第二十六話 一週間の禁欲?
病院を退院してから一週間が経った。
あれから母に超能力の使用を禁止されていた僕はやっと解禁された事にワクワクとしながら訓練施設に向かっている。
正剛少将に最強の再生能力者になると言った手前、何もしない時間はもどかしくてたまらなかった。
そんな気持ちから8時に家を出た。いつもとは違い、多くの通勤する人がいる。通勤ラッシュの電車に揺られながらちょっと後悔する。特に前世の記憶がフラッシュバックしてくるのが最悪だ。
おしくらまんじゅうされる中でやっと目的の駅に着いた。いつもの時間では人が殆どいない13番区の駅にも、学生服を着た若者が何十人、何百人と居た。
場違い感が半端ないが、気にせず進んだ。やけに周りの視線が痛いし、何枚かフラッシュが炊かれた気がするが、気にせずに向かう。
噴水の所で僕と学生の行く道は分かたれる。人ごみの中揺られて喉が渇いた僕は急いで訓練施設に向かった。
自販機で飲み物を買って、ベンチに座る。やっと人ごみの中から抜け出せて一息ついているが、それよりも超能力を早く使いたくてうずうずしている。
休憩はそこそこに僕は一つの部屋にIDパスポートをスキャンさせて、部屋に入った。
相も変わらず白い部屋に慣れてしまった僕は気にせずに荷物を壁際に置いておく。
一度置き位置をミスって携帯端末を灰にしたことがある。あれから学んで次は遠めの場所に置くようにしているのだ。
軽くストレッチをしながら心を整えた。別にやらなくてもいい行為だが、ルーティーンとしてやっている。
こうやって心を落ち着かせる行為をした後に練習をすると、なんだか調子が良い気がするのだ。
これは気のせいかもしれないが、やらないよりかはやった方が良いからな。それに練習ぐらいは落ち着いてゆっくりとやりたいしな。
十分ほどストレッチをすると、自販機で買った飲み物を軽く飲んだ。いつも通りの準備運動が終わった事で心は静かに落ち着き、雑念も無くなった。
軽く息を吐くと飲み物を地面に置き僕は、部屋の中心に立った。
「よし、始めようか」
僕は両の掌を静かにゆっくりと床につける。目を閉じて集中すると、左手から壊転を右手から生転を同時に別々の能力を発動させる。力を拮抗させる様に同じ程度のパワーで超能力を使う。
しかし、徐々に床が崩壊し始めた。
力は同じだが、壊転の方が強く作用するために床がどんどんと砂になっていく。それでも気にせずに両方の出力を上げていく。限界まで到達した出力がすさまじく、拮抗しているはずなのに1メートルもの範囲を砂へと変えてしまった。
「はぁはぁ」
頭痛が激しくなり、意識を失いそうになるが、一瞬だけ再生を自身に使用して立て直す。それでも1秒後には同じ様に頭痛が起こるのだが、また再生を使用して治す。
いくら治しているとは言え限界はある。鼻血がぽたぽたと垂れ始めて意識が朦朧としてくる。超能力も限界を超えて今にも止まりそうだ。
最初から比べたら最後のともし火の様に弱い力だが、最後の一瞬だけ限界を超えて超能力を発動させた。
「はぁはぁぁあ!」
気合の咆哮と共に限界の全てを振り絞って超能力を発動させる。
次の瞬間、プツリと意識が飛んだ。
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「はっ!」
急激に意識が浮上したことで飛び起きる。急な目覚めに混乱していた僕は周囲を確認する。一周周囲を確認すると、徐々に思い出してきて自分が今何処にいるのかを完全に思い出した。
「…ああ、超能力の訓練をしていたのか」
飛び起きて立ち上がったは良いものの、限界まで酷使した超能力のせいで体は貧血でふらつき地面に倒れ込んでしまった。
倒れ込んで地面を見てみるとそこのは少しの血が垂れていて元床の砂が赤黒い色に変色している。
そんな赤い点を見ていると、徐々に視界が歪んできて吐気がこみ上げてきた。
「うぉえ」
起きた時には気づかなかったが、異常なまでに気持ち悪くて吐き気がすごい。
めまいもしていて、吐きそうになる口元を抑えながら、置いてある水の所へ這いずって向かった。
何とか水を口にして寝転がるが、目を閉じても視界が揺らいでいるのが分かる。
呼吸が荒くなり、冷や汗を大量に流す。超能力で治そうと思いもしたが、限界まで使った超能力はうんともすんとも言わない。
