第三十三話 あれ?もう五歳?
季節が一巡した7月7日。僕は五歳になった。
あれ?と疑問に思ってしまうほどに、あっという間だった。子供の頃は時間が過ぎるのが遅いとは言うが、それは嘘だったのではないかと思うほどに早かった。
この一年特に変わった事は無く、いつも通りの毎日を過ごしていた。
そんな日々にも変化はあった。
移動時間や一人での時間が多くなった事で暇を持て余すようになった。
読書でもしようかとネットを漁る。しかし、その暇つぶしの読書も長くは続かなかった。コンピュータと意識が繋がっている状態では数分もあれば内容がすべて読めてしまう。最初の頃は普通の本を読んでいたが、最近は専門書レベルの本を読むようになった。
それともう一つ。読書だけでは飽きると思い、3Dを始めた。
きっかけは母のモデリングを作ったときに案外面白く感じたのが理由だ。最初の頃は雑な3Dモデルを量産していたが、今となってはそこそこの出来の3Dモデルを作れるようになった。
あんまり変化の無い日々だったが、それでも成長はしていた。
そんな日々が過ぎる中で一年が経った。
そんなめでたい誕生日の今日。僕は母と共に運悪くホテルに居た。
なぜ運が悪いのかと言うと今いる場所がそれを物語っている。
現在僕がいる場所は大和都市から直線距離にして約400メートル離れている都市、大阪に来ていた。
僕がなぜ大阪に居るかを説明するには数日遡る必要がある。
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どんどんと日差しが強くなってきている今日この頃。僕は誕生日が近づいてきている事に何とも言えない感情を抱きながら、テレビを見ていた。
今日の超能力訓練は午後からにしようと思っており午前中はのんびりとしていた。
寝っ転がりながらテレビを見ていると、急に映像が切り替わった。
『緊急速報です!現在大阪都市で大規模な次元震が観測されました!大阪に住む人は避難所へ直ちに避難してください!』
急に流れた緊急速報にびっくりする。母も料理していた手を止めてテレビを見た。
『繰り返します。現在大阪都市で大規模な次元震が観測されました。大阪に住む人は直ちに避難所へ避難してください』
次元震。聞きなれない言葉だが、何を言っているのかはわかる。一応EgGNeuRonでも調べてみた。
次元震とは主に天使が現れる予兆として知られている。
次元震とは重力波と同じ様なものだ。その次元震を感知する装置はめちゃくちゃデカく、5キロもの大きさがある。
ちなみにだが、もっと細かい情報も載っていたのだが、高度な事過ぎて説明するのが難しい。ここではスキップだ。
『緊急で追加の情報が来ました!天使の出現時刻は12時3分です!繰り返します、天使の出現時刻は12時3分です!』
僕がネットで次元震を調べている間に追加の情報が伝えられた。今の時刻は11時55分。あと8分後に天使が出現する。
「まあ、怖いわね」
母は、そう言うとテレビを見るのを止めて昼食の支度に戻った。
確かに怖い事ではあるのだが、僕たちから直線距離にして400キロメートル先の出来事はしょせん他人事でしかない。
しかし、その他人事が自分事になる一本の電話が来た。
つけているEgGNeuRonに電話が掛かってきた。もちろん相手は正剛少将だ。僕はテレビを見ながら嫌な予感のする電話に出た。
『はい、』
『鞠、ちょっといいか。お前に緊急の依頼がある。受けてもらえるか』
『それって今テレビで放送されている事に関係ある事でしょうか?』
分かっていながらそう言う。このタイミングで掛かってきたと言う事はそういう事だ。
『そうだ。大阪から救援要請が来た。再生能力者は多くて困る事はない。現状一人でも欲しい状況だ』
『…大阪までどうやって行くのですか?ここからだと直線で400キロメートル以上ありますよ』
『それについてはジェット機を飛ばす』
『うわぁ。その情報は聞きたくなかったです』
なぜ僕がジェット機、いや航空機を嫌がるのかと言うと天使に撃墜されるからである。
天使が世界に現れて色々なインフラがダメージを負った。その中でも航空関係はほとんど壊滅した。
空を自由に飛び回れる天使は小さいながら亜音速飛行に近いスピードで飛び、ヘリの様に直角九十度旋回も出来る。もちろんホバリングはデフォルトで出来る。
そんな化け物に制空権を握られている状況で飛行機になど乗りたくはない。
『言いたいことは分かる。しかし、大阪の戦力では今回予想される規模の襲撃には耐えきれない。ここはリスクを負ってでも行く必要がある』
『それは分かりますけど……正直航空機に乗るのは御免ですね』
『それは我も同感だ』
それからしばらく文句を言いながら外に出る支度を始める。母も僕の話を聞いているのか料理の手を止めていた。
『それでだが、依頼の件どうする?』
『もちろん受けます』
『そうか、本当にありがたい。今回の件は危険料金として報酬を弾ませてもらう』
『それはうれしいですね。一生分のお金が手に入りそうですね。やる気が出るってものですよ』
そんな冗談を飛ばしながら支度を終わらせた。
『では、そちらに車を送った』
『分かりました』
通話を切った。
僕が急いで玄関を出ようとすると母に後ろから羽交い絞めにされた。
「鞠。一人でどこに行く気なの?」
その力は強く僕を離さないと言う意思が感じられる。
僕は母の気持ちも分かるが、僕一人で数百人、あるいは数万人もの命を救えるかもしれないのだ。行かない訳にはいかない。このために一年半も努力を続けてきたのだ。
「大阪に行ってくる。ママは気にせずに待っていてよ。僕は絶対に帰ってくるから」
「そんなの聞き入れる訳にはいかないわ。これでも私は鞠の母親だもの、鞠が命を張るのならば私も張るわ」
「え?」
おっと?思っていた回答と180度も違うのだけれど?
