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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
14/16

治癒

 ホンソメワケベラさんたちもそうじゃが、わしら海の掃除屋クリーナーは、主に患者の身に巣食う虫を食う。


 まあ、ほかにも、口の中の食べ残しや、うろこについた藻や、古くなった体組織かさぶたを取ってやることもあるが、一番喜ばれるのは虫を食うことじゃ。

 虫。

 いわゆる、寄生虫というやつじゃ。

 体の体表にしがみついて、ノミのように粘液を吸うやつもおれば、うろこの隙間にもぐりこんで体液を啜るようなものまでおる。


 さて、白点病というのも、寄生虫が引き起こす病気じゃ。

 これが人間に飼われている魚であれば、初期のうちに隔離して、寄生虫を殺す薬を投与すれば、あっという間に治る。

 しかし、ここは、海じゃ。

 隔離する水槽などありはしない。

 となれば、わしらクリーナーの出番。

 こうして虫を一匹一匹、丁寧に食ってやるしかないわけじゃ。


 《大牙》の子の、体中に浮かぶ、白い斑点。

 そして、その皮膚の中を、もぞもぞと動き回る、小さな虫。


 姿かたちは、ワームのようじゃ。しかし、まともな大きさの魚には、見つけられないほど小さい。

 それが、はっきりと見える。


 ちゅう


 と吸ってやり、


 ぱくん。


 と、食べる。


 最初のころと比べて、わしのクリーニングの腕は、やはり上がっておるようじゃ。

 あるいは、虫を吸い出す方法が理解できるようになった……いや、いつの間にか身についていたというべきか。


 不思議な感じじゃ。

 やはり、魚というのは、人間とは違っておって、いろいろなことを本能的にできるものなんじゃろうか。

 ホンソメワケベラさんたちも、誰に教えられなくても生まれつき、クリーニングの方法を知っておるようじゃしの。

 わしも、しだいに、一人前の魚に近づいておるのかもしれん。


 ――クリーニング


 意識が、自然と、自分の行為に集中していく。

 頭の中にあるのは、ただ己のなすべきことだけ。


 この子の身体をきれいにしてやる。

 虫を食う。

 そして、この子を救う。


 わしの動きが、そのためだけに最適化されていく。

 見える。

 子どもの体内に巣食う虫が。

 やつらが食らいつく、部位が。

 体内の病床が。やつらが弱らせている体内の経絡が。

 まだ生きようとしている心臓の鼓動と、血のめぐりが、はっきりとわかる。


 そして、この子のまわりを取り巻く、もやのようなものを、退治する方法も。


「いい子じゃ」


 わしは、子供によびかける。


「もうしばらくの辛抱じゃからな。ほんの少しじゃ」


 ――クリーニング


 呼びかけながら、食べる。

 虫を。

 虫が腐らせてしまった、腫瘍を。

 子どもの、古くなってしまった体液を。

 あるいは、子どもの傷跡を。治りを遅らせるかさぶたや、侵入しようとする細菌を。

 そして、もやがとりついた、体の腐りかけた部位を、やさしく食べる。


「わしが今から、おまえさんの体についた、悪いものを取り除いて、治してやるからな」


 ――クリーニング


 そして、虫をやっつけ終え、その腫瘍の最後の部分を、やさしくなめてやったとき。

 勘違いかもしれないが、子どもの体が、ほのかに、白くい光におおわれたように、わしには見えた。

 それを見て、なぜか。

 なぜだかはわからんが、わしは、これでもう大丈夫。この子供はすっかりよくなる――と、そう確信しておったのじゃ。



   ゅ゜



 数日後。

 《大牙》が、嬉しそうにコロニーまで報告にやってきた。


「先生! 先生! おかげさまで、息子のやろう、すっかりよくなりましたぜ!」

「そうか。それはよかったのう」


 わしは、それをきいて、ほっと、安心した。


「ああ! 全部、先生のおかげだ!」


 と、《大牙》は嬉しそうに言う。

 だが、まだわしには気がかりが残っていた。

 子どもの体にまきついておった、黒いもや。

 あれは、尋常のものではない。おそらく、子どもがあれほど虫におそわれたのは、あのもやのせいなのじゃろう、と。

 それを聞くと、《大牙》は言いにくそうに口を開き、


「あ、ああ。なんでも、北のほうの組と喧嘩したとき、なすりつけられたんじゃねえかって話だ」

「喧嘩……抗争かい。じゃあ、どこからやってきたのかは」

「すまねえ。わからずじまいだ」


 それをきいて、わしはふと、いやな予感を覚えた。

 パンデミックと呼ばれる現象じゃ。

 もしも、あの黒いもやが、病気を呼ぶものであるならば。病に対してほとんど抵抗力をもたない魚が、あのもやにとりつかれたとき、それは……。


「おっと。先生、お忙しいところ、失礼したな。次のお客さんがお待ちかねみたいだから、おれは退散するとするぜ」


 考え込んでいるわしの意識を、《大牙》の呼びかけが現実に引き戻した。


「あ、ああ。息子さん、お大事にのう」

「ああ。また今度、ちゃんとあいさつに来るよ。それじゃあな!」


 そう言って、《大牙》は帰っていく。

 わしは、周りを見渡した。

 いつのまにか、大量の魚にかこまれておる。

 いや、このコロニーに、掃除をもとめてやってきた、大型の魚たち。

 彼らは、わしの掃除を求めてやってきた、客じゃ。


 わしは気を取り直すと、期待に満ちた目をする彼らに向かって、呼びかけた。


「ええい、掃除はしてやる! じゃから、一列に並べ!」


 なんにせよ、目の前のしごとを片付けるのが、優先じゃろうて。

 いろいろと考え込むのは、そのあと、じゃ。


「並ばんやつは、一番最後に回してやるぞ! わかったら、さっさと整列するのじゃ!」


 そして、またいつものわしの、掃除クリーニングに明け暮れる日々がはじまる。


〈 技能《クリーニング》のレベルが上がりました 〉

〈 技能《ヒーリング》を習得しました 〉

〈 レベルが上がりました 〉

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