ただ、気持ち悪さに耐える時間が過ぎる。携帯端末で時計を確認するが、1時間しか経っていない。体感的には3時間ぐらいたっている感じだったが、気持ち悪い時間は過ぎるのが遅い。
それから30分、少し水を飲みながら休んでいると、だいぶ体も良くなった。まだ気持ち悪さは残っているが、この程度ならば回復した超能力でどうとでもなる。
さっそく、気持ち悪さとおさらばしたい僕は超能力を使った。
スっと身体が軽くなる。まだ残っていた気持ち悪さも無くなり快適だ。
自分の超能力の有用性に感謝しながら、さっきまで無視していた問題を見た。
先ほどまではそれどころじゃなかったから後回しにしていたが、この3メートルにも及ぶアリジゴクの巣の様な砂の円錐形をどうすれば良いか考えた。
もちろん絶対に直すのだが、これを治せるほどになるまで何時間かかるか分からない。最悪5時間後とかになりかねない。
それでも、時間でしか解決しない問題なので、いったん見ないふりをして動画を見る事にした。
最近は旅系の動画にはまっている。
世界が天使によって崩壊したことによって世界のインフラも崩壊した。それは物流からインターネットまでありとあらゆる物が、だ。
そんな世界でも旅、いや冒険をする者がいる。その者たちは危険な事を承知の上で外の世界で旅をしているのだ。
そんな世界で旅をする人は案外死者が少ない。もちろん天使に出会って死ぬものもいるのだが、その数は年間10000人前後と言われている。
もちろん前世に比べたら危険だが、人間を殺しうる外敵が居る世界と考えれば少ない。
では、何故少ないのか?その疑問は天使の習性に答えがある。
天使は世界で特定のエリアでしか出現しない。それは東京を始めとする北京、モスクワ、パリ、ワシントンD.C、ロサンゼルス、シドニーとある。これは天使の7大出現地として知られている。しかし、それ以外にも小さな出現場所はいくつも存在する。
例えばだが、日本ならば大阪にもう一つの出現場所がある。もちろんの事、東京よりかは圧倒的に数は少ないが、それでも出現はするのだ。
もちろんの事海外にも同じような場所がある。その中でも有名なのがインドの首都、サウジアラビアの首都、南アフリカの首都、ボリビアの首都、フィリピンの首都、シンガポールと世界各地の場所にある。その出現地を世界地図に照らし合わせてみれば世界均等に散らばっている事が一目で分かる事だろう。
さて、話が逸れてしまったので戻すと、天使の習性についてだ。
天使は人の多い場所に向かって動く事が知られている。これがあるおかげで少人数での旅が出来るのだ。もちろん、一定の確率で天使が襲ってくる事もあるのだが、1、2体ぐらいと少数だ。故に超能力で倒す事も出来る。
さて、勘が良い人なら気づいただろうか。この大和都市はこの天使の習性を利用して建てられた物だと言う事に。
大規模な天使出現場所がある近くに大人数が住む都市があると、天使の広域拡散が防止できるのだ。
さながらこの都市はヘビを誘うモルモットゲージだ。
でも、それがあるおかげで広範囲に大量の天使が行くことを抑制で来ている。そして、今見ている個人での旅の動画も見る事が出来るのだ。
そして今見ている旅行系の動画なのだが、富士山登頂と書かれた動画を見ている。
この動画の人なのだが、飛行が出来る超能力者で山道とか関係なしにどんどん山頂へと飛んで行っていた。
しかし、今の富士山は前世の様に五合目からのスタートとかは出来ない。本当の麓からスタートして山頂を目指すのだ。
そして編集された40分の動画の後半部分では綺麗な富士山からの山頂が映し出されていた。
あまりにも綺麗な景色に、前世で富士山に登っておけば良かったと思わせる程に美しかった。
今生では富士山登頂は現実的では無い。もちろん天使が居ると言う事もそうなのだが、何より麓からのスタートともなると、それなりの日数をかけて上らなければならない。
前世の様に一日で登る事は不可能であるどころか、まず富士山の麓に行くのでも数日以上はかかる。
もう一生見る事が出来ない景色があると言うだけでちょっとナイーブな気持ちになった僕は、静かに携帯の電源を落とすのだった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




