第三十四話 大阪
ドン!と飛行機が激しく揺れる。
現在大阪に近づいたことで着陸の為に速度を落としていた。しかしながら、スピードを落とした飛行機など天使にとっては的でしかない。
いくつもの天使の攻撃が飛行機を襲うが、誰かの超能力で防いでいる。それでも、大きな衝撃が襲うのだからどれだけ激しいと言うのか。
「そろそろ大阪に着陸する。各自は到着と同時に出撃だ!」
激しく飛行機が揺れる事5分、EgGNeuRonの回線通話でそう聞こえた。
外の景色を見ると、どんどんと高度が落ちていき、滑走路に着陸する。
僕が着陸したことに安堵していると、一人の軍人が飛行機のドアを開けた。なんと、まだまだ速い飛行機から軍人が飛び降りていく。あまりの事に目が点になっていると、飛行機が停止した。
僕は飛行機が止まった事で正気を取り戻した。そして出てきた言葉が…。
「うそん」
だった。今までに出したことも無いような間抜けな声だったが、それもそのはずで母もぽかんと口を開けていた。
そして気づけば、場に残ったのは僕と母と正剛少将だけ。それ以外の軍人はもうすでに飛行機には居なかった。
「よし、行くぞ。時間が無いのでテキパキと動くぞ」
そう言うと正剛少将は取り付けられた階段を降りていった。
僕は慌ててシートベルトを取り外して、正剛少将の後を追った。
母と一緒に階段を降り終えると、正剛少将はすでに大阪の軍人と会話をしていた。
大阪の軍人は正剛少将が着る軍服とは違う。大和の軍服は旧日本軍の様な服装なのだが、大阪の軍人は自衛隊の様な軍服だ。
「正剛少将、お待ちしておりました。私は大阪軍、作戦本部の山中中将です」
「そうか。我は大和軍、スサノオ部隊の正剛正義だ。挨拶はほどほどにして話に移ろう」
「そうですね。まずは移動を」
正剛少将と中山中将は軽い握手を交わすと、後ろに待機していた大きな車に入っていった。
ってか、なにあれ?みんなが想像するような車じゃないんですけど。一番わかりやすいたとえで言えば、車の形をしたコンテナ。そう、コンテナだ。車線一つでは収まりそうに見えないほどに大きい車体はモンスター級だ。
僕が戸惑っていると正剛少将が手招きをして僕を呼んだ。
「何をやっている。鞠と母君はこっちに乗れ」
どうやら僕もこれに乗るらしい。
恐る恐る入ってみると中はすごかった。見た目で圧倒されていたが、中に入ってみると超ハイテクな作戦基地があった。
色々な機器があり興味をそそられるが、忙しい今邪魔にならないように端っこの椅子に座った。
「では、現状の状況を説明します」
早速山中中将が言うと3次元上の展開地図が出現した。
僕は急に出現した3D展開地図に驚く。どういった原理なのか気になった僕はEgGNeuRonを取り外してみた。取り外すとさっきまであった展開地図は無くなっている。再度付け直してみると、そこには展開地図があった。
なるほどね。このAR機器を通して出現させているのか。でも、無差別的に見れるのはすごいな。どうやったのだろう。
興味津々でその情報をネットから探している僕とは違い、真剣な面持ちでお偉いさん二人の会話は進んでいく。
「現在確認されている天使の数は1万3000体ほどです。しかし、ここから2時間かけて総数10万体ほどになるとそうていされています」
「指揮官クラスは何体いる?」
「現在確認されているのは4体です。そのうち1体強力なエネルギーを感知しています。大指揮官クラスの物だと予想されています」
「そうか…だいぶキツイ戦いになりそうだな」
「ええ。我々では対処しきれない量でした。今回の救援は本当にありがたかった」
僕がネット上で色々検索したりして暇をつぶしていると二人の話がかなり進んでいた。
ちなみにだが、話は議事録的に二人がしゃべった情報は保存してある。ほんと、こんなことが出来るのだからEgGNeuRonは優秀だ。
「それで、今の戦況はどうなっている?」
