第二十話 二人の青年
病室に入ると、相変わらず誰も居なかった。
別に誰かが居る事に期待などしていなかったが、本当に過疎っているなーと思う。
飲みかけのペットボトルを机に置いて携帯端末を開いた。母からメッセージアプリで着信が来ていた事に気が付き、返信を返しながらジュースを飲む。
「はぁ。案外やる事って無いな」
もう、目的は果たした。今日の目的は1人でこの施設までくる事だった。
こんな豆腐施設ではショッピングモールの様に暇をつぶす事ですら難しい。
アイリの動画の再生能力を使用している所だけを見た僕は、もうすることが無くなったので適当にネットサーフィンをしていた。
流石インターネットは前世と同様に時間を潰す事には特化している。気づいて時計を見れば15時30分を回っていた。
そろそろ帰ろうかなと考えて帰り支度の準備をしていると病室の扉がいきなり開いた。
全く意識していなかった僕はいきなり開いた事にびっくりしてそちらの方に顔を向けた。
「おおぉ!知らない少年がおるわ!」
僕がびっくりしてそっちに意識を向けると、関西弁が特徴的なチャラい金髪男がそこに居た。完全に見た目がヤンキーにしか見えない青年に僕の身は自然とこわばってしまう。
……ええっと、…なんていうんだろうか。この人怖い。だって金髪に耳ピアスどころかいろんな所に金属が刺さっている。
「…」
「おまえ見た事無い顔やなぁ。最近きた子ぉか?」
僕が黙っていると、金髪のヤンキーの男が僕に近づいてきて、関西弁で喋りかけてくる。
ついにはその怖い顔が僕の鼻先十センチほどの距離まで迫ってきた。
えっと?僕はなんて答えればいいの。ってか、顔!顔怖いって!マジでどっかでマリファナや大麻を吸ってそうな顔だって!誰か助けて!
「え、ええっと。初めまして?」
あまり怖い顔に声が裏返ってしまう。正直今すぐにでも逃げ出したい僕は必死に心の中で助けを叫んだ。
そんな僕の心からの叫びが届いたのか、ヤンキーの後ろから一人の男が走ってきて、ヤンキーの頭を思いっきり叩いた。
「おい!誠人やめろ」
バシン!と言い音が病室の中に響き渡る。
ヤンキーの男は後頭部をさすりながら振り返ると怒りの声を上げた。
「レイか!いきなり叩くなんて酷いんちゃうか!」
「それはお前が子供をビビらせているからだ!そのぐらい分かれアホ!」
レイと言われた男は髪を短く切りそろえて清潔感のある青年だ。身長もヤンキーの青年よりも少し高く、体つきはすらっとしている。
言っては何だが、レイと呼ばれた青年はかなりモテるのではないだろうか。前世にもこう言った感じのクラスメイトが居たのだが、かなりモテていたのを思えている。
生涯童貞で終わった僕からしてみれば、マジで羨ましい存在だ。
「別にビビらせた訳ちゃうんよ。こんな施設に来る新人なんて殆どおらんから、ちょっとあいさつしただけさかいに…」
「誠人よ。お前は自分の顔を鏡で見た事が無いのか?言っては何だがお前の顔はめちゃくちゃ怖いぞ」
「そんな事あらへんよ。ワイの顔はイカしてて、かっちょいいやろ!」
「……はぁ、バカに言った俺が悪かった」
「なんやと!」
レイと誠人の二人の人物は僕を無視して口論に発展していた。
僕はどうしたらいいのか分からずに完全に右往左往していて、対応に困っていた。
完全に喧嘩に発展しそうな空気を発する二人を前世大人としてどうにかしなければいけないような気持になっていると、レイの方が急に口論をやめて僕の方に目線を合わせてくる。
「おっと、ごめんね急にこんな感じになっちゃって。誠人はバカでアホだが、悪いやつでは…一応無いから許してやってほしい」
「えっと、…はい」
「まあ、こいつはバカだから言っている事は聞き流して良いよ。顔に騙されず話している事を聞き流していいからね」
「んだと?!レイお前は喧嘩を売っとるんか?!」
「ふん。事実だろうが」
「あぁ!上等だごらぁ!」
誠人がレイの胸倉をつかんで鋭い眼光で威圧する。それに対してレイの方は両手を上に上げながら参ったポーズをしているのだが、その雰囲気は完全に誠人の事をバカにしている感じだった。
