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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
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くずもち

 ウナギ長老と出会ってから、数日が過ぎた。

 あれからウナギ長老は二度ほど訪れて、わしらにクリーニングを頼んできた。

 別の魚にも一度、クリーニングをしてやった。ハタのような魚じゃったな。

 それ以外には、とくに何事も起きておらん。

 平和に砂を掘って、えさを食べて、眠るだけの生活じゃ。

 この場所、もしかるすと、かなりよい立地なのかもしれん。

 めっけものじゃ。

 

 しかし、たまには変わったことも起きる。

 その日、わしは砂をあさって餌を獲っておった。

 ざくざくとプランクトンを掘り出し、ぱくぱくと食うのじゃ。

 うまいうまい、と食っておると、砂の奥で何やらうごめくものがある。

 はて。

 きっと、ナメクジやらゴカイやら、とにかく砂にもぐるやつじゃろうな。

 そう思って離れて見ておると、思った通り、砂からそいつが顔をだした。

 いや、顔ではないな。

 わしの予想とは少し外れておった。


「なんじゃろうか、これ」


 そう。

 砂から出てきたのは、ナメクジでもゴカイでもなく、わしの知るそのほかのどんな生き物とも違っておったのじゃ。

 そいつは、半透明だった。

 体はまんまるで、まるでクラゲのように向こう側が透けておる。中央付近だけ、黒ずんで不透明な色をしている。

 なんだか、あんこの入ったくずもちのようじゃな。

 動きもくずもちのようじゃ。フルフルと震えている。


 これは、なんじゃろうなあ。クラゲのようにも見えるが、プランクトンのようにも見える。

 ただ、クラゲとは違って、足がない。

 巨大なプランクトン、なのかのう。

 巨大すぎる気もするが……。

 なんせ、大きさがわしの半分ほどもあるのじゃ。


「おぬし、どんな種族なのかね」

「…………」

「おぬし、名前はあるのかね」

「…………」

「喋れんのか」

「…………」


 うーむ。

 不思議な生き物じゃが、わしらに害はなさそうかのう。

 放っておいて、ごはんを食べるとしようか。

 と、そやつを見ながらそんなことを考えていると、エビさんがやってきた。


「クロさん、どうしましたか?」


 エビさんは、たまにわしが何かを見つけると、遠くにいても、まるで気配を読んだかのように反応することがある。

 じっさいに、気配が読めているのかもしれん。

 水の中じゃからな。

 わしも、集中すれば、エビさんの気配は分かるぞ。

 離れていても、相手の動きというのが、水を伝わって、なんとなく感じられるのじゃ。


「おお。エビさん。なんだか変なものを見つけたぞ」

「変なもの、ですか? なんでしょう」

「これじゃ」


 その変なくずもちを、エビさんにみせた。


「たしかに変なものですね」

「そうじゃろう。……うん? エビさん、なにをしておるんだね」

「いえ、なんだかこの子、痛がっているような」


 痛がっておる、じゃと?

 おお。

 たしかに、言われてみれば苦しそうな気配が伝わってくる。

 どうしたのじゃろうな。

 ……こ、これは。


「エビさん、こやつの背中を見よ」

「ど、どっちが背中でしょう」

「分からんが、こっちじゃ。ここ、ここじゃ」

「あっ。これはひどいですね!」


 そう。

 くずもちの背中(?)には、なんと寄生虫がたかっておったのじゃ。

 きっと、これが原因で、痛がっておったんじゃろう。

 わしは、くずもちに向かって話しかける。


「おまえさん、わしの言っておることが分かるか。いまからお前の背中についているやつを取ってやる」

「…………」

「じゃが、おまえさんは得体が知れん。わしらが食べている間、邪魔せんでほしいんじゃ。わしらのことを害したりしないと約束してくれるか?」

「…………」


 なんとなく。

 なんとなく、じゃが。くずもちがうなずいたような気がした。

 たぶん、大丈夫じゃ。


「良さそうじゃな。いいかね、エビさん」

「はい。さかなさん。このくらいなら、すぐです」


 それ、そうと決まれば。

 くずもちの体は、わしらと同じくらいの大きさ。とりついておる寄生虫は、たかだか数匹じゃ。

 しかしまあ、こんな得体の知れない生き物に寄生するとは、したたかなやつよ。

 おぬしらには悪いが、ごはんになってもらおう。


 ぱく。ぱく。

 ぱく。


 あっという間じゃったな。

 ごちそうさん。


「どうじゃね、気分は」

「…………」

「嬉しそうにしてますね! よかった」

「…………」


 さっきより大きく、ふるふると震えておる。

 たしかに、エビさんの言うとおり、気持ちよさそうじゃな。

 ……ふふ。

 そうか、その動きは、きっと踊りのつもりなんじゃな。

 お礼のつもりなんじゃろうか。

 真意は分からんが、嬉しくなってしまうのう。


 ふるふる。ふるふる。

 ぴょこぴょこ。ぴょこぴょこ。

 ぱちん、ぱちん。ぱちん。


 しばらくわしらも一緒になって踊ってしまった。

 やがて踊り終わると、くずもちはわしらに向かって、すりすりと体を寄せてくる。


「…………」


 ぷるぷるじゃの。

 ん? なんじゃ、そのポーズは。

 おまえさん、何が言いたいんじゃね


「さかなさん、さかなさん」

「なんじゃ?」

「このこ、きっと、わたしたちと一緒に住みたいんだと思うんですけど」


 なんじゃと。

 わしはくずもちの顔(?)を見る。

 たしかに、エビさんの言う通り、なんだかそう思ってそうな顔(?)じゃのう。


「おぬし、わしらと住みたいのか?」

「…………」

「エビさん、どうしようかのう」

「大丈夫じゃないでしょうか。わたしたちの巣穴、まだ余裕がありますから」

「そうか。じゃあ、おぬし、わしらと一緒に住むか?」

「…………」


 こうしてその日から、わしらの家族に、不思議なくずもちが増えることになった。

〈 ■■■■■がパーティーメンバーに加わりました 〉

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