第二十九話 まだ終わっていない誕生日
一休憩を終わりにして、訓練に戻った。壁に穴が空いているのは気になるが、意識的に無視して訓練を続ける。
そんなこんなで練習をしていたらかなりの時間が経っていたようで15時を回っていた。そろそろレイと誠人が下校する時刻な事もあり、二人に今日ここに来るのかをメールで聞いた。
前世の学校とは違い、この都市では学校は長くまでやらない。理由は様々あるが、一番は能力主義の社会だからだ。
この都市にはIDランクシステムと言う物がある。これは7歳の小学校、小学院に入ったものすべてに与えられる物だ。IDランクは様々な基準で審査され、その成績でIDランクが上がっていく。
すべてが能力と結果によって審査されるシステムは平等にも思えるだろう。しかし、このシステムが高ランクIDの者と低ランクIDの者とでの差別や分断を生んでいる。
このランクシステムは日本で大和と大阪の二つでしか採用されていない。採用されない理由は人権上うんたらと色々あるのだが、採用される理由は明確で致命的だ。
それは、強いものがまとめないと直ぐに天使に滅ぼされてしまうからだ。
IDランクと言う目に見える形での順位付けによって、能力があり向上心のあるものは、より努力をする。そうやって弱い民を100万作るよりも強い人を100人作るのがこのシステムだ。
もちろんの事反発はあるのだが、それはベーシックインカムによってある程度解消されている。弱い者や運に恵まれなかった者は最低限度生きていけるだけのお金を配っている。それは逆累進課税的で、稼いでいる者には一円も入ってこないが、稼いでいない物には生きていけるだけのお金が入る。
この制度によって民の不満を抑えているのだ。能力のあるものに優しいIDランクシステム。能力のないものに優しいベーシックインカム。何とも考えた奴は天才である。
おっと話が少しズレてしまった。この都市での下校時間が早いのは各自にあったメニューを自身で考えて行う事によって自発的かつ効率的に能力を高めるためだ。足並みそろえて行う授業では出る杭が撃たれてしまう。それを予防する目的もある。
そんな事を考えているとタイミングよく二人が来たようだ。
メールで来ることは知っていたので部屋を出て二人に会いに行った。
「よう!鞠ちゃんこんにちわや!」
「鞠くんこんにちは」
「誠人とレイもこんにちは」
いつも通りに挨拶をする。二日に一回は顔を合わせる僕たちは気軽に挨拶しながら最近の雑談をする。
しかし、今日はいつもとは違う事が二つ違う事が起きた。
「鞠くん、お誕生日おめでとう。これプレゼントね」
「鞠ちゃんお誕生日おめでとさん!ワイからもプレゼントや!」
そう言って二人から誕生日プレゼントをもらった。
まさか二人からプレゼントをもらえるとは微塵も考えていなかった僕は間抜けな声を上げてしまった。
「へぇ?…こんなのもら……って」
「こんなの貰って良いの?」と言おうとして止めた。そんな事を言っては失礼に当たるだろう。ここはしっかりと二人の善意を受け止めて返すのが正解だ。
「…レイ、誠人、プレゼントありがとう。嬉しいよ」
漫勉の笑みで言うのが一番の恩返しだ。
二人は照れたように笑ったが、恥ずかしかったからか二人の悪い癖が出てしまう。
「ハハ、レイお前が照れる顔なんて久しく見てないぜ。写真に収めてやろうやないか!」
「お前だって同じじゃないか!」
そうやってまた二人の口論が始まった。
僕はそんな二人を無視してプレゼントを開けた。
まずはレイの方から見ていく。なぜレイの方が先かと言うと誠人の方はネタ枠だと思っているからだ。
きれいに放送された箱を丁寧にはがしていく。両掌ほどのサイズの箱にはネックレスが入っていた。
ネックレスは銀色の小さいチェーンになっていて、あまり主張の激しくない感じのネックレスだ。
「これネックレス?」
誠人と言い合いしていたレイは僕の呟きを聞くと、誠人の口と足を氷漬けにして黙らせた。
「そうだよ。鞠くんにはちょっと早いかなーとは思ったんだけど、似合いそうだったから買ったの」
「うれしい、ありがとうレイお兄ちゃん」
冗談半分からかい心半分でそう言うと、レイはフラっと体がよろめいた。
