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半対の天使  作者: 薙叢雲剣
第一章 転生
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第二十八話 エントロピー



 誕生日の翌日。今僕はいつも通りに訓練施設に居た。

 毎日の様に超能力を限界まで酷使している結果、今ではかなりの物になったと自負している。

 そして今日僕は新たな挑戦をしようと思う。

 僕の超能力は生転と壊転。二つの力で一つの能力だ。それは陰と陽やN極とS極の様に二つで一つの物。しかし、この能力は合わせる事が出来なかった。

 あれ?右手と左手から別々の力を出しているじゃん?って疑問に思った者もいるだろう。

 でも、これは少し違う。ここで言う合わせる事は、二つの超能力を同時に発動させる事を言っているのではなく、二つの超能力を混合させる事を言っている。

 同時には発動できるが混合はできなかった超能力、今日それを合わせてみようと思うのだ。

 一応壊れない様にEgGNeuRonを外しておく。母からの250万円のプレゼントを一日で壊す訳にはいかない。

 無論、直せるには直せるのだが、母からの大事なプレゼントを壊したくはないのだ。

 

「さて、始めますか」


 もうすでにストレッチは終わらせていて精神は落ち着いている。

 ゆっくり息を吸って短く吐き出す。


「よし!やろう!」


 いつもならば地面に両手を着くのだが、今日は右手だけだ。

 内にある二つの超能力、生転と壊転。二つの力をゆっくりと混ぜ合わせていく。近づけていけばいくほどに反発し合う力に逆らって強引に押し込んでいく。

 どんどんと、進めば進むほどに反発し合う力は今にも吹き飛びそうなほどに不安定だ。

 ほんの少しの超能力同士の融合に全神経を研ぎ澄ませている。

 汗がぽたりと一つ滴り落ちた。

 あとちょっとだ。あとちょっとで二つがくっつきそうだ。

 また汗が一つ滴り落ちた。

 あとちょっとでくっつきそうなのに、近づければ近づけるほどに反発する力が桁違いに大きくなっていく。

 また汗が一つ滴り落ちた。

 本当に後ちょっとなのにくっつけられない。 

 近づける為に強い力で抑え込んでいるが、それももう持ちそうにない。

 ぼたぼたと汗が滴り落ちる。

 反発し合う二つの力はミクロレベルの距離まで近づける事が出来た。が、混合させるそのあと一歩がなかなか進まない。

 目が充血していきいくつかの血管が切れ始めた。心臓もどくどくと早く脈打ち、鼻血がス―っと流れ落ちる。

 もう限界で今にも倒れそうな時、僕は最後の悪あがきとして限界を超えて二つの力を思いっきり押し込んだ。

 瞬間、ふっと力が抜ける。それは押さえつけていた力が抜けたのではなく、反発し合う力が無くなったのだ。

 そして気づく。ついに生転と壊転が混ざり合った事を。先ほどまでは激しく反発し合っていた生転と壊転。触れた瞬間にその反発が無くなった。まるで、水滴同士が融合するようにある一定の距離に近づいた瞬間、お互いがお互いを引っ張り合って一瞬で融合が完成した。

 そして、内に残ったのは小さな小さな超能力の原石。込めた力は極わずかだが、その感じるエネルギーはとてつもない物を感じる。

 自分の内側にあるエネルギーは可視化は出来ない物の、感じるのだ。目には見えないがその二つから出来たエネルギーの原石は輝いて見えるほどに美しい事を。

 ものすごく安定しているエネルギーの原石は何もしなかったらいつまでも残りそうなほどに安定している。それはポテンシャルの壁を超えたのが原因だろう。あまりに高いポテンシャルの壁だったが、いったん超えれば前以上に安定している気がする。

 でも、今回はこの原石を解き放ってみることにした。何が起こるか分からないから、僕は3次元的視覚で誰も居ない事を確認して放つことにした。

 恐る恐る僕はエネルギーの原石を指先から解放してみた。

 指先から放たれた一筋の透明な力。その透明な力は3次元的視覚をもってしても全く見えなかった。

 そして、その通り抜けた後には、、、何も無かった。そう。壁を通り抜けて向こう側の部屋に貫通していた。幸い隣の壁で止まっていて外にまで行かずに大惨事にはならなかった。

 しかし、僕には一安心している暇は無かった。


「…やっべ」


 小さく声が漏れる。

 僕は慌てて壁に駆け寄り空いた穴を生転で塞ごうとしたが……超能力が発動しなかった。


「あれ?」


 もう一度超能力を発動してみた、が、まったく穴が塞がる様子が無い。

 確かに超能力は発動した。でも、直径10センチの穴が全く塞がってくれない。僕はもう一度試しで直してみようとしたが反応は一切ない。

 理由はいくつか考えられるが、核心的な考えが僕の中には一つあった。

 僕は考えていた。なぜ僕には二つの違う形での超能力があるのかを。正反対とも言える生転と壊転。これは同じ系統の能力である事は感覚的に分かっていたが、どんな因子で結びついているのかは分からなかった。

