8話.勇者のパーティ①~カインはパーティメンバーと邂逅する~
どうも皆様、ご来訪ありがとうございます。
ソロ修行編はばっさりカットします。カインくん、言い訳よろしく!
そして、時が流れて十年後。
あの後、レアンの襲来があったことなど幼少期をこれ以上語っても「“勇者”の家庭やべえ」感しかもたらされず現在に戻ったカインがグレてしまいそうなので、時は流れるのである。
いや三人称っぽくしてるんで忘れられてるかもだけど、語り部は俺、『博覧強記の勇者』カインだからね、父カイトの心情描写は帰省した時に聞かされただけよ。
一人暮らし時代はまぁ、スタンピード撃退に協力したり大陸西方で隠れ棲んでいた魔族の件で無力感を自覚したり、シュヴェルトライヒの武闘大会を観戦したり人類同士の争いに介入したりもしたけど、基本鍛錬と魔物狩りでつまらないんでいいと思うんですよ。
いいよね、うん。
……いや。
冷静になると、これこのまま三人称に戻すのハズいね?
カイン頑張る。
さて。
聖勇歴809年初夏のある夕刻、勇者カインは王都アヴァロニスタにいた。
第一王子、この十年で正式にアヴァロンの王太子として人類領に認知されたカールからの、いつもより重要度の高い呼び出しである。
いわく、“勇者”のパーティメンバーを選定し終えたと。
カールから『魔族領遠征パーティの人選はこちらで』と言われて、愚直にこの十年を一人で修練してきたカインは浮き立っていた。
なにせまともな会話は王太子カールとその側近数名、六年目にようやく山頂踏破を成してからまたそれなりに会うようになった両親と増えていた家族、ちなみに今年七歳になる弟で名をリーン、くらいとしかしていない。
付与魔法の練習台にも使っている自作の木剣を用いた鍛錬と、ひたすら重ねた魔物討伐で伸ばしたステータス、そして“博覧強記”の溜め込んだ叡智が、カインに文化的最低限度の生活を捨てさせていた。
即ち、ある程度の実戦に耐え得る強度切れ味を与えられた使い捨ての木製疑似アベルや本物のアベルが武器防具屋との関わりを失わせ、二つの世界の教養が食料雑貨店や宿暮らしを遠ざけたのだ。
服だけは、リズに頼んできたが。
そんなわけで、新しい友人獲得への期待は、カインの中で際限なく高まっていた。
勇者七人の人生の記録という膨大な知識があり大人びているとはいえ、本人が体験したのは一五年、人と関わったのはそのうち計六年分ほどしかないのだ。
友達は大事。
そんな、自覚出来るほど上がったテンションを誰にともなく言い訳しつつ、案内された先は王太子執務室。
そこにいたのは王太子、麗しの秘書長官リズ、2人の護衛。
それにプラスすること三人。
パーティメンバーとは彼らだろう。
気になるが、カールへの挨拶が最優先だ。
「お待たせして申し訳ありません、殿下。“勇者”カイン、ただいま到着致しました。」
「おう、気にすんな。息災そうでなによりだ、まぁ一ヶ月前にも会ったしな」
「ありがとうございます。殿下もお変わりないようで」
「まーな。先代“勇者”が"魔王"を討伐して以降、魔族領はそれなりに大人しいからな」
「なるほど」
「だからまぁ、大人しいうちに人類領を巡りつつこいつらと仲良くなっといてくれって話だな」
「彼らがメンバーということで?」
「まー男もいるのに“勇者様のお見合い相手”ってわけもねえからな」
そう言われて三人の方へ目を向ける。
癖のないプラチナブロンドの長髪に二重まぶたが優しげな印象を与える翠緑の眼、くすんだ濃緑色のローブの上からでもわかる、男の理想を形にしたような身体に顔、そして尖った耳のエルフ女性。
中肉中背、ショートの茶髪に茶色の瞳で特徴のない、全てのパーツを世の女性の平均にしたら美人が出来上がるという説をその身で体現する、普通に普通な軽装の美女。
病的なまでに痩せこけた高身長に、灰色の髪と落ちくぼんだ眼窩で鋭く光る藍色の眼を持つやや細長の剣を佩いた男性。
皆、見た目はカインより三~七歳ほど上だろうか。
エルフの女性に関しては、実年齢と見た目年齢の解離が読めないが。
三者三様の見た目に、天職者の証たる金環に縁どられた瞳だけが共通している。
と、そこで気づく。
灰髪で骸骨のようにやつれたこの男性は見たことがあるぞと。
「あ、『剣聖』」
「ご存知とは恐れ入る。その通り、『剣聖』のクレイだ」
「そういやカイン、お前さんシュヴェルトライヒの試合、観にいってたんだっけな。自称『剣聖』のクレイだ」
「自称?優勝してましたし正式に『剣聖』じゃないんですか?」
「天職がな。こいつは“剣聖“の上なんだよ。上っつーかより使える得物の選択肢が多い”刃聖“ってやつなんだ。だからシュヴェルトライヒの協会も『格下とも言える『剣聖』の称号を贈るのは忍びない』とか言ってたんだが……」
カールの説明を引き継ぐようにクレイが口を挟む。
「誰かの人生を奪う私に、じんせいなど背負えんだろうが」