「現在、大阪にある兵装で天使の動きを抑制しています。しかしながら、天使の数が増えれば、これも長くは続かないでしょう。我々の部隊は編成を8割ほど完了しており、15分後に100%の編成がおわります。大和軍は別で待機させております」
「そうか、ご苦労」
今の会話を詳しく解説する。
まず一つ目に天使の出現時間には時間差と言う物がある。一気に現れるのではなく時間を掛けて出てくる。分かりやすく言えばお風呂の排水溝の蓋を開けた時、全部が一斉に流れるのではなく、徐々に徐々に水が抜けていく。それと同じで天使たちも一気に出てくるのではなく、少しずつ現れるのだ。
二つ目に天使の指揮官クラスと言われるヤツだ。天使にはいろいろな種類が居るそうで、その中でも強力な個体を指揮官クラス、大指揮官クラスと分けて読んでいる。
三つ目に大阪の兵装と言うヤツだ。大阪にある兵装とは大型のガトリング砲やミサイルなどがある。ガトリング砲は10門あり、天使が攻めてきている側には4門設置されている。ミサイルも広範囲の爆発に秀でたサーモバリック爆弾を使用しているそうだ。それらをフル稼働しているそうだが、天使には特殊な防御手段があるそうで、大したダメージになっていないそうだ。でも、天使が防御をすることである程度の足止めなどの効果が期待できるそう。ちなみにだが、この情報は暇だったので今ネットで調べた。
「では、そちらの出撃に合わせて我々の軍も動かそう。大阪軍は何時に動けそうだ?」
「推測になりますが13:15に編成が完了し、13:30に全体を動かせるでしょう」
「そうか。では今編成が完了している部隊を動かせるにはどれほどかかる?」
「そうですね…13:10には動かせます」
「そうか、では13:10に編成が終わっている部隊を出撃させて、遠距離での天使の足止めを。全隊が動けるようになったら、広域に広がり天使の包囲殲滅をする。これでどうだ?」
「なるほど…いい案ですね。上に今の案を送ります。しばらくお待ちください」
山中中将がデータを作戦本部に送っている間、正剛少将が耳に手を当てながら広域通信を使った。
僕にはその広域通信を聞ける権限が無いのだが、周波数を拾って暗号を解いていった。案外、暗号が直ぐに解けてしまいびっくりする。軍が使う通信なのだから固いと思っていたが、案外そうでもないようだ。
『大和軍全体に送る。これから大まかな作戦を伝える。こちらの本部で詳細な作戦が決まり次第に細かいデータを送信する。では、作戦を伝える。スサノオ部隊は13:10時に大阪軍と共に天使の殲滅に動いてもらう。その時間までに動けるようにしておけ。次にツクヨミは指揮官クラス、もしかしたら大指揮官クラスが出てくるかもしれない。その天使たちの行動を監視して逐次報告せよ。次にアマテラスは第一級防衛地点を防衛してくれ。では、ここまでが大まかな作戦の概要だ。まだ、大阪軍と完全に話が出来ている訳では無いので、作戦の変更があるかもしれない。しかし、大きなずれは無いと思うので、今言った事に動けるように待機していろ』
正剛少将がそういうのと同時に複数のファイルが送られていった。それを傍受し、コピーして解読する。
ふむふむ、なるほどね。これが第一級防衛地点か。前線に近い病院と、大阪の行政を担っている場所がアマテラスが守る場所。そして、僕は前線の病院に行くことになるのだろうな。
大阪の地図と現在地とさっきの天使の情報を組み合わせれば間違いない。
それからしばらく連携の話し合いが続いた。僕には全く関係のない話だったので議事録も取ってない。
僕が色々な情報を漁っていると、車が止まった。横目に現在地を見てみると、目的地である前線基地に着いたようだ。
「我はここで降りる。鞠たちはここの近くに在る病院に行ってくれ。そこにはアマテラスの部隊がいるからその人たちに従って動いてくれ」
「はい。わかりました」
僕にそう伝えると正剛少将と山中中将は車から降りた。
二人が降りると車はすぐに発信した。本当に近かったのか1分程度で病院についてしまった。
