3話.勇者の幼少③~カインは両親の愛に泣く~
どうも皆様、昨夜ぶり?初めまして?なんでもいいや、ただただご来訪多謝です。
今回は両親に”勇者”であることを明かしたカインの”博覧強記”についての一端をば。
カイトが見る限り、ステータスは何事もなかった。
鑑定魔道具では正確な数値までは測れない。
おおまかにA~Hにランク分けされるだけだが、戦って経験補正値を積んできていない者にG以上がつくことは基本なく、カインもその例に漏れなかった。
スキルも、よく分からないが先天性スキルということを考えればそこは仕方ない。
きっと様々なことに目が届き記憶に多くを留められるようになる、などの方向性だろう。
そんなあからさまに知能に関わりそうな先天性スキルがあっても知力値はHなのか?と多少気になりはしたものの、しっかりと記された己が流派、白鎗流白雷派鎗術の文字を目にしたので流すことにした。
次の、適職のインパクトが強すぎたのだ。
「………………“勇者”、か」
“勇者”。
それは人類の危急に創造神エルステラが遣わすとされる聖剣の英雄。
武術、魔法、探査に隠形といった、およそ単独戦闘に帰結するあらゆる力に天賦の才が許された神の寵児だ。
余談だが、聖剣国家アヴァロンは初代“勇者”がその仲間と共に当時の『魔王』を討った後に終の棲家とし、その神与の聖剣を安置したところから始まっている。
それまでは、辺境の一軍事国家とみなされていた。
アヴァロンは、“勇者”とともに。
それが人類領の常識だ。
父の口から零れる声は、重い。場の沈黙は続く。
が、それを破ったのも、父であった。その声は、依然重い。
「私たちに見せたということは、カイン。お前はこの天職が自分にあることを受け入れた、ということだろう。父に、そして母上に、聞かせてくれるな?」
だが重いからこそだろうか、耳朶を打つ言葉から、確かな温度が伝わる気がするのは。
「しめいをまっとうしたく」
五年間の思いがこぼれそうになり、カインは一言答えるのが精一杯だった。
そう、五年間。
彼の先天性スキル“博覧強記”は「視野見聞が広まり記憶力が増強される」とまぁ、カイトが考えた通りであるが、その強度は父の想定を遥かに超えていた。
もし、解析魔法に長けた大魔法師が彼のスキルを解析鑑定したら、こう映っただろう。
『スキルを得てから所有者が触れたあらゆる情報が蓄積され、所有者により恣に、現実の時間を超越して引き出される。このスキルによる知力値の補正は、測定不可能であるがゆえに観測されない』と。
大魔法師はきっと「私が測定できない数値だと?なぜ一個人にそれ程の記憶容量が?」と首を傾げることになるだろうが、今そこはいい。
カインは五歳の誕生日である今日までの五年間、その全てを覚えていた。
玄関先で母レアンが語ったカイトによる拉致祝福事件も。
産まれた自分を初めて抱き上げたレアンの言葉も己を撫でる指の柔らかさも。
まともに見えないはずの目に飛び込んだあらゆる光、言葉に構築できないはずの耳に飛び込んだあらゆる音の振動。
それらを、目の前で重たくも温かい言葉を紡ぐ父の顔となんら変わらぬ鮮やかさで思い出せるのだ。
そして。
「“勇者”の使命を全うする」というのが、どういう意味かも。
“勇者“が“博覧強記”を持つことで得られる、圧倒的な強みも。
知ってしまっている。
「やはり、お前が持つべきは剣だったか。……いつ発つつもりだ?」
「じゅんびができたら、すぐにでもとかんがえています」
カインの返答に、カイトの顔は硬い。
「そう、か。お前はまだ五歳、まだまだこれから先私たちに甘えていることが許されている歳だ。それは、心や食事、居場所というだけではない、強さの面でもだ。私たちがそばで鍛えてやれることも、また多いはずだ。それがわかったうえで、行くのだな?」
「もうしわけありません、ちちうえ」