二人の間で喧嘩するのは構わないが、僕を挟んでの喧嘩はやめていただきたい。まだ子供の内に入る青年とはいっても、高校生ほどもあるガタイの二人から流れ弾を食らったら僕の体はひとたまりもない。
僕は危険を察知してその場から退散すべく、一歩身を引いた。
しかし、僕の予想とは違い、にらみ合っていた二人は誠人がレイの胸倉を離したことで二人の喧嘩は始まることなく終わりを告げた。
「っち!」
「っと、すまない。こんなバカに付き合っている場合じゃないな。ごめんな少年よ。名前は何て言うのかな?」
「鞠」
「鞠くんか。いい名前だ。俺の名前はレイって言う。よろしく」
「よろしく」
「このバカは誠人だ。よろしくしてやってくれ」
「誰がバカや!」
二人はなんだかんだ言っているが楽しそうだ。
前世にはこう言った喧嘩できる友達なんて居なかった。せいぜいが会社の同僚ぐらいの付き合いしかなかった。
今生ではこういった友達も作りたいと思った3歳児である。
生暖かい目で二人を見ていると、僕の思っていた以上に口論がどんどん激しくなっていき、雲行きが怪しくなってくる。それでも何故か大喧嘩になる事は無いのだろうと言う不思議な関係性が二人にはあった。
「ええやろ!レイ!今日こそはお前をぶちのめしたる!」
「は!戯言を。お前が俺に一生勝てないって事を心の底から思い知らせてやる!」
「言うたな!第一訓練場に行くで!」
そう言い合って二人は病室から出ていった。僕を1人置いて。
…あれ?僕の感じ取った雰囲気は間違っていたのだろうか?
なんかちょっとだけ寂しい気分になった僕は二人の後を追っていくのだった。
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見失うことなく二人の後をついて行く。未だ言い合いながら歩いている二人だが、それもすぐに途切れた。
この施設の最奥にある二つの部屋。今までの部屋とは違い、広さも頑丈さも格が違う。
レイがその部屋のIDパスポートをかざして部屋の使用許可を取る。
僕も観戦するために部屋に入った。
部屋の中は相変わらずの白一色だ。本当に何もない部屋の隅で体育座りの体制で二人のやり取りを観戦する事にした。
時間的にはそろそろ帰りたい気分だが、このプログラムに呼ばれるだけの超能力者同士の戦闘が気になっていた。
子供という事もあり好奇心には勝てないのだ。
まあ、言い訳なんだけどね。
「それじゃあ始めようじゃないか!」
レイが声を張り上げてそう言うと、レイの体の周囲に霜が降りる。
「ハハ!負けても泣くんじゃねーぞ!」
そう言った誠人は両手に炎を纏わせている。二人は何回も戦ってきた様で何の示し合わせも無く戦闘の構えを取った。
まさしく皆が思う超能力者同士の戦いが始まろうとしていた。
嵐が来る一瞬前の静寂。そこにただ一つの僕が唾を飲み込む音が響いた。
次の瞬間。二人が人とは思えないスピードで駆け出すと誠人は炎を纏った拳を、レイは氷の槍柱をぶつけ合った。
ちょうど中間の部分で激しくぶつかり合った超能力は互いの威力を相殺し合って対消滅する。
誠人は後方に飛びのき、氷の槍柱は粉々に砕け散った。
レイは走っていたスピードを落とす事なく誠人に突っ込んで行く。
「吹き飛べ」
レイが掛け声を上げると同時にさっきよりかは細い複数の氷の柱が誠人に向かって伸びた。
誠人は両手に再度炎を纏わせるとさらに炎の力を強めたのか炎の色が青色に変化していた。
「は!しゃらくせー!」
圧倒的な熱波が周囲を焼け焦がして行く。かなりの距離がある僕ですら熱さを感じるのだから、あのあたりの温度は一体何度になっているのだろうか。
氷の柱が誠人に当たる前に溶けてなくなっている。あまりの熱さにレイもたじろいで後ろに飛び下がった。
「はぁはぁ。…どうや!」
「誠人。息が上がっているじゃないか」
「このぐらい、どおって事ないで!」
