7話.勇者の旅立ち④~カインは決意を語り一人旅立つ~
どうも皆様。ご来訪に感謝です。
今回ついにカインは父の許を離れます。
そして翌日。
カールの言葉通りカインは登城して鑑定を受け、パフォーマンスとして聖剣を抜いて“勇者”として認知された。
どうやら、以前届いた手紙の『受け入れる用意』というのはこのあたりも含めてのことだったらしい、実にスムーズな進行だった。
カイトから受け入れを要請する手紙が届いた時点から手回しをしていたか、『あまりに幼い『次代の英雄』であり、次期国王とこそ親睦を深めることが必要』という名目ですんなり第一王子預かり、また『長期に渡る修行の期間が必要であり、魔族に対する功が上がるのはかなり先となる』からと、国民や人類領各国に周知される式典は魔族領遠征直前に行われることとなっていた。
その為、今は第二王妃が祖国シュヴェルトライヒから「いずれ産まれる我が子に」と連れて来ていた王子付きの達人が鍛えるということになっている。
もちろん、実際には条件付きで放牧するのだが。
「さて、と。“勇者”認定おめでとう坊主。んじゃ先の話を進めよかい」
「殿下。まずは、要望を通してくださったことに感謝いたします」
場所は、第一王子私室。
部屋にいるのは、カール第一王子、ニドレイト父子、そして王子付きの武人が二人と白皙美貌の秘書長官。
カイン放牧の口裏合わせのために集まっている。
「良い良い。坊主が勝手に育ってくれるならこっちも楽だかんな」
「確かに、殿下と護衛の二人は楽でしょうね。私は、護衛のシフトや“勇者”様につけているはずのメイド、提供しているはずの食事などこの先諸々の帳尻合わせをしなければなりませんが」
第一王子に食って掛かる秘書長官に、カインは一瞬、異世界“勇者”の記憶にあったメガネなるものを幻視する。
が、すぐに『迷惑をかける相手にくだらないことを考えてはいけない、か』と雑念を振り払う。
「まぁそういうなって秘書長官殿。若くして俺の政務筆頭補佐に任じられた期待の秘書長官殿。剣の鍛錬ついでに二人が飯は外で奢ってる、メイドは父カイトの要望でつけてない。それで良いじゃねえか。あんま小難しいこと言ってっとかわいい顔が台無しだぜ?」
「かっ……かわいいとかそんな話をしているんじゃありませんよっ!」
秘書長官は柔らかな薄ピンクのショートヘアを揺らし、庇護欲をそそる二重まぶたの大きな瞳を潤ませて。
そして女性にしては少し低めな声で抗議する。
心なしか、白磁の頬も染まっているようだ。
そういう関係なのだろうか。
そのぷるりと瑞々しい唇をわずかに尖らせて続ける。
「男なのですからかわいいなどと言われたくないといつも申し上げているはずですがっ!?」
頬が染まっていたのは単純に怒りで血が上っていたようだ。
カインは『ならその所作からどうにかしろよ』というツッコミを危ういところで飲み込んだ。
なんとなく、この秘書長官殿にはかわいいままでいて欲しい。
「はいはいかわいいかわいい。先進めて良いか、リズ?」
「私はリザルグです!わざとですね!?」
「“リズ”に反応した時点でお前の負けだな、かわいいリ~ぃズ?」
「っ!そうですか。そこまでしつこくおっしゃるなら私にも考えがありますよ。後悔なさらないでくださいね」
「おい待て、お前何をする気だ」
カールの声に狼狽の色が見え始める。
「ナターシャ様に泣きつきに参ります。殿下に“後ろを強要された”と」
「やめろ!お前も死ぬぞ!!」
「知りません!毎度毎度そうやって!もう我慢の限界です!貴方を殺して私も死ぬんだっっ!」
「はやまんな!お前らリズを取り押さえろ!!」
「放しなさい貴方たち!どこを掴んでいるんですかっ!?」
カールと護衛、筋骨隆々の巨漢三人が、執事服の小柄な麗人を組み敷いている。