「良い。お前に初めて型を見せたあの時、お前の選択を尊重すると言ったのは私だ。お前は型を覚えきり、更にはスキルにまで届いてみせてくれた。私も、お前に応えたい」
だが、そこにレアンが参戦する。
「カイン?本当にわかっているのですか?確かにスキルも身について、同年代の中では強いかもしれませんが、それでも貴方は五歳児。一人でこの山から降りることすら不可能なのですよ?何が出来るというのです。あなたもあなたです、ここは門をたたくことすら出来ず山中に倒れるものが後を絶たない白鎗山脈師範道場なのですよ?あなたが放り出すというのなら私がカインについて行って鍛えます!」
「レアン、昨日までずっと、二人で話してきただろう。それにカインは”勇者”なのだ。アヴァロンの王都までは、私が連れて行く。あそこには伝手も多い。歴代勇者の“蓄積”もあるのだ、上手く導いてくれる」
事態は、夫婦での論争へと推移し始めていた。
どうやら、カインが鎗を置き剣の鍛錬のためにこの国を発つつもりであったことは、バレていたらしい。
おそらく、初めて両親の前で木の棒を振り回したあの日から。
「嫌です!昨日までは納得しようと思っていましたけど!私がおふざけで出す程度の闘気であんなに冷や汗までかく幼な子ですよ!早すぎます!聞き分けないのなら母は勝手につきまといますからね!どうしてもというのならこの母を倒してからいきなさい!!」
「ははうえ」
「なんですか!言っておきますが母は本気ですよ!三十路になっても未だに無愛想、不器用で考えなしのただ前に突き進むことしか知らない大きな子供より自分のお腹を痛めて産んだ小さな子供の世話をする方が大事に決まってい――」
「ははうえ、かおがほんきになれていません」
暖炉で火が爆ぜる音が、やけに大きく響いた。
「……レアン。大人しくあれを渡してやれ」
「わかりましたよぉ。でも心配しているのは本当なのですよ。ちょっと『母を倒してから』とか言っているうちに楽しくなってしまっただけで。あなた、アヴァロンについたら必ず“カインに何かあったら『紅鎗』が出る“と釘を刺しておいてくださいね」
唇を尖らせて、拗ねたように譲歩するレアン。
気になる単語の登場に、カインは父へと尋ねる。
「ちちうえ、あれというのも気になるのですが、こうそう?」
「あぁ、母上のかつての二つ名だ。修行の一環として、一時期山を降りて傭兵をしていたのだがな。今見た通り一線を超えると一人で際限なく盛り上がってしまう。結果、たてた武名につけられたのが『紅鎗の白姫様』だ。真白の鎗持つ傭兵団の、真白の髪した紅一点が狂ったように敵陣で暴れて鎗を真っ赤にして帰ってくる、しかも真っ赤になるのは鎗だけでその身には返り血一つ浴びず真っ白なままで、とな。人類領各国、それはもう敵味方なく恐れられたものだった」
「あなた、この話になると随分饒舌になりますね。あの悪名がなければ師範は私だったかもしれませんのに。カインが旅立ったら師範の方々に立会いの申請でもしましょうか」
「ははうえ……」
カインは震えた。
白鎗山脈の万年雪のような清らかな白髪をサイドポニーにまとめ、金色がかった柔らかな瞳をカインに向ける、子の目から見ても美しいレアンが。
彼女が真っ赤に染め上げた白鎗を掲げ、三日月型に口角上げて迫り来る様を想像すると、父譲りの落ち着いた茶髪も恐怖で白く抜け落ちてしまう気がして震えた。
すると、レアンはカイトに向けていた拗ねたような視線をこちらに向けるや、三日月型に口角を上げる。
「カイン?あまりおかしなことを考えていると、アヴァロンでの夜あなたの枕元に『紅鎗』が現れるかもしれませんよ?」
暖炉で火が爆ぜる音が、カインにはいやに遠くに聞こえた。
「レアン、いい加減にしないとあれは私が持って来てしまうが?」
「いやですよ、あなたはつい先刻までずっとカインといたのですから。あれは私からあげるんです!」
