これならばゴブリンの巣穴の発見も早くなりそうだ。
「じゃあお願い」
俺は探知魔法をヘスティアに任せて地図を見る。依頼書の地図と照らし合わせて現在の場所を大まかに把握すると次の探索場所を決める。
東門から北東の方に進んできたが、今からもう少し南下することに決める。
「よし、もう少し南に下がってゴブリンの巣穴を見つけるぞ。この依頼書は当てにならないし自分の足で見つけるしかない。っていうか何だよこの依頼書は、後でギルド職員を締めあげてやろう。よしそうしよう」
「いやだめだよ。こんな小さなミスぐらい沢山あるでしょう?」
確かに依頼書のミスが多いのは事実としてある。正確な依頼書だったら宝の地図と言われるぐらいに数が少ない。だからと言ってこのミス一つのせいで命を落とす可能性があるのだ。それがゴブリン討伐だからと言ってまかり通っていい話では無い。
しかし、その事は帰ってから考える事にする。どうせゴブリン討伐が出来なければ報酬金すら出ないのだ。それでは今夜の宿どころか夕飯すらない。
とは言ったもののイラつく物はイラつくので帰ったらめちゃくちゃ文句を言ってやる事にする。
「はぁ、ヘスティア行くぞ。早く帰ってギルド職員に文句を言ってやる」
「だからやめなさいって」
はぁ、いったん思考と感情を切り離そう。町中ではこれでも問題が無かったが、外の世界では一瞬の油断が命取りになりかねない。俺は過去の経験からその事を良く知っているだろう。思い出せあの時の恐怖を。
血生臭い匂いと、凍てつく泥の雨。あの時の涙と泥の味を。
ふぅ。思考が落ち着いてきた。
「あの…スカムさん?大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。さっさと行くぞ」
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それから南に数分歩くと早速ゴブリンの気配をヘスティアが探知した。
「スカムさん。ゴブリンの反応を探知しました。どうやらもうこっちに気づいている様です」
「そうか、何メートルだ?」
「50メートルほどです」
「そうか、さっき言った通りに魔法で倒してみてくれ。…そうだな。使用する魔法は土魔法で頼む」
「分かりました」
ヘスティアはさっきの剣と同様に虚空から自分と同じほどのサイズの杖を取り出した。かなり装飾が凝った杖でかなり良い杖な事が一目で分かる。
ヘスティアは杖を一つ振ると体内にある魔力を高めていくのがはた目から見ても分かった。どんどんた高まっていく魔力なのにも関わらず殆ど体外に漏れていない所からして魔力制御の技術がかなり高い事が分かる。
ヘスティアは魔力を一瞬で高め終えると直ぐに魔法の構築の移る。周囲の細かい土を吸い上げ拳ほどの石弾を5つ生成すると発射準備を完了させた。
魔力を高めてから魔法発動まで3秒ほどで完成させてしまった。これはかなり速いスピードで素人ならば同じ魔法でも10秒以上はかかる。熟練者でも平均5秒前後がアベレージと言ったところだ。そのことを考えればかなり優れた魔法使いなのは間違いない。
ゴブリンとの距離は30メートルほどまで迫ってきている。ヘスティアは俺に向かってもう撃っても良いかと目線で確認してくる。俺は一つ頷いて許可を出すと、ヘスティアは待機していた魔法を開放した。
放たれた石弾は初速にしてかなりのものでゴブリン程度では反応する事など不可能なレベルに達していた。5つの石弾はそれぞれの意志を持っているかのように木々の合間を縫ってゴブリンへと向かう。そして到達までに1秒と要さなかった石弾はゴブリンに着弾すると体の各所をずたずたに引き裂きながら石弾が貫通した。
石弾はゴブリンを貫いても勢いは止まらず後ろの木々を数本なぎ倒した末に止まった。
「どうですか!」
決め顔で俺の方にそう言ってくる顔がうざいが、確かに凄い。こんな決め顔の奴を褒めるのは嫌だが、これは褒めざる負えないな。
「…ああ、良いな。ちょっとやりすぎだが、かなりの威力だ。これならば使い物になる」
剣術とは違い魔法の方はかなりのレベルだ。このレベルならば固い鱗を持つワイバーン程度ならば倒せるだろう。
でも、ヘスティアが使える奴でマジでよかったわ。これで魔法も使えないとなると何処に返品すれば良いのか分からなくなってしまったからな。
「え?もしも私が使えなかったら返品するつもりだったんですか!」
俺の心を読んでいたヘスティアが反応する。
そりゃ当たり前だろ。誰が使えない面倒を見る羽目になると思っているのだ。
っと、それはさておきここに長く居る訳にはいかないな。気を倒した音で周りから魔物が近寄ってくる前に退散するか。
