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半対の天使  作者: 薙叢雲剣
第一章 転生
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第三十五話 僕の戦場



 次の患者を治す。また次を、また次をと。なるべく超能力を節約する。この小さな積み重ねが一人多くの命を救うかもしれない。

 他の再生能力者も同じように力を節約しているのだろうが、その節約分は切り傷を治さないとか、その程度だ。僕みたいに骨折や腸などの直ぐ命に関わらない傷ならば治さないのは、例外の部類に入るようだ。

 他の再生能力者を見ている間にも一人を治した。 

 次の患者のもとに僕は走っていく。が、しかし…。


「おっと?」


 見に行った患者はすでに治されていた。

 まただ。ほんと何回目なのだろう。もうここの病室にきてから1時間程度は経つが、治された後の患者が未だに赤マークで重症と判別されている。

 こんな野戦病院の様な病室だから機械やAIが判断できないのは分かるのだが、それにしても使いがってが悪い。

 医者も看護師も根本的に数が足りないのは見ていて分かるのだが、一分一秒を争うこの現場でこのシステム的遅延は致命的だ。

 周りを見てみても同じことが今また起こっていた。

 

「はぁー。仕方ない」


 僕は一瞬だけ手を止めて、目を閉じる。集中して周囲を3次元的視覚で見る。一瞬にしてすべてを見た事で膨大な情報が脳を埋め尽くすが、脳では処理せずに外部メモリに保管する。脳を治しながら、情報を整理するのと同時に患者状態データベースにリアルタイムの状況を更新させる。クラッキングでの情報の書き込みにアンチウイルスソフトウェアが反応するが、それを無理やりシャットダウンさせた。

 無理に停止させた事でエラーを大量に吐くが、問題ない程度までエラーを解消すると放置した。

 僕が意識を戻すと、周囲の医者や看護師の動揺が伝わってきた。

 それでも、自分たちの仕事が分かっている医者や看護師は患者状態データベースに問題が無い事を確認すると直ぐに仕事に戻った。


「これでいいな」


 意識の何割かをリアルタイム更新に割きつつ、患者の治療に戻った。

 EgGNeuRonの扱いが成れたことで分割思考の様なものが出来量になった。日常生活でも役に立つが、こういった状況ならばアメコミのヒーロー並みに役に立つ。

 それから何人も何十人も治していく。毎日の訓練が功を奏したのか前の時よりも圧倒的に治せる量が増えた。

 それでも次から次へと怪我人が運ばれてくる。その状況を遠くから見て状態を把握する。それをリアルタイムで更新すると、次の患者の元へと走った。

 それから一時間たった。一人、また一人と再生能力者がリタイアしていく。ある程度超能力が回復するまで何時間もかかる事から、今回の山場には復帰できない。少しだけ脳を割いて戦線の状況を確認すると、未だ戦いは続いている。かなり天使を殲滅して数を減らしたが、それは人間側も同じだ。

 そんな中でまだ指揮官クラスと言われる上位個体の討伐は一体のみ。残りの指揮官クラスは11体も居るのだ。この事からまだ山場は続きそうだ。

 しかし、僕にも限界が見え始めていた。まだ余裕はあるものの、あと何時間も耐えれるような物ではない。

 いくら節約したとはいえ三桁を優に超える量を治せば底が見え始めると言う物だ。

 

「!」


 僕は新たに感知した大量の人を見る。その感知した人は、沢山の患者とタンカーを引く人たちだった。

 その人たちを僕は診察する。医者や看護師が診察するよりも僕がした方が圧倒的に早い。


「っち!」


 その診察した中で二人重傷者が居た。この二人は後数分もすれば死んでしまう。今は機械によって血流が動かされて酸素が脳に送られている状態だ。しかし、そんなのも十分と持たないかもしれない。

 一応僕の生転ならば死んで五分以内の人間ならば治せる。しかし、それ以上を過ぎてしまうと、体は治せても決して生き返りはしない。

 僕も今手が空いている訳じゃないが、他の再生能力者もそれは同じだ。しかも、今の患者の状態を正確に判別出来ているのは僕しかいない。

 僕は近くに居た医者に今見ていた患者を任せて二人の重傷者のもとに駆け出していった。

 廊下に出ると、重症者の列が出来ている。3次元的視覚で見えてはいたが、自分の瞳で見るとグッとくるものがある。

 しかし、そんな感傷に浸っている時間は無い。

 僕はタンカーの列をかき分けて最後尾の二人のもとに来た。


「なんで子供が?」


 運んできた軍服を着た青年がそう言ったが、僕は無視する。

 この重傷者は肋骨がグシャグシャで何本かが肺に突き刺さっている。胸骨もぐしゃぐしゃに砕け散っていて、その破片が上大静脈に突き刺さっている。現状心肺の機能が低下していて何とか破片が抜けずにとどまっているが、それが抜けてしまうと心臓に送られる血液がそこから漏れてしまう。しかし、このまま心肺機能が低下し続ければ五分後には心肺が停止して、十分後には死に至る。

 僕は心臓と肺と肋骨、胸骨にピントを合わせて生転を使用した。一瞬にして再生した患者は一回ビクッと大きく体が脈打つ。

 僕はその患者の心肺機能と血流が正常に機能し始めた事を確認すると、そのタンカーを運んできた人に伝えた。


「この方はもう治しました。ですが、血中酸素濃度が80%を下回っているので至急酸素マスクの着用を」

「え?えっと…」


 その軍人は僕が言った事を理解できていないのかあたふたとし始めてしまった。

 このままグズグズとされて脳や臓器が死んでしまってまた僕の手を煩わされることになるのは御免だ。


「良いからさっさと他の看護師にでも見せろ」

「ですが…」

「っち!良いからさっさと行け!」

「は、はい!」


 僕がそう強く言うと軍人はタンカーを180度回して去っていった。

 僕はそれを確認するともう一人の患者の方に走る。

 こっちの方はさっきの人ほどよりも命の危険は無い。しかし、左足からお腹の左側が無くなっている。応急処置として止血はしてあるが、完全には止血できておらず、血がだらだらと流れ出している。