 そこで、考え方を変えた。この二つの能力は円の様に循環している物ではなく、直線の様な形をしているのではないか、と。

 n=プラスの時は生転の能力と考えて、n=マイナスの時は壊転の能力だと考えた。

 エネルギーを与えると何かを再生させるからプラスに。

 エネルギーを与えると何かを崩壊させるからマイナスに。

 しかし、この考え方にも納得はしていなかった。確かに円の様な物だと考えていた初期のころからしたら進んだ感覚はあったが決定的な何かが違う、そんな感じがしていた。

 そして、今回の実験で分かった。この二つの超能力の正体に。

 論理的に納得いっていなかった事、因子の問題だ。この二つは同じ能力の上に成り立っている。それは感覚として絶対にそうだと断言できる。

 性質上正反対の能力同士はどんな因子で結ばれているのか?それが全く分からなかった。

 でも、今回の実験で分かった。

 これまではn=プラスの時は生転、n=マイナスの時は壊転だと考えていた。しかし、これが真逆だった。n=プラスの時が壊転で、n=マイナスの時が生転。そう分かった。

 ”時間”がプラス、つまりは時間が進むと壊転に。”時間”がマイナス、つまりは時間が巻き戻ると生転に。

 そう、僕の超能力は時間を操る物だった。もっと言うならばエントロピーを無限に発散させると壊転になり、エントロピーを巻き戻すと生転になる。

 だから壊転は砂にする事しかできなかったし、生転は生物だろうが物質だろうが関係なく治せていた。

 そして今回の二つの力の融合実験。お互いを0方向に近づけ合う行為をしていた。普通ならば力が減少していき、最終的には両方のエネルギーが打ち消し合う。しかし、そうはならなかった。

 二つの力は打ち消し合う事無く融合した。そして、その時に相転移が起こった。xと言う時間の軸からyと言う空間の軸へと。

 時間と言うエントロピーの値は0の空間。そんなのはこの世界で三つしか存在しない。

 一つ目は光速での移動。アインシュタインの相対性理論では物質が光速で移動したとき時間は停止すると言われている。これはあくまで相対的な話だが確かにエントロピーは0になる。

 二つ目が絶対零度だ。熱力学第三法則では絶対零度でのエントロピー拡大は無いと書かれている。

 そして三つ目。無、だ。そもそも何もない空間にはエントロピーと言う概念すら存在しない。

 空間も、時間も物質も無い世界ではそもそも、エントロピーは存在できず、ただただ何もない空間と何も変化することが無い空間には時間と言う物がない。

 今回起こったのは三つ目だ。本当の意味でこの世からエントロピーとその情報を消し去る。それが起こったのだ。

 だから僕の生転ではこの壁を直せなかったのだ。エントロピーを捜査する僕の能力はこの世から消失した物質を直せない。

 物質と情報がこの世から消えているからいくらエントロピーを戻そうと、そもそもの物質と情報が無いから直せない。

 僕は余りの事に震える。こんなもの人に撃ったらやばい事になる。…って思ったけど、そもそも論、壊転も人には使っちゃだめだは。


「でも、この壁どうしよう…」


 さすがにこのまま帰る訳にもいかない。僕の超能力では直せない事が分かったから、結局誰かに相談しないとだめだな。

 僕はEgGNeuRonを着けると正剛少将にメールを送った。


〈少しお時間いいですか?〉

〈今はちょうど昼休憩だ。何か用か?〉

〈はい。お電話をかけてもいいですか?〉

〈いいぞ〉


 僕はEgGNeuRonを操作して正剛少将に電話を掛けた。


「正剛少将、お時間をありがとうございます」

「ああ、それよりも要件は何だ?」

「えっと、非常に言いにくいんですが…訓練施設の4番訓練室の壁を壊してしまったもので。どうすれば良いのかを伺いたくて」

「…そうか。一応こちらで手配しておこう」

「えっと、お咎めとかは…」

「ない。そんな事をしていたら優秀な超能力者は全員借金まみれになっている。訓練に失敗はつきものだ」


 ほっと安心した。これで1000万2000万の借金なんておいたくは無かった。母に言ったら肩代わりしてくれそうだが、それをやったら人間として終了だ。

 

「ああ鞠、そう言えばお誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」

「プレゼントを送れなくて済まないな。一週間後に少し時間が空くからその時にお前のプレゼントを贈る」

「…忙しいのに、ありがとうございます」


 ほんと、この人は良い人だ。

 ちょっとほっこりした気持ちになった僕は正剛少将に別れを告げて電話を切った。

 僕はほっとしつつ、綺麗にくりぬかれている壁も見た。ぽかんと空いた穴を見つつ僕は考えた。

 この能力を練習したい時ってどこで練習すればいいのだろう?さすがに同じような事を何回も繰り返す訳にはいかない。…って、思ったけどこの超能力いつ使う機会があるのだろう?今まで壊転すらまともに実践したことは無い。壊転以上のこれは無用の長物じゃないだろうか?

 まあ、それはともあれ同じような事を繰り返さない様に気を付けよう。




もし、この作品を気に入ってくれたら「いいね!」や「ポイント」を入れてもらえると非常に嬉しいのでお願いします。


楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。自分でも見返しているのですが誤字脱字があれば報告してくれるとありがたいです。


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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