なんとも爛れた背徳的な光景である。
少なくとも、五歳児への配慮は毛頭ない。
そして、話も毛ほども進まない。のだが。
「じゃれあっているならもうカインを森に連れて行くが良いか?」
救世主が降臨した。
「おーう全然よくねぇよ!?条件があるって言ってんだろ!?カイトお前、俺が『紅鎗』に殺されても良いっての!?」
どうやら本当にじゃれあっていたようだ。
昨日となんら変わらない、紅鎗に怯えるカールがそこにいた。
「ナターシャ様に殺されるならレアンが何をしようと知ったことではなかろう?」
「殺されないために今頑張ってたんですけどねぇ!!それと自分が死んだ後は関係ねえなんて言える王族いねーんだウチの国!!」
「原因を作ったのはお前だろうに……言うことだけはご立派だな」
「……んだな。すまねぇな坊主。うちのリズがかわいいからついな」
ほとぼりが冷めるとすぐに、同じ過ちを繰り返すカールである。
「いえ。それで、条件というのをお聞きしても?」
「ああ。まぁ条件つのは簡単だ。一つは、あとで渡す念信魔道具を携帯して、こちらから念信送ったら応えるか折り返してくれってこと。二つめは、最初の二年で良い、王城から半日以内のとこにいて、呼び出したら基本は来てくれ。二年したら、もう教えることはないとでも言って堂々と外にいられるようにする。最後に、いつになるかわからんが、魔族領にはこちらで揃えるメンバーで行ってくれってもんだ。それ以外は、そちらから要望がなければノータッチ。どうだ?」
「ありがたいですが……それで大丈夫なんですか?」
「昨日、俺が許可出すっつったろ?良いんだよ、次期国王だからよ。んじゃ、決まりだな。受け取るもん受け取ったら、すぐにでも行って良い。ブツは、昨日の話で急遽用意を始めたからまだ準備しきれてねぇ。明後日にはって話だから、宿に届けてやるよ」
そう言ってからりと笑ったカールはひらひらと手を振る。
退室して良いということだろう。
「ありがとうございます。では、皆さんこれからお手数をおかけしますがよろしくお願いします。特にご面倒をおかけするだろうリズさんも」
「“勇者”様?私はリザルグです。『“勇者”に男と知りながら口説かれて少年好きのリザルグはクラッとなっていた』とでも広められたいですのか?」
「リズさんなんでそんな自分を犠牲にしたがるの?」
とんでも発言に、つい気になったことが口をついてしまうカイン。
「ここで退いてくれるなら冗談で済ませる、というアピールですよ。覚えてもらえたなら、リザルグとお呼びくださいね、“勇者”様?」
「はい!」
「……え、あー今は呼んでくれないんですか?ちょっと寂しいなぁ。まぁ、あまり長引かせてもあれですから良しとしましょう。では、明後日には私が物をお届けに参りますのでよろしくお願いいたしますね」
こうしてカイト父子は王子私室から退出し、宿へと戻った。
そして、二日後。
リズから件の念信魔道具やらなにやらを問題なく受け取り、昼前には父子は王都アヴァロニスタの城門を出て向かい合っていた。
あっという間に、父との別れの刻だ。
「では父上。長期休みの時には山頂道場に帰って参りますので」
「長期休み……一人で登頂できるようになるまで帰らぬのか?殿下のもとへ顔を出す際に言付けてくれれば迎えに来るが」
「ええ、まぁ。そうなのですが。私も1人の男の子だったようで。」
「そう、か。それも良かろう」
と、そこでカインは何やら迷ったような表情を作る。
「どうした?」
「いえ……。実はですね。父上にはお話ししておいた方がいいと思うことがありまして」
「?無理には聞かないが……」
城門の外、周りに人気がないのを確認する。
一つ深呼吸をして、カインは口を開いた。
「私は、”勇者”本来の使命を必ず全うします。その為に、魔族、”魔王”とは和を結ぶつもりでいます」
