第二十一話 帰り道
「鞠くんは何が食べたい?」
「んー甘いものが食べたいですね」
「俺はたこ焼きや!」
「お前には聞いていない」
「何やと!」
あいも変わらず言い合いをしながら帰っている2人の間に挟まれている僕は、もう慣れた言い合いをスルーしながら歩いている。
2人の言い合いをBGMに学園区を抜けて14番区へきた。そもそも訓練施設が13番区でも14番区寄りの場所にあるから、大して歩かなくてもすぐに着いた。
相変わらずB番区には沢山の店がある。食べ物の店はもちろんの事、服や鞄といった物から超能力者ようの物までと様々な物が売っている。
「で、鞠くんは何が食べたい?」
「んー」
僕はどれにしようか悩んでいる。別にこれといって特定の物が食べたい訳では無い。
甘い物であればどれでもよかった僕は、適当に目についたクレープ屋さんを指差した。
「あのクレープ屋さんがいい」
「そうか。空いてるみたいだし、食べるか。もちろん俺の奢りだ」
「え?ワイにも奢ってくれるっちゅんか?!何とも太っ腹やなぁ」
「もちろんお前は自腹だ。誰が好き好んでお前なんかに奢るか」
ああ、またいがみ合っている。
僕はそんな2人を放置してクレープ屋さんに入って行った。
店内は可愛らしい装飾がしてある店だ。ピンクと可愛いマスコットキャラクターが所々に飾ってある。
前世で渋谷に行ったときに仕事ついでに竹下通りに行ったことがある。その時にこういった雰囲気の店をたくさん見た覚えがあるな。
もう16時ほどで半分ほどの席が学生で埋まっているが、幸いまだ席はありそうだ。
「いらっしゃいませ」
「鞠くんは何にする?」
女の店員が元気よく挨拶をしてくる。僕たちはメニュー表を見ながら何を食べるか選ぶ。
僕は何にしようかな。んー、やっぱ最初は王道にしておくか。
「僕はいちごクレープ」
「鞠くんはいちごクレープね。じゃあ、俺はプレミアムモンブランクレープにしよう」
「ワイはツナ&クリームチーズにするわ」
え?そんな野菜とツナが乗ったクレープを食べるの?こんなの頼んでいる人初めて見るかも…。美味しいのかな?
ちょっと興味が湧くが、挑戦してみる勇気は無かった。
「はい、伺いました」
店員が目の前で生地を焼いて作ってくれる。
こんな機会がほとんどの仕事を代行している世の中で人の手で作っているのは珍しい。
慣れた手つきでホイップクリームを塗り込み、イチゴをのせていく。作り終えたイチゴクレープを店員さんが笑顔で渡してくれた。
「はい、どうぞ」
受け取ったクレープは紙越しでも生地の暖かさがわかる。甘い小麦の匂いとホイップクリームの匂いが僕の胃袋を刺激してきた。
次々と慣れた手つきで作っていった店員は2分で2人分のクレープを作り上げてしまった。その手つきはまさに職人技と言っても良いほどに洗練されていたことを言っておこう。
店員がクレープを作っている間に会計を済ませていた2人はクレープを受け取ると直ぐに空いている席の方に座った。
「鞠くん遠慮せず食べていいよ」
優しい笑顔でそう言うレイ。
マジで何回も思うのだが、レイってめっちゃモテるだろうな。こんなことがナチュラルに出来るだけで男でも惚れてしまう魅力がある。
でも僕はそっちの人じゃないから惚れることは無い。まあ、そっちの人からはモテまくるだろうけれども…。
「じゃあ遠慮せずに。いただきます」
僕は小さな口でクレープに齧り付いた。
「おいしい!」
前世では別に甘いものが好きでは無かったが、今の子供の味覚は甘いものが大好物だ。
ガツガツと食べ進めていくと、2人が半分のところで全て食べ終わってしまった。
物寂しげにジュースを飲んでいると二人も食べ終わったようだ。
「いやぁ美味しかったなぁ」
あの主食みたいなクレープを食べた誠人がお腹をさすりながらそう言っていた。
確かに、他のクレープに比べても内容量が多かった。
「どう?鞠くんは美味しかった?」
「はい、美味しかったです」
「ところでよぉ鞠。お前はなんで目隠しをしておるんや?」
「ちょ!誠人のバカ!」
誠人はマイ爪楊枝で歯の隙間をほじりながら、何気なくそう言った。それとは対照的にレイは焦った様に誠人の事を叩いた。
「何するんや!」
「お前がバカだからだ。ごめんね、もし嫌なら言わなくてもいいよ」
「いや、別に嫌ッて訳じゃないよ。気遣ってくれてありがとう」
「本当?無理しなくても大丈夫だよ」
気遣いがありがたいが、別に隠している訳でもない。
「本当に大丈夫だよ。僕のこの眼帯の事だよね。この眼帯は別に目が見えないで付けている訳じゃないんだ」
「??じゃあどういう事や?」
「…ああ、そういう事か」
誠人は分からないようだが、レイの方は気が付いたようだ。
「つまりは、視覚に頼らない視野があると言うことか」
「うん、そう。僕は視覚無しで物を見れる。でも、デメリットもあるんだよね」
「デメリット?ってなんや?」
「分かりやすく言えば視覚なしの情報量が多すぎて目の視界の情報まで処理できないんだ」
「??ワイには分からんわ」
「…なるほどね。そういう事か」
「そう。だから僕は目隠しをしているんだよね」
ちなみにだが、成長と共に脳が少し発達した事と、3次元的視覚の微調整が出来る様になったことで、目で物を見る事も出来るようになった。
じゃあなぜ今なお眼帯をしているのかと言うと、気持ち悪いからだ。
全く感じの違う視界が二つあるのが普通に気持ち悪く酔いそうになる。故に未だ目隠しをしているのだ。
「鞠くん、一つ聞いてもいいかな?」
「なに?」
「君の視界では僕たちはどう見えているの?」
「んー」
それを説明するのは難しい。この感覚を知らない者からすれば、理解するのも難しい感覚だ。
そうだな、感覚的に一番わかりやすいのは…。
「ルービックキューブってあるでしょ。それを全方位から満遍なく見れると言えば一番近いのかな?」
全方位とは言ったが、実際はルービックキューブの中までも見れる。
「…なるほどね。そう言った感じか。なんとなくわかったよ」
どうやら通じたらしい。かなり難しい感覚だと思うのだが、細かい説明なしに分かってくれるのはありがたいな。
「と、なると探知系超能力者に近い感覚器官なのかな?」
んーどうなんだろう?そもそも僕は探知系超能力者じゃないから何とも言えないが、そうなのかもしれない。
「って、話していたらもう17時になっちゃったね」
あれ?もうそんな時間?
僕は携帯端末を開いて時刻を確認した。
5:11分と映るモニターの下には母からの通知がいくつも表示されていた。
げ!母からのメールを無視したままだった。
僕は慌てて母にメールを返した。安心した文書と共にお小言を貰ったが、こうやって心配してくれるのは素直にうれしい。
「ごめん。僕もう帰んないと」
「そっか。鞠くん遅くまでごめんね」
「ちょい待ちいや。IDメールを交換しようや」
「確かにそうだね。鞠くんいいかい?」
「うん!」
こうして僕のフレンド欄には母と正剛少将の他に2人の名前が表示されるのだった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