どうやら、お兄ちゃん呼びがかなり来たらしい。
「…喜んでもらえてよかったよ。……ねえ、もっかいお兄ちゃんって言ってくれない?」
「ダメ。これは年に数回しか言わない大事な言葉なんだよ」
プレミアムは大事だ。なにせブランド商品や限定商品が高くても売れるのはプレミアム感があるからだ。この言葉も同じだ。
「ねえ、それよりもさネックレスつけてくれない?」
自分でも付けれるのだが、着けてもらうのはお約束だ。
後ろを向いて肩まである髪の毛を少し持ち上げる。
「分かったよ。って、鞠くん。頭に何かつけてる?」
「頭ッて…ああ、EgGNeuRonの事か」
結構な時間着けていたから忘れていた。高いだけあって忘れるほどに着け心地もいいのだ。250万だけど…250万…だけども…。
「え?今EgGNeuRonって言った?!すごいね!あれ一台で150万するんだよね」
言えない。これがカスタムしていて250万もするなんて…。
「いいなぁー、俺も欲しいよ。…はい、着けたよ」
レイは興味津々にEgGNeuRonを見ながらネックレスを付けてくれた。
「鏡のある場所に行く?」
「いや良いよ。僕は自分の姿が見えるんだよ」
「そういえばそうだったね。最近眼帯付けてないから忘れてたよ」
最近はどんどんと超能力の制御がうまくなったことで3次元的視覚の制御も上手くなった。いまでは全体をぼんやりと見ている感じまで抑えている。
その3次元的視覚を意識的に自分の方に向けた。
どれどれ、、、似合っては、いるな。じゃっかん年齢と合ってなくてちぐはぐさを覚えるがもう少し成長すれば似合うだろう。
しかし、レイはセンスが良いな。普段使いもしやすいネックレスはありがたい。
「どう?似合ってる?」
女子に言われて困る言葉第13位の言葉を冗談で言ってみた。
「…うん。似合っているよ」
「ぷ、クスクス。レイはモテるのに女慣れしてなさそうだよね」
「お?鞠はんにも分かるか?こいつモテる癖に女に全然免疫が無いのや!いやぁ三日前の光景はおもしろ…ぐへぇ!」
途中でレイのガチパンチが鳩尾に入った。即座に全身を氷漬けにされた誠人はヒト型の彫刻だ。
「俺の話はさておき、次はこのバカのプレゼントを開けてみれば」
かなり話を逸らしたいのか、無理やりに次に進めようとしてくる。
気になるにはなるが、レイにも事情がある事だし流すか。
「分かった。じゃあ誠人のプレゼントを開けるね。…レイ、誠人の氷を解いてあげて」
さすがにプレゼントを渡されたのに氷漬けのままはかわいそうだ。
氷漬けから脱した誠人はぶつくさと文句を垂れるが、自分にも火がある事が分かっているので大きな声では言わない。
「じゃあ開けるね」
レオの時とは違い、僕の胴体ほどもある紙袋にリボンが結んである。中を開けてみるとそこには…こう書かれていた。
「プロテイン?」
「そうや、ワイのプレゼントはプロテインや!」
プロテインなのは分かったが、なぜゆえプロテインなのだろうか?
それはレイも思ったのかジト目で尋ねていた。
「おいバカ。なんでプロテインなんだ?」
「ふっふっふ。レイもまだまだやな。子供の体はこれから成長するんや。だから不足しがちなタンパク質をプロテインで補おうって話や」
あれ?案外まともだ。っていうか普通にまともだ。いつもの誠人らしくなくはないが、誠人なりに真剣に考えてくれたものなのだろう。
「僕の体の事を考えてくれたんだね。ありがとね、誠人お兄ちゃん」
「ふ、ふん。せやろ」
照れている誠人にも感謝を述べながらプロテインを地面に置く。5キロのプロテイン袋は重い。
「でも、不思議だな。バカにしては根拠のあるプレゼントだったな。誰の入れ知恵だ?」
「はん。これはワイが考えた物や。ひょろひょろのレイには分からんやろうけど。男に大事なのは…筋肉や!」
そう言って二の腕の力こぶを見せた。
確かに大きいが、その発言が脳筋過ぎる。
「…はぁ。バカなお前に聞いたのが悪かった」
「なんやと!」
また始まった口論を流して思った。
この5キロのプロテインどうやって持ち帰ろう?
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




