第二十四話 side 正剛正義
side 正剛正義少将
我は今見ている少年に驚きを隠せないでいた。
この少年が来てからもうすでに病室の半分の人間を治療してしまった。その持続力もそうだが、全治させず力を温存している事がまだ3歳としては異常と言っていい。
この少年との出会いは気まぐれだった。我の部下からレベルエプシロンの再生能力者が現れたと言う報告が耳に入ってきた。
再生能力者はどこも欲しい。その有用性が高いのもそうだが数が圧倒的に少ない事に起因する。
それ故に政府内での奪い合いが起こっている事は知っていたが、興味は無かった。
一年と言う長期間をかけてやっと少年の所属に話が付いた。所属は防衛省超能力庁に決まった。
そもそも普通は防衛省超能力庁の所属になるのが一般的なのだが、内閣の一部がダダをこねた結果長引いた。
再生能力者は何処もが欲している人材だ。それは我の所、スサノオ部隊も他の省庁も変わらない。特にスサノオ部隊は天使との戦闘がメインになる部隊だ。必然と怪我人も多くなる。
故に新しい再生能力者を見に行こうと思った。別に明確な理由があった訳でない。ただスケジュールに余裕があったから見に行こうと思った程度だ。
そして実際に会ってみた。
最初見た時は目隠しをした女の子だと思った。しかし、事前に貰っていた情報では男と書いてあった事を思い出す。
まあ、その事はいい。それは人それぞれの趣味だ。我がとやかく言う事でもない。
とは言った物の一つだけ妙に目につく物があった。それが目に着けている眼帯だ。我の部隊にも目隠しをしている者もいる。そのほとんどは探知系の超能力者だ。
我は肉体強化系の能力者故に分からないのだが、部下に聞いた話だと「別の視覚がある」と言っていた。
その少年も同じなのか眼帯をしていても問題なく動いている。
我が考えている間に話は進んでいった。別部署の話に口を出すほど老いてはいない。
どんどんと話は進み、終わった。
「ありがとうございます。正剛さん、私の話は終わりました」
「うむ。あい分かった」
超能力庁の職員の話が終わり、我の方にパスしてきた。
「小僧、年はいくつだ?」
「2歳」
初めて声を聴いたが、拙いながらもしっかりと理解している。大人しい事と言い利口な子だ。
高位の超能力者は総じて頭が良い。未だ解明はされていないが、脳波の強さが関係されていると言われている。
周りくどい話は嫌いな我は単刀直入で軍へ誘ってみた。が、案の定断られてしまった。
まあ、試しで誘ってみたに過ぎない我は直ぐに話を変えた。
「ところで小僧よお主は特別超能力育成プログラムに参加するのか?」
「はい」
「そうか。なら一つ話しておこう。特別超能力育成とは防衛省に連なる部署だ。それは知っているだろう?」
「一応」
母の方がそう答えた。ここからは子供が理解するには難しい内容だ。と言うよりかは母の方に説明する。
「その卒業生の8割は軍に入っている。もちろん強制と言う訳では無いが、そこを卒業しただけで好待遇で迎えられるからな。わざわざ外の企業に就職する必要性がないのだ」
「…何が言いたいのですか?」
「簡単な話だ。我と懇意にしておいて損は無いと言う話だ」
そう言った次の瞬間、子供の口から衝撃の言葉が出た。
「正剛しょうしょう、よろしく」
それを言われた瞬間、我は一瞬子供と言う事を忘れて大人がそこに居ると錯覚してしまった。それほどまでに衝撃的だった。
高位の超能力者は総じて頭が良い。未だ解明はされていないが、脳波の強さが関係されていると言われている。
しかし、それでもここまで早熟であることは驚き以外の何物でもなかった。
「はは!今の言葉は小僧に言った訳ではない。しかし、今の会話を理解していたのか!しかも、すぐに切り替えれる速さも良い!おい、小僧!名前は何という?」