さらに温度を上げた誠人が足にも炎を纏わせると、レイに向かってロケットブースターのように加速した。
青い軌跡を残しながら直進する誠人は刹那にレイの眼前まで迫っていた。が、それを予見していたレイの方が一歩上手だった。
床から突き上げた氷の柱が誠人の顎をタイミング良く捉えた。
「ぐボォが!」
ロケットブースターの勢いのまま、レイの上を通り去ると壁に衝突して動かなくなってしまう。
「ふん。だからバカだと言っているのだ。お前はあまりにも直進的すぎるのだ。まあ、聞こえていないと思うがな」
気絶している誠人に向かってそんな事を言う。
なんか決め台詞を言っているが、カッコいい。これが普通の中学2年生ならイタイ子として見るのだが、今の試合を見た後では話が違ってくる。
ギリギリ目で追えるレベルの戦いなんて前世では映画の中でも無かった。
「凄いです」
パチパチと拍手しながら両者の戦いをほめる。
「そ、そうか」
ちょっと恥ずかしそうに頭をかいて、体を動かしたからか火照っている頬をしているレイを見て、これは女にモテるだろうなと思った。
しかし僕にはそっちの趣味は無いので、伸びている誠人に近寄った。
「鞠くん?何するの?」
僕が急に立ち上がって誠人の手を握ったことで不審に思ったらしい。
僕はいちいち説明するのもめんどくさいので、治して見せてから説明する事にした。
「えい」
時間も経ったことで1人分を再生させるには十分以上の力は回復している。
僕は超能力を使って誠人を治した。
「は!」
治った瞬間に飛び上がり起きた誠人にびっくりして後ろに倒れてしまう。それをすかさずレイが受け止めてくれた。
その仕草が紳士すぎて「やだ、イケメン」なんておばさん臭い口調が口から出るところだったわ。
「あ、ありがとうございます」
「いや、いいんだよ。それよりも誠人に何をしたの?あの感じだったら30分ぐらいは気絶しているはずなんだけど?」
「えっと、僕は再生能力者なのですよ」
そう言うとレイはかなり驚いた顔をした。
「ええ!凄いね。初めて見るよ」
「いえいえ、すごくなんてないですよ。ちょっと珍しいだけで僕は何もしていないですから」
「鞠くんは賢くて偉いね。その年で謙遜が出来るなんて」
「おい、ちょっとは俺に説明してや」
飛び上がっていた誠人は周囲を確認するようにキョロキョロしていたが、僕たちが話している事に気がついて話に混ざってきた。
「いやね。この鞠くんが再生能力者だったんだよね」
「さいせい能力者?何やそれは?」
「…ごめん。バカなお前に共感を求めた僕がバカだった」
「んだと?!」
また、2人の口論が始まってしまった。これは第二戦に突入しそうになっている所を僕は止める事にした。
一応、大人だしね。
「2人ともいい加減にしてください」
「おっと、ごめんごめん。いつもの癖でね。鞠くんはこの後何か用事はあるのかな?」
「おい!無視してんじゃねーよ!」
まだ試合の余韻が抜けていないのか、かなりヒートアップしている誠人は自分の話を無視されたことにさらに怒りをヒートアップさせる。
「バカは少し黙っていろ」
静かにそう言ったレイは氷で誠人の体全体を覆った。カチンコチンになった誠人はまさに雪の銅像の様になっていた。
僕はその氷を少し叩いてみたが、固い音が鳴っていて到底壊せそうにも無い。
「ごめんね。バカが」
「いえ、いいんですよ。僕はこの後帰ろうかと思っていたところで」
「そうなんだ。じゃあ、お詫びも兼ねて何か奢らせてよ」
…前世大人としては恥ずかしいが、素直に奢られておこう。だって、僕にはお小遣いがないから買い食いとかもできない。
…正直くる時にも美味しそうな店があって行ってみたかったんだよね。ここはありがたく話に乗らせてもらおう。
「お願いします」
「よっしゃ、行こうか」
「コラ待てぃ!」
氷から自力で抜け出した誠人が僕たちの後を追って走ってきた。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