てっきり、「行っちゃだめよ」なんて言われるのかと思っていた。
「鞠が何のためにこの一年間も努力をしていたのか知っているもの。みんなを救いたいのでしょう。なら私に止める権利は無いわ。でも、鞠が頑張るのならば私も頑張らなければいけないわ。私は貴方の母親であり保護者なのだから」
そう言って優しく抱きしめられた。
本当に母は誰よりも強い存在なのだと思う。命を賭けるなんて気軽な気持ちでは言えない。それでも、子供のためならば命を張れるのが母親の強さなのだろう。
「鞠が話している間に着替えも済ませたわ。早く行きましょう。大勢の人が鞠を待っているわ」
母がゆっくりと離れていった。そこで、僕は母の格好を見る余裕が生まれた。
先ほどまでは、そんな余裕はなかったが、母に抱きしめられたことで心の安定を取り戻せた。
ちなみに、母の服装なのだが、一年前に上げたスーツだ。母びいきなのかもしれないが、皆が見とれるほどに似合っていると思う。
母も一緒に来ることを正剛少将に伝えている途中に車が来た。直ぐに車に乗ると異常なスピードで走り出すと86番区の飛行場に向かった。
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車を走らせる事30分で86番区の空港に着いた。
大和都市の東側にある85、86、87番区は交易を主とした場所、交番区だ。
大和は東京湾に浮かぶように存在する都市だ。それは海の上にあると言ってもいい。故に輸入の99.9%が海運輸送によるものだ。
それだけ海運輸送に頼り切っている大和には大きな港が併設されている。
しかし、交番区には港以外にも空港がある。それは民間が使用するようなものでは無く、軍が使用するための空港だ。もちろんだが一般人は立ち入り禁止になっている。
普通なら見る機会のない場所を興味津々に見る母に苦笑してしまう。僕はこれからの飛行で手が震えていると言うのに。
前世から僕は高い場所が得意では無かった。別に高所恐怖症な訳では無いが、積極的に上りたいとは思えなかった。
前世では各所を飛び回るために何回も飛行機に乗った。そう言った観点では大丈夫なのだが、天使が跋扈する世界において飛行機の撃墜率が90%を超えていると聞けば誰でも怖いだろう。
全然周りの景色なんて楽しめないままに滑走路に一つある飛行機の前で車が止まってしまった。
そのからの力によって車のドアが開けられた。開けた人物は、そう正剛少将だ。
「準備は出来ているか?直ぐに飛び立つぞ」
「はは、、、」
余裕のない僕は、から笑いしか出来ない。それと比べて母は楽しそうに飛行機を見ている。母からしたら初めての飛行機にワクワクなのだろう。
まじで、それが羨ましい。
「では行くぞ」
「…」
僕は正剛少将に無言でついて行く。もう、帰りたい気持ちで満杯だが、それを我慢して飛行機に乗り込んだ。
乗り込んだ瞬間にもうここから引き返せない事が何となくわかった。理由は何人もの軍人がこちらに目線を向けて着ていたからだ。
それを遮るように正剛少将が一歩前へ出て軍人たちに大声で話し始めた。
「よし!準備が整った!では、これから作戦を始める!各自は配られた資料を基に行動せよ!」
「「「は!」」」
「今回の作戦は時間との勝負となる。我々が一分遅れれは1人が死に、一分早く着けば1人が助かる!では行動開始!」
「「「は!」」」
正剛少将が開始を合図した瞬間に3人の軍人が立ち上がり超能力を使った。体感的には分からないが、超能力で何かをしたのだろう。
僕が興味津々で何が起こるのか見ていると、ジェットエンジンが大きな音を発し始めたのが分かった。もともと乗り込むときには動いていたが、今はさっきよりも回転数が上がりそれに伴い轟音が鳴り響く。
最初は小さかった音は徐々に大きくなっていく。最終的には耳を塞ぎたくなるほどまでに大きな音になった。
当然鼓膜では会話など聞こえない音量だが、EgGNeuRonを介す事で何の支障もなく会話が出来た。…母以外は。
「これから動き出す。そこに座ってシートベルトをしろ」
正剛少将の言うとおりに席に座ってシートベルトをする。
それを確認した正剛少将が何か言うと飛行機が動き出した。
どんどんと加速するのが分かる。何Gもの負荷が体にのしかかるが歯を食いしばって耐える。数秒で体が浮く感覚が来た。どうやら飛行機が離陸したらしい。
普通の飛行機では異様なスピードで加速する。多分だが、超能力でブーストしているのだろう。
どんどんと加速していき、ついには音の壁を破った。
本来ならとてつもない轟音が響いて鼓膜が破れるのだろうが、誰かが使っている超能力のおかげでそれは無かった。
ついにはマッハ1.3に達した飛行機は20分と言うごく短時間で大阪に着いてしまった。
いや、車に乗っているよりも飛行機に乗っている時間の方が短いなんておかしいでしょ。