 僕は欠損している足と内臓を中心に生転を使用した。

 先ほどとは違い目に見える形での治療だったからか、僕がこの患者を他の場所に運ぶ様に言ったら素直に聞いてくれた。

 僕は他の運ばれてきた患者を見たが、腕が無いものや内臓が損傷しているだけで、すぐに命に関わる者はいなかった。

 あとは他の再生能力者に回しても問題ない事を確認すると重症度の高い患者の元に向かっていった。 


~~~


 side 医者


「アドレナリンを1㎎投与!」

「はい!」

「兎に角時間を稼げ!おい!再生能力者を早くつれてこい!」


 容態が急変した患者にアドレナリンを投与しながら、私は看護師に再生能力者を今すぐに連れてくるように伝える。

 その間にAEDを患者に張り付けて電気を流す。

 ビクンと一瞬震えたが、心電図に変化は無かった。


「再度心臓マッサージ!」

「はい!」


 看護師に心臓マッサージを指示しつつ、私は患者状態データベースに患者の状態を入力していく。

 私が患者状態データベースに入力している間に再生能力者を連れてきた看護師が返ってきた。


「先生!連れてきました!」

「よし、では再生能力者さん。この方を…」

「分かりました。」


 再生能力者が患者の手を握り超能力を発動させると、先ほどまでは何の反応も無かった心電図に動きがあった。


「心肺戻りました!」

「よし!」


 これで一安心だ。一刻を争うような患者は今この場には居ない。もちろん重篤者はたくさんいるのだが一時間以上は大丈夫だ。それだけ時間があれば再生能力者が治してくれる。

 一息ついたことで休憩できる時間が出来た。看護師が持ってきてくれた水を飲んで一休みする。一度仮眠室に行って休みたい気持ちはあるが、患者の体調が急変するかもしれない今はそんな事は出来ない。

 私は病室に設置してある椅子に腰を下ろす。看護師に一杯コーヒーを持ってくるように伝えると、私は周りの様子を見ながら休んだ。

 休んで周りを見ると一人の少年に目が留まった。

 今にして思えば、あの子が来てからこの空間に余裕が出来た。それはマスコット的な意味では無い。あの子の治すスピードとその量が私たちの負担を大幅に減らしているのだ。

 誰の判断も必要とせず、適切に処置を施し、すぐに次の患者の元へ行っている。我々が一人治している間にあの子は二人三人と治しているのだ。

 あの子の治した患者を診てみる。一見治したのか分からないほどに切り傷が目立つが、私の超能力で見ると話は変わる。

 命の直接関わる重要な臓器や手足の欠損などが軒並み治されているのだ。

 外を治さずに中の重要な器官だけを治すのは、難しいと聞く。それは一般人の再生能力者が患者の切り傷すら治している所からして本当なのだろう。


「先生!次が運ばれてきました!診断をお願いします」

「分かった」


 どうやら次が来たようだ。

 私は椅子から立ち上がるとコーヒーをグビッと飲み干し診断に向かった。

 一人一人運ばれてきた患者を診断しつつ情報をデータベースに送る。

 私が最後の一人を診断し終えたその時、異変が起こった。

 私のAR機器が突然エラー音を発したのだ。何事だと思って確認してみると、アンチウィルスソフトウェアが反応している。

 

「こんな時にハッキングか?!」


 面倒なことになったと思った。しかし、今の時代アンチウイルスソフトウェアは優秀だ。特に病院が保有するデータベースは重要な情報が多くある事から一般人が使うような物よりも強力だ。

 エラー音がうるさくなることが一番の問題だと考えていた私の思考は二転三転覆る事になった。

 私が運ばれてきた患者の診断が終わったと同時に突然としてエラー音が無くなった。

 その時私はクラッキングが終わったのだと思った。それでも、ここの現場監督として確認はしないといけない。

 AR機器から今の状態を確認すると…。


「…なんだこれは」


 私が今の状態を確認するとほぼ全てのアンチウイルスソフトウェアが沈黙していた。より詳細を確認するとすべてが強制シャットダウンされている。

 しかし、本来ならば強制シャットダウンされたとしても、他のソフトがアンチウイルスソフトウェアを再起動させるはずだ。

 本来再起動させるソフトを見ると、そちらも同様に強制シャットダウンされていた。

 しかし、このソフトがシャットダウンされるとサーバーも落ちるようになっている。ではなぜサーバーが落ちていないのだろう?

 それからしばらく調べてみると分かった。どうやら外部から強制的に維持されているらしい。

 サーバー側がシャットダウンしようとすると、外からそのシャットダウンコマンドを強制的に止められている。その繰り返しのエラー文が大量に書いてあった。

 誰かは分からないがよほど優秀なハッカーの様だ。多分だが物理的に落とさないと無理なのだろう。

 でも、現状それはできない。だって、患者の診断情報が…。


「なんだこれは!」


 診断情報が更新されている!しかもリアルタイムで!

 来て直ぐの患者までが診断されて振り分けられている。偽情報かと思ったが、そうではない様だ。


「誰がこんなことを…」


 分からないが、これはありがたい。今隣で治した患者が、青色で表記された。本当にリアルタイムで更新されている。

 アンチウイルスソフトウェアの強制シャットダウンや、診断のリアルタイム更新と言った事が誰の手によるものかは分からないが、今の状況ではありがたい。


「しかし、いったい誰がこんなことを」


 


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