「…………何?」
さすがに、この発言にはカイトも眉を上げる。
何せ、一000年以上の長きにわたり人類と魔族は争い、そして歴代の”勇者”こそが”魔王”を討って仮初とはいえ人類領に平穏をもたらしてきたのだから。
「知っていますか?”魔王”の条件は先天性スキル"魔王"を持つこと。つまり”魔王”の存在は世界に、創造神エルステラ様に認められているんですよ」
「馬鹿な。何故エルステラ様がそのような!」
「エルステラ様と直接対話出来た異世界”勇者”がいなくなり最早知られていませんが、”勇者”は聖剣の運び手、”魔王”は鍵です。神々の時代から、約一000年前まで続いていた人魔友和の理想郷を壊した黒幕に至るために、適職”勇者”とスキル”魔王”は創られました」
そこまで言って、一度カインは唇を湿らせる。
呆けたようなカイトにここで畳み掛けるために。
「私は、エルステラ様が異世界”勇者”たちに見せたかつての平和なこの世界も知っています。だから、黒幕の存在が気に食わない、思惑通りに争いが絶えない現状が気に食わない。必ず、あれは私が殺しますし魔族との和平を取り付けてみせます。とはいえ、父上に特別何か行動を起こして欲しいわけではありません。魔族領に近いこの辺りは魔族も完全に撤退して顔を合わせることはほぼありませんし。ただ、知っておいて欲しかった」
どこか寂しげな語調で語り終えるカイン。
「……そうか。誕生日にも言ったが、それがお前の選択なら、私はそれを尊重しよう。母上には、教えて良いのか?」
「ありがとうございます。母上だけなら大丈夫でしょう。カール殿下には、いずれ私が余人を交えずお会いできるようになったら、と」
「そうか。それが良かろう。では、存分にやるが良い。私は、カール殿下にご挨拶申し上げてから道場に帰るとしよう」
「ええ、父上もご壮健で。母上にもよろしくお伝えください」
レアンに『鎗人間』などと揶揄されるカイトならではだろうか、意外にもすんなり飲み込んでもらえた。
別れの挨拶もしっかり交わした。
あとは、お互い笑って背を向けるだけだ。
二人は、同時に踵を返して一歩二歩。
三歩、四歩。五歩。
一人分の足音が、止まる。
父は、きっと迷うことなく進んだことだろう。
母と二人、誰よりも強い人だから。あの人はそもそも足音なんかさせてない。
だから。きっとばれてない。
くっと視線を上げて空を見れば、旅立ちを寿ぐような眩しい青。
「“勇者”たちの、世界の、まんがとか、いうのでも。こういう時、なんでか雨、降ってくれないん、ですよね」
大丈夫。きっともう、父は大通りの喧騒の中だ。
だから。つっかえてしまう独り言も、震える肩も。
進まない足だって、きっとばれてない。
ばれてないから、きっと次会う時も。
白鎗の山頂でかっこつけて。
なんでもないように帰ってこよう。
だから。
本当にかっこいい男の暖かな眼差しには、気がつかないまま。
ひくつく喉を、めいっぱいの空気で押さえつけるように深呼吸。
春霞のせいか、視界いっぱいに煙る森へと向けて。
なんてことないよ。ほら、一歩。
というわけで、5歳児を泣かす「作者鬼畜回」再び。
年齢が現実ならば有り得ないとはいえ、こういう時なにも言わないで見守ってやれる父って憧れます。という話。
に、感想で「物語のゴールが見えない」とのご指摘を受けてカインくんの言う『勇者の使命』を追加。パーティメンバーと出会ってからまたもう少し詳細は語られます。
過去編=魔族との和平まで
断頭台後=”魔王”やパーティメンバーとともに人魔和平を浸透させる活動&黒幕討伐
その後のスローライフはまぁ要らないかな、知識チートですしやれることは多いけども……という感じです。
さて、1時間後にもう1話投稿して本日は終わりとさせていただきます。




