命名
くずもちは、不思議なやつのようじゃ。
まず、ぐにゃぐにゃだったはずの体が、一晩たつと固く縮まっておった。
まだ押せば柔らかいが、ゼリーのような感触とは雲泥の差じゃ。
半透明だった身体も、気が付けば黒っぽくなっておるような……。
うーむ。
謎じゃな。
食べるものは、どうやら、海中のプランクトンらしい。
どこに口があるのかは分からんが、器用に捕獲しているようじゃな。
いや、本当にわからん。
それ、どうやって捕まえておるんじゃ?
触手……いや、手のような部位が、体から突き出ておる。
どことなく、エビさんのはさみのようにも見えるが。
うーむ。
これも謎じゃな。
「この子、なんて呼びましょう?」
と、エビさんが言う。
うーん、くずもちじゃだめかのう。
「すみません、それって、なんですか?」
ああ。
エビさんには、くずもちは分からんか。
そうじゃのう。じゃあ、黒っぽいから、黒はどうじゃろう。
「黒! いいですね! 黒、おまえは黒という名前ですよ」
「…………」
おお、ぷるぷるしておる。
あれは喜んでおるんじゃろうか。それとも、抗議なんじゃろうか。
たぶん喜んでおるんじゃろうな。
しばらくまた、三人で踊ってしまった。
ゅ゜
わしは最初、黒のことをクラゲのようだと思っておった。
あるいは、プランクトン。くずもち。
とにかく、黒は半透明で、ぷるぷるしておった。
しかし、日がたつにつれ、黒は形を変えていく。
柔らかかった体は、縮まり、しなり、細長くなった。
丸かった体は、ところどころに凹凸ができておる。
全体的には、なんだかまるで、
「エビみたいですね」
と、エビさんが言う。
うむ。
わしもそう思う。これはまるで、エビじゃな。
ところどころ、まだ半透明でやわらかいものの、足らしきものまで生えてきておる。
「きっと、黒はエビの子供だったんですよ!」
「うーむ。まさかあのぷるぷるした、透明なくずもちが、エビだったとはなあ。分からんものじゃ」
「…………」
わしらは黒を目の前にしながら、二人で言い合う。
黒は成長したものの、まだ話せはしないようで、じっと聞いている様子じゃ。
「しかしエビさん、わしの知るエビの子供というのは、もっとこう、分かりやすくエビっぽかったはずじゃぞ」
「そうでしょうか?」
「うむ。エビさん、子どもの頃、あんなに透明で、ぷるぷるしておったか?」
「うーん。よく覚えていないです。でも、違っていたような気がします」
「…………」
「でも、さかなさん。海は広いんですから、黒みたいなエビがいたって、おかしくはありません」
と、エビさんは言う。
たしかに、そうじゃ。わしとて、エビの幼体のことを、詳しく知っておるわけではない。
くずもちのような形をした、エビの赤ちゃんも、おるのかもしれん。
「…………」
エビさんがやさしく、長いヒゲを使って、黒のことを撫でる。
黒は身を震わせて、うれしそうに、
――ぱちん
と、小さく鋏を鳴らした。
うーむ。
たしかに、エビにしか見えんのう。
ゅ゜
次の日、長老が数日ぶりにやってきた。
「やあ。こんにちは。エビさん、さかなさん。今日も、頼むよ」
「こんにちは。長老さん」
「こんにちは。長老。久しぶりじゃな」
「うん? この子はなんだね?」
長老は物珍し気な目で、黒を見る。
黒は、もうすっかり、エビそのものの姿になっている。
真っ黒なエビじゃな。
エビさんと並んでいると、兄弟のようにそっくりじゃ。
「ああ。こやつは、黒という。わしらの新しい家族じゃ」
「え? ……え?」
「エビさんと兄弟みたいにそっくりじゃろう」
「これからは、黒も一緒にここに住むので、よろしくおねがいしますね」
「あ、ああ。びっくりしたな。まさか」
そこで長老は言葉を途切れさせる。
「い、いや。お二人がいいなら、いいんだよ。黒さんというのか。こちらこそ、よろしく」
「…………」
長老の言葉に、黒も、ハサミを上げて挨拶を返す。
「じゃあ、さっそくだけど、クリーニングをお願いしてもいいかい?」
「もちろんじゃ」
「頼むよ。――ふふ、それにしても、黒さんか。まさか……スラ……と共生するなんて。いや、さかなさんたちのところは、本当に飽きないね」
長老は、なにがおかしいのか、くすくすと笑う。
「それに、黒さんという名前もいい。
それならさしづめ、さかなさんは青さん、エビさんは白さんだね」
そうか、わしらも名前がないんじゃったか。
青と、白か。
「わたし、白ですか」
「わしは、青じゃのう」
たしかに、エビさんの身体は白い。
そして、わしの身体は青いのじゃろう。
わしらは顔を見合わせると、二人でそろって、長老へうなづく。
「「それ、とってもいいと思う」」
こうして、わしの名前は青に、エビさんの名前は白になった。
〈 名前が変更されました 〉
〈 パーティーメンバーのエビを白と命名されました 〉
〈 パーティーメンバーの■■■■■を黒と命名しました 〉
〈 経験値を獲得しました 〉
〈 レベルが上がりました 〉
〈 白のレベルが上がりました 〉
〈 黒のレベルが上がりました 〉




