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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
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同居人

 翌朝。

 目が覚めると、目の前に宇宙人の顔があった。

 わしは、とんでもなく驚いて、思わず砂の中から跳び上がってしまった。

 驚くなというほうが無理な話じゃ。宇宙人じゃぞ!


「ぬ、ぬおおおあああああ」


 思わず叫ぶ。

 いかに魚とて、悲鳴をあげることくらいはできる。度肝を抜かれたときに出す音じゃ。

 腹の浮袋に思いっきり力を入れると、出るのじゃ。

 音で表わせば≪びゅゅいぃいい≫とでも言ったところか。


 そんな音を出して、わしは後じさった。

 舞い上がった砂であたりの水は濁っておる。

 ど、どうじゃ、宇宙人はまだおるか? どこにおる!?


「びっくりさせました。ごめんなさい」


 砂煙の中から、そんな声が聞こえた。

 なんじゃ、宇宙人のくせに、話せるのか。

 まだわしはおっかなびっくりじゃったが、話せる相手なら、まず会話をしてみるとしよう。


「おぬし、何者じゃ」

「わたし、エビです。あなたが作った巣穴、とっても立派だったから、ついお邪魔してしまいました」


 エビじゃと。

 もうもうと煙っていた視界が晴れていく。その中心からのっそり現れたのは、たしかにエビじゃ。

 わしより少し大きいくらいかの。


「本当にエビじゃな」

「はい。わたし、ここに住みたいです」


 なるほど、至近距離で見てしまったせいで、宇宙人に見えたのじゃな。納得じゃ。

 それにしても寝起きの心臓に悪いわい。


「ここに住みたいとはどういうわけじゃね」

「わたし、穴掘りが得意なので、お役にたてると思います。

 でも、穴を掘っているとき、襲われます。

 あなたと一緒に住めれば、その心配いりません」


 なるほど、これは共生というやつじゃな。

 わしは何となく悟った。

 有名な話じゃ。ハゼとテッポウエビは仲良く一つの巣を共有することがあるという。

 テッポウエビはハゼに見張りを頼み、ハゼはテッポウエビに巣穴を保守してもらう。ともに利益供与し合う関係なのじゃな。

 はてしかし。そうなるとわしは、ハゼの仲間なんじゃろうか。


「なあ、エビよ。わしは、ハゼなのじゃろうか」


 きいてみた。


「分かりません。

 でも、わたし、あなたのお役に立ちます。

 あなたも、わたしの役に立ってくれると、うれしい」


 はあ、そういうもんじゃろうか。

 長い触覚でこちらに触れてくるので、思わずこちらも、握手の要領で前ヒレを差し出してしまった。

 まあええ。契約成立じゃ。

 そういえば、わしはともかく、こやつもテッポウエビなのかどうか分からんぞ。


「おぬしはテッポウエビかね」

「エビです。テッポウエビというのは、わかりません」

「その大きな鋏で、ぱちん! とやってみてくれんか」

「はい。えいっ」


 ぱちん! とエビは前肢を開いて、打ち鳴らす。

 すごい音じゃ。鼓膜が破れそうじゃわい。

 これは間違いなく、テッポウエビじゃな。


「お前さんはテッポウエビじゃろうの」

「わたし、テッポウエビでしたか」


 エビは、どことなく嬉しそうにしておる。新しいことを知れて楽しいのじゃろう。鋏を振り上げて、

 ぱちん!

 ぱちん!

 ぱちん!


 これこれ、興奮して鋏を何度も鳴らすでない。

 困ったもんじゃ。本当に鼓膜が破れてしまう。

 いや、わしは魚じゃから、鼓膜はないのか。



   ゅ゜



 エビとの共生をはじめて数日。

 役立つとの言葉通り、エビは働きものじゃった。

 こやつの働きで、巣はずいぶん立派なものになった。

 まさか中にトイレまでついておるとはな。

 いや、もちろんトイレなどという立派なものではないのじゃが、便をする場所が決められていて、そこでするようになっておる。

 その便をな、エビが嬉しそうに……。

 やめよう。

 とにかく、共生生活は順調といったところじゃ。


 エビのほうは毎日穴を掘っておるからいいとして。

 わしはというと、砂から餌を獲るすべを覚えたぞ。

 こう、口の上のほうでな。砂に触れていくと、うまそうな味がするのじゃ。

 そこで砂を漉しとると、中からゴカイが現れたりする。

 うまいぞ。

 たまに、食べられないようなドでかいなめくじが現れたりもするがのう。


 あとは、そうじゃな。

 たまにエビがわしのことをクリーニングしてくれるのじゃ。

 自分がマンボウをクリーニングしてやるとき、マンボウが気持ちよさそうにしておった理由が分かったわい。

 気持ちよさすぎる。

 これはもう、やみつきになってしまうのじゃ。

 ただ、洗いすぎるとお肌が荒れてしまうのと同じで、魚のクリーニングもほどほどが肝心なんじゃ。

 どうしてもクリーニングしてほしくない気分のときもあって、そういうときは体を振って拒否の意を伝えるのじゃが、そうするとエビが悲しそうにするのが哀れじゃ。


 もちろんお返しに、わしもエビのことをクリーニングしてやるぞ。

 エビはたまに、鋏で自分の体をていねいに手入れしているようじゃが、やはりどうしても届かない位置に藻などがついたりする。

 そういうのはわしが取ってやるのじゃ。

 そうすると、表情は変わらんが、鋏を伸ばして気持ちよさそうにしておる。

 ふふふ。

 まだまだわしもいけるのう。


「それにしても、この巣はずいぶん大きくないじゃろうか。大は小を兼ねるというが、正直、ふたりで使うには広すぎやせんかね」

「ふたりとも、どんどん大きくなります。これでも、きっとすぐ、足りなくなる」


 そうか。

 なるほど、言われてみれば、わしは海底に下りた時と比べて、明らかに一回り大きくなった感じがするぞ。

 エビのほうは……


「わたしも、今から脱皮します」


 そうか。

 それ、わし、見ないほうがええのかのう。

 それとも、あまり気にせんか?

〈 エビがパーティーメンバーに加わりました 〉

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