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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
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ウナギ長老

 今日も今日とて、わしらは平常運転。

 いつものように砂をついばんでおると、急に見知らぬ魚が目の前に現れた。

 カラフルなオコゼじゃ。わしよりふた回りはでかい。

 このオコゼ、わしの前にぷかぷか静止して、左半身を見せつけるようにしてくる。

 なんじゃ。

 待てよ。このポーズ、もしかして、


「おぬし、掃除をしてほしいんじゃな?」


 オコゼはふるふると体を振る。

 分かりにくいが、どうやら「うん」と言いたいようじゃ。たしかに、近づいて見てみれば苔やらなにやら、体にくっついておるのう。


「どうしました? さかなさん」

「おお、エビさんや。ちょうどいい。こやつの体のクリーニングを手伝ってくれんか」

「ええっ」

「頼むよ。なあオコゼよ、おぬしもまさか、わしの友人のエビさんを食べたりはせんじゃろう?」


 オコゼはまた、体をふるふると振る。


「ほれ、オコゼもこう言っておることじゃし」

「わかりました。食べられないなら、いいですよ」


 エビは巣穴から這い出てくる。

 最初と比べると、立派な体つきになったのう。

 エビの体はあれからも何度か脱皮を繰り返して、今では空色の斑が浮かんだ白じゃ。

 保護色になっておるのか、遠目から見ると砂地の模様と区別がつかん。

 言葉遣いも、いつのまにか流暢になっておる。

 もうエビと呼ぶのはやめよう。これからは、エビさんと呼ぶべきじゃろうな。


「じゃあ、掃除するぞい」

「じっとしててくださいねー」


 わしらは二人でオコゼの背中にとりかかる。

 それ。

 ひょいぱく。ひょいぱく。

 あ、ぱく、ぱく、ぱく。


「ほれ、オコゼよ、口も開けよ」

「すみません、エラもお願いします」


 ほう。

 オコゼの舌は妙な柄をしておるのう。

 それにしても、あちこちずいぶん食い残しが多い。虫歯になるぞ?

 わしにとっては、まあ、ごちそうでしかないがの。


「ほれ、終わったぞ」

「こっちも終わりましたー」


 オコゼめ、途中で横倒しになって、寝てしまいおった。

 とろけそうになっておる顔を最後に小突いてやると、魚ははっと目を覚まして、気持ちよさそうに泳ぎ去っていく。

 やれやれ。大仕事じゃったのう。



   ゅ゜



「こんにちは。今のをみていたんだが、おふたりはクリーニング屋かね」


 といって、一匹の魚が砂を這って近づいてきた。

 黒い魚じゃ。

 このにょろにょろした長い感じは、ウナギかのう。

 ひげがとても長い。

 なんだか、長老と呼びたくなる感じじゃな。


「こんにちは、ウナギさん」

「こんにちはー」

「いや、わしらはクリーニング屋ではないんじゃが」

「さかなさんもわたしも、掃除が好きなんです。よく、二人で掃除していますから」


 わしらが答えると、ウナギは「ほお」と言う。

 そして、期待したようにくねくねと体を動かして、目を輝かせた。


「それなら、ふたりとも。わしを掃除してくれないか」


 と言ってきた。


「エビさん、どうする? さっきので疲れておらんか」

「わたしは、まだ大丈夫ですよ」

「ならええじゃろう。ほれ、長老。そこに寝転がるんじゃ」

「ちょ、長老? 分かった。こうかい」


 ウナギはおとなしく、砂の上にごろりと横になる。

 腹を上にして。

 腹は白いんじゃな。

 見たところ、虫はついておらん。しかし、肌が荒れておるようじゃな。

 古い皮膚があちこちに残っていて、見た目が悪い。

 これをきれいにしてやろう。


 ぱく。ぱく。

 ぱく、ぱく、ぱく。


 エビさんと二人で、しばし食事を楽しむ。

 うむ。古い皮膚。

 こびりついた粘液。

 なんともいえん。深い味わいじゃな。


「ああ、お二人とも。体液はあまり飲まないほうがいい。わたしの体液は毒なのだよ」

「そうか。気をつけよう」

「はい。気をつけます」


 そうか。魚の体液はうまいんじゃが、今回はおあずけか。

 仕方ない。それ以外の老廃物で、我慢するとしようかのう。


 食べる。食べる。

 もぐ。もぐ。

 もぐ、もぐ、もぐ、もぐ。


 エビさんとふたり、一心に食べつづけると、あれだけ汚れていたウナギの体も、最後にはピカピカになった。

 光を反射してキラキラしておる。

 我ながら、いい仕事じゃったの。


「終わったぞ、長老」

「おつかれさまでした」

「素晴らしい! こんなにきれいにしてもらえるなんて!」


 うねうね。うねうね。

 ウナギ長老は嬉しそうにダンスを踊る。

 こんなに喜んでもらえると、こっちまで嬉しくなってしまうのう。

 ぴょこぴょこ踊ってしまうわい。


 にょろにょろ。

 ぴょこぴょこ。

 ぱちん、ぱちん。

 三人で、しばらく踊った。


 やがて、落ち着きを取り戻したあと、ウナギ長老がこう言った。


「こんなに丁寧なクリーニング屋さんは、滅多にいないよ。

 このそばに住むことにしよう。たまに、掃除をお願いしてもいいかな?」


 わしらは、顔を見合わせて、同時にうなずいた。


「「もちろん、よろこんで!」」


 こうして、ウナギ長老がわしらのご近所さんに加わった、というわけじゃ。


〈 技能《クリーニング》を習得しました 〉

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