「あはははははははは!……笑うとこであってました?」
「礼は言っておこう。次の機会には余計なことは言わんようにと忠告するが」
「え、待って初対面の人間相手に焦るほどつまんない冗談真顔でひり出す人になんでこんな真っ当な忠告されてんですか私は」
「知るか!お前と一緒でコミュニケーション能力不足なんだろ!余計なことだと自覚してたのかなんてつっこまねえぞ俺は!次進めさせろ!」
答えたのはカールだった。
さすがにカインも次期国王を無視してふざけるつもりはない。
口を噤んで目礼する。
「んじゃ次な。『賢なる性女』の二つ名持ち、ソニア」
“豊満エルフ”を顎でしゃくってから紹介するカール。
「なんかニュアンスが違う気がするよ王子様?『賢なる聖女』だよ、適職“聖賢姫”のソニア。よろしくね」
「よろしくお願いします。……“聖賢姫”、ですか?」
「そ、“聖賢姫“。“聖女“で“賢者“なお姫様の“聖賢姫“。にしても。んー……」
「なにか?」
「“勇者”くん、クレイの時と違って硬いね?どしたの?」
「いえ、なんというか。エルフの方のイメージとはかなり違ったもので」
カインは、若干ソニアから目を逸らしつつ答える。
「あー、これ?」
ソニアは自らの双子山を両の人差し指で突く。
総じて瘦せぎすな男女が多いエルフ種の中で、異様なほど大きなそれ。
「ええ。正直、何が詰まっているのかと訝ってますよ」
「あは、さすが“勇者”くん、鋭いねぇ。ここにはねぇ、脳みそ詰まってるの!」
「……は?脳みそ?」
中々に失礼なセクハラに、ケラケラ笑って突拍子もない回答をするソニア。
戸惑うカインに、ソニアは説明を続けた。
「そー脳みそ!私の先天性スキル“六重奏”はねぇ、攻撃回復支援問わず、魔法六個までなら無詠唱同時発動できるの、その中で一番魔力使うやつ一つ分の魔力でね。だからかな、『あいつあの胸に誰かの脳みそでも飼ってんじゃねぇの』ってよく言われるんだぁ」
――うわぁ……どっちに転がってもバケモノ。
神が許した天賦の才を十年鍛え、三種同時無詠唱まで上り詰めたカインでも、そのスキルのもたらす火力と継戦能力、そして胸板にへばりつく脳みそというのは想像するだけでどん引いた。
「あはは、女性に向ける視線じゃないね“勇者”くん!まぁそんなわけで、脳みそ潰れちゃうから申し訳ないけどおさわりは禁止ねっ!」
畏怖や嫉妬の塊のような言葉を、なにも気にしていないように冗談に利用して屈託なく笑うソニア。
正直答えようを見いだせないカインに代わって、カールが告げる。
「まぁカインの視線もわからねぇじゃねぇだろ、実際お前さんの“六重奏”が生み出す火力はバケモノだ。消費魔力と発現する力の等式も成り立たねぇ理外のスキルじゃねぇか」
「あー、王子様!それがわかってて私のことバケモノなんて言うの?泣いちゃうよ?私、涙なら大津波六発分くらい出ちゃうよいいの?」
「『胸に脳みそ飼ってる』なんて言われて笑うやつがスキルをバケモノ呼ばわりされたら泣くのかよ、よくわかんねぇな!すまんて!勘弁してください!」
律儀にツッコミを入れる割に焦った声で謝罪するカールを見て、ソニアは軽く吹き出して彼の謝罪を受け入れる。
「あはは、本当は制限あって完全に六発分には出来ないんだけどねー、王子様に謝られたんじゃしょうがないなー!許しちゃう!でもぉ……お詫びにこのかわいい彼女、俺にも紹介してくれよ。いいだろぉ?俺とお前の仲じゃねぇか、なぁ?」
「少なくともそんな小市民とチンピラみてぇな仲ではねぇな!?」
なんとも、エルフのイメージから遠いところにおられるエルフである。
カールは一つ溜息をこぼすが、実際残った最後の一人を紹介しないわけにもいかないのだろう、気を取り直して口を開いた。
「はぁ、すまんな。最後の一人は日々の情報収集と、戦場では双剣を使って遊撃を担当するエリン。“無貌”の先天性スキルを持つ」
「無謀、ですか?」
「顔形がない、“無貌”な。あらゆる意味でな。まず、“博覧強記”を持つお前がどうかはわからんが、基本的にこいつの許可のない者がこいつの事を覚えておくことは出来ねぇ。ま、他にもあるが……自分で聞け、仲良くなってな」
言われて、エリンに顔を向けるカイン。
「はぁ……なるほど。よろしくお願いしますね、エリンさん」
「……ん。よろちくび」
無表情の上に抑揚のない声で返ってきた唐突な下ネタに、カインは目頭を揉む。
――普通の方がいらっしゃらない……。
彼らが、これから四年間を共にすることになるパーティメンバーであった。
次話ネタバレになりますが、エリンはこのキャラ作って演じています。”無貌”を持つ彼女は外見、身長体重から声質に至るまで、肉体的形質は全てが同年代ヒト種女性の平均、没個性が悩みの種です。ソニアは普通に素ですが。
こんな面子に囲まれて『釣られクマー』でおしゃべりに興じていく中で、あの19歳カインくんが出来上がっていきます。
明日からは1日1話ですかねー……。