車から降りて直ぐの所に大和軍の軍服を着た軍人が二人立っているのが見えた。一人は女性の隊員だ。
あれが正剛少将の言っていたアマテラスの人達なのだろう。
あちらも僕に気づいてこちらに駆け寄ってきた。
「初めまして、私はアマテラス部隊所属の黒田と言います。あなた方が雨宮鞠さんでよろしいでしょうか?」
そう言ってきたのは女性隊員の方だ。僕に警戒心を与えないためにしゃがんで目線を合わせて優しい笑顔でそういった。
女性と言う事もあってスカートの軍服はしゃがむとパンツが見えそうだ。
僕はむくむくと湧き上がる好奇心を抑えて、黒田さんの顔に目線を合わせる。
「そ、そうです」
「うん、じゃあ行こうか」
ちょっと挙動不審になった僕を気にせず黒田は歩き出した。
僕の歩幅に合わせるスピードは子供の扱いに慣れている。それでも時間が無いのには変わりないので限界ぎりぎりのペースだ。
僕は少し気まずい思いを一人しながら歩いていると、目的地である僕の戦場に着いた。
多くの医者や看護師が動き回り、その中で必死に人を直している軍服を着た再生能力者。民間から来たのかは分からないが、私腹を着た再生能力者。様々な服装をした再生能力者が居るが、全員が共通しているのはその必死な顔だ。
「あれ?」
その中に見覚えのある人がいた。前に見ていたインフルエンサーの再生能力者だ。相変わらずの地雷メイクだが、その必死な顔は真剣さがうかがえる。
その甘ったるい声とは違い根はまじめな方なのかもしれない。
「では鞠さん。よろしくお願いします」
そう言って黒田さんはどこかに行ってしまった。まあ、護衛とか防衛とかの他の仕事があるのだろうが、投げっぱなしで離された僕はどうすれば良いのか分からない。
仕方なく近くに居た看護師を捕まえた。
「すみません、ちょっといいですか?」
「っ、ごめんなさいね。今子供の相手をしている暇は無いの」
それだけ言うと看護師は早歩きで行ってしまった。
僕に沈黙が降りる。無造作に治していく訳にもいかないので優先順位を聞きたかった。
僕は助けを求めて母の方を見るが、母はダウンしていた。
どうやらこの光景を見て参ってしまったらしい。まあ、それも仕方ない事で、猟奇犯の事件現場並みの光景が、病室を飛び出し廊下まで続いている。
僕は前回見た光景だから何とか大丈夫だが、母はそうではない。
母には頼れないと判断した僕はもう一度チャレンジしてみた。が、他の看護師にもいなされてしまう。
全員に余裕のない状況ではこの作戦は無理だと判断した僕は強引な手に出ることにした。
医者や看護師がつけているAR型情報端末にアクセスして今の状況を盗み見る。
情報はしっかりと管理されている様で、重篤な者には赤色のマークが付いており分かりやすくなっている。
確認した僕は近くに居た患者の元へ行った。
僕が両足が無い患者の前に立つとそれを診断していた医者が驚いた。
「おい、君何しているのかね?」
何故こんな所に子供がいるのだろう、と言った顔を無視して僕は患者の手に触れた。
もちろん使うのは生転だ。前に大勢を治した時と同様に全回復はさせない。所々の擦り傷や打撲程度はもちろん全部無視。骨折程度も許容範囲内として重要な内臓や無くなった手足などの命に関わる物だけを治していく。患者の治すべき場所を久しぶりに使う3次元的視覚で視通しする。この人は両足と右の肝臓と腸に大きな穴が開いている。肺に折れた肋骨が刺さっているが、命には関係ないので無視する。背骨が一か所折れているが神経に損傷が無いのでこちらも無視だ。
すべてを把握すると生転を使う。僕が指定した場所が全部感知したことを確認すると、次の患者の元へ行った。
「き、君は再生能力者なのかね!?」
後ろから医師がそう言ってくる。分かってはいるのだろうけどこんな子供が、と言いたいのだろう。
「それよりも、その人は完治させた訳じゃありません。その後の治療が必要になるでしょう」
それだけ言うと僕は歩を進めた。
僕が今相手するべきは医者では無く、患者の方だ。




