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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
7/16

命名

 くずもちは、不思議なやつのようじゃ。


 まず、ぐにゃぐにゃだったはずの体が、一晩たつと固く縮まっておった。

 まだ押せば柔らかいが、ゼリーのような感触とは雲泥の差じゃ。

 半透明だった身体も、気が付けば黒っぽくなっておるような……。

 うーむ。

 謎じゃな。


 食べるものは、どうやら、海中のプランクトンらしい。

 どこに口があるのかは分からんが、器用に捕獲しているようじゃな。

 いや、本当にわからん。

 それ、どうやって捕まえておるんじゃ?

 触手……いや、手のような部位が、体から突き出ておる。

 どことなく、エビさんのはさみのようにも見えるが。

 うーむ。

 これも謎じゃな。


「この子、なんて呼びましょう?」


 と、エビさんが言う。

 うーん、くずもちじゃだめかのう。


「すみません、それって、なんですか?」


 ああ。

 エビさんには、くずもちは分からんか。

 そうじゃのう。じゃあ、黒っぽいから、クロはどうじゃろう。


クロ! いいですね! 黒、おまえは黒という名前ですよ」

「…………」


 おお、ぷるぷるしておる。

 あれは喜んでおるんじゃろうか。それとも、抗議なんじゃろうか。

 たぶん喜んでおるんじゃろうな。

 しばらくまた、三人で踊ってしまった。



   ゅ゜



 わしは最初、クロのことをクラゲのようだと思っておった。

 あるいは、プランクトン。くずもち。

 とにかく、クロは半透明で、ぷるぷるしておった。


 しかし、日がたつにつれ、クロは形を変えていく。

 柔らかかった体は、縮まり、しなり、細長くなった。

 丸かった体は、ところどころに凹凸ができておる。

 全体的には、なんだかまるで、


「エビみたいですね」


 と、エビさんが言う。

 うむ。

 わしもそう思う。これはまるで、エビじゃな。

 ところどころ、まだ半透明でやわらかいものの、足らしきものまで生えてきておる。


「きっと、クロはエビの子供だったんですよ!」

「うーむ。まさかあのぷるぷるした、透明なくずもちが、エビだったとはなあ。分からんものじゃ」

「…………」


 わしらはクロを目の前にしながら、二人で言い合う。

 クロは成長したものの、まだ話せはしないようで、じっと聞いている様子じゃ。


「しかしエビさん、わしの知るエビの子供というのは、もっとこう、分かりやすくエビっぽかったはずじゃぞ」

「そうでしょうか?」

「うむ。エビさん、子どもの頃、あんなに透明で、ぷるぷるしておったか?」

「うーん。よく覚えていないです。でも、違っていたような気がします」

「…………」

「でも、さかなさん。海は広いんですから、クロみたいなエビがいたって、おかしくはありません」


 と、エビさんは言う。

 たしかに、そうじゃ。わしとて、エビの幼体のことを、詳しく知っておるわけではない。

 くずもちのような形をした、エビの赤ちゃんも、おるのかもしれん。


「…………」


 エビさんがやさしく、長いヒゲを使って、クロのことを撫でる。

 黒は身を震わせて、うれしそうに、


 ――ぱちん


 と、小さく鋏を鳴らした。


 うーむ。

 たしかに、エビにしか見えんのう。



   ゅ゜



 次の日、長老が数日ぶりにやってきた。


「やあ。こんにちは。エビさん、さかなさん。今日も、頼むよ」

「こんにちは。長老さん」

「こんにちは。長老。久しぶりじゃな」

「うん? この子はなんだね?」


 長老は物珍し気な目で、クロを見る。

 クロは、もうすっかり、エビそのものの姿になっている。

 真っ黒なエビじゃな。

 エビさんと並んでいると、兄弟のようにそっくりじゃ。


「ああ。こやつは、クロという。わしらの新しい家族じゃ」

「え? ……え?」

「エビさんと兄弟みたいにそっくりじゃろう」

「これからは、黒も一緒にここに住むので、よろしくおねがいしますね」

「あ、ああ。びっくりしたな。まさか」


 そこで長老は言葉を途切れさせる。


「い、いや。お二人がいいなら、いいんだよ。クロさんというのか。こちらこそ、よろしく」

「…………」


 長老の言葉に、クロも、ハサミを上げて挨拶を返す。


「じゃあ、さっそくだけど、クリーニングをお願いしてもいいかい?」

「もちろんじゃ」

「頼むよ。――ふふ、それにしても、黒さんか。まさか……スラ……と共生するなんて。いや、さかなさんたちのところは、本当に飽きないね」


 長老は、なにがおかしいのか、くすくすと笑う。


「それに、黒さんという名前もいい。

 それならさしづめ、さかなさんはアオさん、エビさんはシロさんだね」


 そうか、わしらも名前がないんじゃったか。

 青と、白か。


「わたし、白ですか」

「わしは、青じゃのう」


 たしかに、エビさんの身体は白い。

 そして、わしの身体は青いのじゃろう。

 わしらは顔を見合わせると、二人でそろって、長老へうなづく。


「「それ、とってもいいと思う」」


 こうして、わしの名前は青に、エビさんの名前は白になった。


〈 名前が変更されました 〉

〈 パーティーメンバーのエビを白と命名されました 〉

〈 パーティーメンバーの■■■■■を黒と命名しました 〉

〈 経験値を獲得しました 〉

〈 レベルが上がりました 〉

〈 白のレベルが上がりました 〉

〈 黒のレベルが上がりました 〉


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