ぱたぱたと奥へ向かったレアンを見送ると、ぽつりとカイトはこぼす。
「すまんな、母上も整理がつかないらしい。傭兵をやめて、私と一緒になって、お前が産まれてと過ごすうちにあの癖も大人しくなっていたのだが」
「いえ……ははうえのあたらしいいちめんをみられたのは、いいおもいでとしてたび立てそうですから」
「む……そう、か」
「ところで、先ほどからあれというのは……」
「あぁ、五歳の誕生日だからな。まぁ母上もすぐに戻る」
宣言通り、レアンはすぐに戻ってきた。
カインがぴったり納まりそうな木箱を持って。
「さっきはごめんなさいねカイン。私たちから、五歳になった貴方への贈り物。騙してこの箱にしまっちゃおうなんて考えていませんから、受け取ってくれますか?」
「レアン、置いてやってくれ。カインにはまだその箱ごと受け取るのは難しかろう」
カインは何事もなかったかのようにスルーされる恐ろしい発言に首を傾げつつ、礼を言う。
「ありがとうございます。あけてみても?」
「もちろんですとも。父上も言っていましたけど、箱のままでは貴方にはまだ持ち歩けないでしょう?」
美しい白木の箱を開けると、入っていたのは一振りの剣であった。
片手剣というには少しばかり柄が長く、さりとて片手半剣にしてはかなり剣身の短いそれは、子供の身体に合わせた特注品だろうか。
その白塗りの鞘と柄は明らかに白鎗をモチーフとしており、とてもではないが昨日今日で用意できるものではない。
カインは、口の中が乾くのを感じつつ、そっと持ち上げて二人を振り返る。
「……ぬいてみても?」
「あぁ」「ええ、どうぞ」
震える手が、どうにももどかしい。
父の型を真似しながら、常に頭の片隅では渇望していたそれ。
ふとした瞬間、父の型の受け方を考えていることに気づき、せめて教えを受け終えるまではと躍起になって頭から追い出そうとしたそれ。
それが、他ならぬ父母の想いによってそこに在る事実が。
手の震えを止めてくれない。
ぽふ、と。
大きく無骨な手の温かさが髪を撫でる。
す、と。
白く嫋やかな手がカインの両の手に重なる。
視線を上げれば、正面から彼の両手に自分の手を重ねるレアン。
首の動きがぎこちなくて振り返れないけれど、後ろではカイトがすぐ傍に立っているだろう。
母の口が動いているのはわかるのに、なにを言っているのかが聞き取れない。
聞こえていなくても、“博覧強記”は働いてくれるだろうか。
赤子の頃に耳が拾った両親の会話さえも覚えているはずなのに、何故だか心配になってしまう。
不安になって視線を落とせば、いつの間にか半分ほど姿を見せた鏡面のごとき剣身。
くっきり映った自分の表情が、ぼやけてしまって見えなかった。
というわけで、5歳児を泣かせる「作者鬼畜回」でした。
うーん、自分の作ったキャラたちにはつい感情移入しちゃって、客観的に温かい話を書けた自信がまるでないのですよ。
というか、「過去編」と銘打って巻きで進めてしまったので、内容だけでなくタイミングも悪手なんですよね。0話無くして最初からカインの成長ものとしてゆっくり調理してあげられていれば、もう少し3人の間柄を掘り下げてからこの話を入れられたよな、など思いつつ。
実はこの拙作、「勇者が勇者したっていいじゃない」と考えた直後にするっと浮かんだこのあほタイトルからスタートしてるので実はキャラと同じくらいタイトルとプロローグに愛着があり、それもしたくないという。
ぶっちゃけこの先も「過去編」「ダイジェスト」などという呪言に縛られて「ここでそんなカミングアウトする!?」が飛び出します。あらすじに「クソラノベ」と入れた理由はその辺りにもあったり。
その時が来るまでにキャラたちがなんかいい感じな理由をひねり出してくれると信じて、今日もあと2話、1時間おきに投稿します。




