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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
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さかなになったぞ

 まさか、わしの来世がさかなになるとはのう。

 周りに仔魚が群れていることからみて、どうやら、わし自身も、生まれたばかりの仔魚になってしまったようじゃ。

 少なくとも、そう考えるべきじゃろう。

 そう。おそらく、先ほどまで食べておったのは、わし自身が生まれてきた魚卵の殻だったのじゃ。


 仔魚というのは、あれじゃ。

 卵から孵ったばかりの赤ちゃんのことじゃな。

 そして、魚の赤ちゃんのお腹にはたいてい、臍嚢と呼ばれる袋がくっついておる。袋には栄養がたっぷり入っていて、これは、人間でいうところの母乳にあたる。

 わしらのような魚は、お母さんからおっぱいをもらう代わりに、これを吸って大きくなるのじゃ。


 仔魚には外敵も多い。

 魚といっても、こんな小さくては、まだ上手に泳げない。だから、動きの速いほかの小魚の、格好の餌食になってしまうのじゃ。

 わし自身もいつまで生きてゆけるかわからんが、まあせっかく頂いたお命さまじゃ。大切に生きんとのう。


 ぴるぴる。

 尾びれがうまく動かん。

 まあええ。とにかく、頑張って、あそこに浮いておる海藻まで行こう。

 ほれ、急げ、急げ。

 まずは、身を隠すのじゃ。

 


   ゅ゜



 わしが生まれてから、しばらく経った。

 今日もお日様の光を避けて、海藻の中をぴこぴこ泳いでおる。

 わしがどういう種の魚なのかはわからんが、ひとまず魚らしい形にはなったと思うぞ。

 なんせ、お腹の袋がほとんどしぼんでしまったのじゃ。


 袋がどんどんしぼんでいくにつれて、どんどんお腹が減るようにもなってきた。

 そこで最近は、そのへんを泳いでおるプランクトンを、ぱくり、とつついて食べるようにしておる。

 うまいぞ。

 オキアミ。ミジンコ。クラゲ。目玉にヒレがついただけの変な生き物。

 なんでもうまい。

 じゃが、わし自身もプランクトンのようなものじゃから、ときにはもっと大きなやつに食われそうになる。

 そういうときは、じっと海藻の暗がりに身を寄せて、とにかく気配を殺すのじゃ。

 怖いのう。


 そうそう。最近になって分かったことじゃが。

 このあたりの海底一帯は、どうも、綺麗な珊瑚礁が広がっておる。

 沖縄なのかのう。

 今はまだ、わしは海面付近でぴこぴこ泳ぐしかないが、いずれはあそこまで潜ってみたいものじゃ。


 こうして水面を泳いでおると、ときに思いがけない光景に出会ったりする。

 海流に流されていく大きな赤い果実。

 空から落ちてきて、獲物を探す白い水鳥。

 何度もジャンプを繰り返すマンボウ。


 マンボウは、水面に体をたたきつけて、体についた寄生虫を振り落とそうとする。クジラやシャチも同じようなことをする。

 これを、ブリーチングというのじゃ。

 テレビで、海洋自然番組をやると、たいていこの単語が出てくるので、わしも知っておった。

 つまり、このマンボウは体が痒くて痒くてたまらない状態なんじゃな。


 様子を眺めていると、やがてマンボウは疲れたのか、ごろんと横向きになってしまった。

 その体のあちこちには、やはりノミのような虫がついている。

 少し気の毒に思えたので、近づいて、その小さな虫を食べてやることにした。

 ぱくぱく。

 おお、寄生虫もうまいではないか。

 こやつらが卵を持っておったら、わしに寄生してしまうのかもしれんが、まあ細かいことはええわい。

 できるだけよく噛んで食べれば大丈夫じゃろ。

 ぱくぱく。

 しばらくそうやって虫を取ってやると、やがてマンボウは回復したのか、のんびりと泳いでわしから離れていった。

 うむ。

 達者での。

 美味しい虫をありがとう。



   ゅ゜



 わしは仔魚から幼魚となった。

 お腹の袋はもうなくなり、つねに腹を空かせて餌を探し回る日々が始まったのじゃ。

 その餌も、プランクトンでは物足りないようになってきた。

 まだプランクトンも食うが、今ではより大きなシラスやエビの幼生のほうが魅力的に思える。

 つい最近までわしもこのサイズだったはずじゃが。

 悪く思うな、弱肉強食なのじゃ。

 ぱくぱく。


 最近では、そろそろ海面近くで過ごすのも限界かと思えてきた。

 大きな獲物(わしにとって、という意味じゃ)は、海面近くではなかなか見つからん。

 海藻の住処は住みよかったんじゃがのう。

 それに比べて。

 海底を見てみると、どうもわしと同じくらいの大きさの魚が群れているのが、しょっちゅう見える。

 あっちには餌が豊富にあるのじゃろう。


 こちらでは、たまにくるマンボウから貰う虫くらいしか、ごちそうと言えるものがない。

 引っ越しの時期かもしれんのう。

 この表層から、海底まで、行くとしよう。

 途中で襲われて食われるかもしれんが、なに、どのみちいつまでも海藻に隠れていられるわけはないんじゃ。

 男は度胸。


 でもちょっと怖いから、決行は今日の夜じゃな。

 だからマンボウや、それまではお前さんにさーびすしてやるぞ。

 なに、こっちも美味しいもんを貰っておるんじゃ。うぃん・うぃん、というやつじゃよ。

 ぱく。

 いや、本当は、だいぶ怖いからのう。

 最後の晩餐みたいなもんじゃよ。

 わし、死ぬかのう。


 ――死なんかったぞ。

 決死の思いで海底までやってきた。夜を選んで正解だったようじゃ。

 しかし、まだ安心するには早すぎる。

 なんせ、海底は海底で、大勢の捕食者がおるはず。

 わしなんか、狙われたらいちころじゃ。


 とりあえず、どこか隠れるところは。今日眠れるところはないじゃろうか。

 珊瑚礁を見る。

 隠れるところは多そうじゃが、どことなく、縄張りなどが厳しく決まっていそうな感じじゃ。新参のわしが入っていって、歓迎してもらえる雰囲気ではない。

 となると、岩礁のどこかに、身を隠すべきなのか。

 いや。

 わしの本能がささやくのを感じる。どうやら、わしにはもっと適した寝床があるようじゃ。

 海底の砂地に降り、口で砂を掘ってみる。

 これじゃな。

 みるみる掘れる。しばらく砂を掻き出すと、わしが入るのに適した穴ができあがった。

 結構。今夜はここで眠るとしよう。

 おやすみなさい。


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