我は余りの興奮に身を乗り出してしまった。周囲が驚いた顔をしているが、そんな事は関係ない。
「…鞠」
「そうか!鞠か!よし覚えておこう」
我はこの子供は普通ではないと分かった。もう大人並みの知性を持っているとみなして、名刺を渡しす。
「気が向いたら連絡してこい。可愛がってやる」
我は時間も迫っているのを確認すると笑いながら部屋を後にした。
部屋を出て直ぐに、電話を掛ける。
「今向かう。準備しておいてくれ」
連絡を一つ入れ、下に待機していたリムジンに腰かけた。
「ハハ、今日は気まぐれで参加したが、正解だったな」
上機嫌な我はワインボトルを一杯開けた。
~~~
時は戻り、現在。
その少年、鞠は目の前で部下を救ってくれている。
まだ子供だと言うのに我の部下の再生能力者に引けを取らない。いや、超能力だけならば部下以上だ。
再生能力者は0か50か100。そういわれるほどコントロールができない。
人体の構造は複雑だ。それを無視して治す事ができるのが再生能力者だ。故に過程を理解できていない物を途中で止める事なんてできないのだ。
もちろんだが才能のあるものや、熟練した物ならば調節は出来る。しかし、超能力が発現してから2年と経っていない子供が簡単に出来る様な物では無い。
故に目の前にいる少年、鞠は異常なのだ。
でも、そんな天才でもずっとは続かない。
超能力を使えば使うほどに鞠の体から力が抜けていくのが目に見えて分かった。
それもそうで再生自体ほかの超能力に比べて一度の消耗が激しい。それを何十人と繰り返していけば、どんな天才少年でも無理がある。
何十人か数えてはいないが、かなりの数治している最中だった。鞠の鼻から血が数滴垂れたのは。
これは超能力の使い過ぎによく見られる初期症状だ。血圧、血糖値、心拍数が跳ね上がる事により鼻の粘膜が破れて鼻血が出る。
さらに使用を続けていくと、目の血管が破れて赤くなり、時に血の涙が出る。
そして、脳または心臓の血管が破れて死に至る。
「鞠…。これ以上はやめろ。お前の命に関わる」
「…これ以上の超能力使用はお勧めできません。これ以上は命に関わります」
医者も同意見の様で、超能力の使用を止めるよう言った。しかし、鞠は止まる気が無いようで次の患者の元へ歩き出そうと一歩を踏み出したが…。
「っ!」
慌てて、鞠の体を抱きとめる。さっきまでは自分の意志で動いていた体は今は何の反応も示さない。
まるで本当の人形の様にピクリともしない体は死体の様にも見える。
「…気絶したのか」
その小さな体は起こした奇跡とは違い、異様に軽かった。
気絶した鞠を医者に預ける。タンカーで運ばれていく鞠を見送った我はここに居ても何もできない。邪魔になるのも良くないので少し休憩をしようと思い自販機でブラックコーヒを買う。
「正剛少将」
椅子に座ってコーヒーを飲んでいると背後から女の声が聞こえた。その声に聞き覚えがあった我は振り返らずに返事をする。
「香織か。鞠の様子はどうだった?」
「医師が言うには問題ないそうです。少し休めば元通りになるだろう、と」
「そうか」
それを聞いて一安心した。
しかし、一つ聞かなければいけない事がある。
「それで、何人が死にそうだ?」
それはスサノオを率いる長として絶対に聞かなければいけない事だ。
少しの沈黙の時間が落ちる。時間にして数秒だが、それだけである程度の先が分かってしまった。
「…3名です」
「…そうか」
自分は何もできない事が物凄くもどかしい。あの少年に全て背負わせてしまった事を苦しく思う。もう少し指揮をうまくやれていれば、もう少し怪我人を減らせたかもしれない。
我はコーヒーを一口啜る。その味は今の心境の様に苦かった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




