くずもち
ウナギ長老と出会ってから、数日が過ぎた。
あれからウナギ長老は二度ほど訪れて、わしらにクリーニングを頼んできた。
別の魚にも一度、クリーニングをしてやった。ハタのような魚じゃったな。
それ以外には、とくに何事も起きておらん。
平和に砂を掘って、えさを食べて、眠るだけの生活じゃ。
この場所、もしかるすと、かなりよい立地なのかもしれん。
めっけものじゃ。
しかし、たまには変わったことも起きる。
その日、わしは砂をあさって餌を獲っておった。
ざくざくとプランクトンを掘り出し、ぱくぱくと食うのじゃ。
うまいうまい、と食っておると、砂の奥で何やらうごめくものがある。
はて。
きっと、ナメクジやらゴカイやら、とにかく砂にもぐるやつじゃろうな。
そう思って離れて見ておると、思った通り、砂からそいつが顔をだした。
いや、顔ではないな。
わしの予想とは少し外れておった。
「なんじゃろうか、これ」
そう。
砂から出てきたのは、ナメクジでもゴカイでもなく、わしの知るそのほかのどんな生き物とも違っておったのじゃ。
そいつは、半透明だった。
体はまんまるで、まるでクラゲのように向こう側が透けておる。中央付近だけ、黒ずんで不透明な色をしている。
なんだか、あんこの入ったくずもちのようじゃな。
動きもくずもちのようじゃ。フルフルと震えている。
これは、なんじゃろうなあ。クラゲのようにも見えるが、プランクトンのようにも見える。
ただ、クラゲとは違って、足がない。
巨大なプランクトン、なのかのう。
巨大すぎる気もするが……。
なんせ、大きさがわしの半分ほどもあるのじゃ。
「おぬし、どんな種族なのかね」
「…………」
「おぬし、名前はあるのかね」
「…………」
「喋れんのか」
「…………」
うーむ。
不思議な生き物じゃが、わしらに害はなさそうかのう。
放っておいて、ごはんを食べるとしようか。
と、そやつを見ながらそんなことを考えていると、エビさんがやってきた。
「クロさん、どうしましたか?」
エビさんは、たまにわしが何かを見つけると、遠くにいても、まるで気配を読んだかのように反応することがある。
じっさいに、気配が読めているのかもしれん。
水の中じゃからな。
わしも、集中すれば、エビさんの気配は分かるぞ。
離れていても、相手の動きというのが、水を伝わって、なんとなく感じられるのじゃ。
「おお。エビさん。なんだか変なものを見つけたぞ」
「変なもの、ですか? なんでしょう」
「これじゃ」
その変なくずもちを、エビさんにみせた。
「たしかに変なものですね」
「そうじゃろう。……うん? エビさん、なにをしておるんだね」
「いえ、なんだかこの子、痛がっているような」
痛がっておる、じゃと?
おお。
たしかに、言われてみれば苦しそうな気配が伝わってくる。
どうしたのじゃろうな。
……こ、これは。
「エビさん、こやつの背中を見よ」
「ど、どっちが背中でしょう」
「分からんが、こっちじゃ。ここ、ここじゃ」
「あっ。これはひどいですね!」
そう。
くずもちの背中(?)には、なんと寄生虫が集っておったのじゃ。
きっと、これが原因で、痛がっておったんじゃろう。
わしは、くずもちに向かって話しかける。
「おまえさん、わしの言っておることが分かるか。いまからお前の背中についているやつを取ってやる」
「…………」
「じゃが、おまえさんは得体が知れん。わしらが食べている間、邪魔せんでほしいんじゃ。わしらのことを害したりしないと約束してくれるか?」
「…………」
なんとなく。
なんとなく、じゃが。くずもちがうなずいたような気がした。
たぶん、大丈夫じゃ。
「良さそうじゃな。いいかね、エビさん」
「はい。さかなさん。このくらいなら、すぐです」
それ、そうと決まれば。
くずもちの体は、わしらと同じくらいの大きさ。とりついておる寄生虫は、たかだか数匹じゃ。
しかしまあ、こんな得体の知れない生き物に寄生するとは、したたかなやつよ。
おぬしらには悪いが、ごはんになってもらおう。
ぱく。ぱく。
ぱく。
あっという間じゃったな。
ごちそうさん。
「どうじゃね、気分は」
「…………」
「嬉しそうにしてますね! よかった」
「…………」
さっきより大きく、ふるふると震えておる。
たしかに、エビさんの言うとおり、気持ちよさそうじゃな。
……ふふ。
そうか、その動きは、きっと踊りのつもりなんじゃな。
お礼のつもりなんじゃろうか。
真意は分からんが、嬉しくなってしまうのう。
ふるふる。ふるふる。
ぴょこぴょこ。ぴょこぴょこ。
ぱちん、ぱちん。ぱちん。
しばらくわしらも一緒になって踊ってしまった。
やがて踊り終わると、くずもちはわしらに向かって、すりすりと体を寄せてくる。
「…………」
ぷるぷるじゃの。
ん? なんじゃ、そのポーズは。
おまえさん、何が言いたいんじゃね
「さかなさん、さかなさん」
「なんじゃ?」
「このこ、きっと、わたしたちと一緒に住みたいんだと思うんですけど」
なんじゃと。
わしはくずもちの顔(?)を見る。
たしかに、エビさんの言う通り、なんだかそう思ってそうな顔(?)じゃのう。
「おぬし、わしらと住みたいのか?」
「…………」
「エビさん、どうしようかのう」
「大丈夫じゃないでしょうか。わたしたちの巣穴、まだ余裕がありますから」
「そうか。じゃあ、おぬし、わしらと一緒に住むか?」
「…………」
こうしてその日から、わしらの家族に、不思議なくずもちが増えることになった。
〈 ■■■■■がパーティーメンバーに加わりました 〉