「そんな事よりもさっさと行くぞ」
俺たちは引き続き南の方へ歩いて行った。
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それから数十分南の方に歩いてきたのだが、俺の予想は当たっていたらしくゴブリンの痕跡が徐々に増え始めていた。
今日一日で何十回と往復されたけもの道を見つけると俺とヘスティアは目配せをして木の上に飛び乗りけもの道の様子を伺う事にした。
数分経ってもまだ獲物はけもの道を通らないが俺の心は冷静で落ち着いている。なるべく木々の音に紛れて呼吸をし、気配を限界まで殺す。
ゴブリンは鼻は良くないが、とがった耳はかなりの性能をしていて、100メートル先の足音を聞き逃さない程度には優れている。
それからなるべく気配を消す事数十分が経とうとしていた。どうやらこの道は近くに川があるのか、朝によく使われるけもの道なのかもしれない。そうなればこれ以上待ち伏せしていても意味は無いだろう。
俺は心を読んでいるであろうヘスティアに心の中で合図を送ると木の上から静かに飛び降りた。
「どうやらこの道には居ない様だな。そっちの探知に何か引っかかったか?」
「いえ、反応は一度もありませんでした」
そうか、ここは外れか。一体仕留めて健康状態や、装備の品質とかを確認しておきたかったが、諦めるしかないな。
…となると、だ。ここからの行動の選択肢は二つに分岐するな。一つ目はもう日も暮れかけているし町へ帰る。二つ目は夜戦覚悟で戦闘を挑むか。このどちらかだ。
まず一つ目の町へ帰る事なのだが、これには問題がある。それは金が無いと言う事だ。流石に丸一日食べていない状態で戦いに行くのは危険すぎる。
二つ目だが、夜戦になると言う事だ。幸いとしてゴブリンの目は人とさほど変わらない。特段としてゴブリンに有利なフィールドになる訳では無いが、それは俺たちも同じだ。
さて、どうしたものか。
「…ヘスティアはどっちが良いと思う?」
「私ですか?…そうですね。私は夜戦の方が良いと思います」
「その心は?」
「こちらには魔法があるからです」
…なるほどな。確かに火魔法による光源の確保とその支配が出来るとなるとこちらが有利か。
よし!じゃあ夜戦にするか!そのためにはいくつか準備をしないとな。
「夜戦の前にゴブリンの巣穴を見つける必要がある。流石に夜の中巣穴を見つけるのは無理だし、できる事ならば寝ている時間に奇襲として襲いたい」
「賛成ですね。ですが、どうやって巣穴をさがすのです?」
それは多分だがさほど難しい話では無い。
「さっきまで見ていたけもの道があっただろう」
「はい」
「あそこのけもの道は日が落ちるっていうのにゴブリンは一匹も通らなかった。しかし、あの道には何十匹もの足跡があった。ゴブリンは一日の内に一回の水分補給で十分と言われる生物だ。そして見てみろ。この地図にはここから200メートル先に小川が流れている」
「つまりは朝に水分補給をするための獣道ってことですか?」
「そうだ。そして水分補給をすると言う事は他への寄り道などはしないだろう。つまりこの足跡をなぞって追っていけば巣穴があるはずだ」
「…なるほどです。ですが、なんだかバカだったスカムさんがこんなにも聡明だと気持ち悪いですね」
…それは褒め言葉として受け取っておこう。
それはさておき獣道を辿ったら俺が言った通りにゴブリンの巣穴を発見することが出来た。まだ日は落ち切っていないと言う事もあって一度引き返して軽い作戦を立てる事にする。
獣道から少し外れた場所でしゃがみ込み薄暗い中で小声で話す。
「まずだが今回は夜襲で行く。それは分かっているな?」
「はい」
「今回はゴブリンの巣穴の内部が分からない。ほんとはローグ系の奴に偵察させるのが王道だが居ない者は仕方がない。内部構造が分からないからマッピングをしながら進むぞ。マッピングは出来るか?」
「はい、一応ですが」
「よし!じゃあ今回は俺が剣と聖霊魔法で切り込む。援護とマッピングを頼んだぞ」
「あれ?聖霊魔法を使うのですか?」
「ああ、夜は闇の聖霊が活発になる時間だし、洞窟の中ともなると闇と土の聖霊が多くなる。少し調整が必要だが闇魔法ならば洞窟を崩落させるような心配は無いからな」
「なるほど…」
「じゃあ日が暮れてから2時間後ぐらいに行動を開始する。それまでは休憩とする。ああ、探知魔法は切らすなよ」
話し終えると俺も休憩するために軽く飛びあがった。木の枝に手をひっかけると体をうまく使って木の枝の上に昇る。
荷物を木の枝の先端にひっかけると剣を腰から外し腕組みをして俺は目をつぶった。




