休暇
「休暇じゃと」
「休暇ですか」
わしと、白さんは、それを聞いて、きょとんとした。
「ああ。みんなの総意でな。おまえたちが働きすぎて、つぶれないようにしようと」
これは、うなぎ長老。
ゅ゜
そういうわけで、わしらが働くコロニーでは、最近、ちょっとした変化があった。
なんでも、そこそこの数のクリーナーが揃ったため、これまでのように全員が毎日働くのはなく、クリーナーの間でもある程度シフトのようなものを敷くのだという。
魚なのに、シフト制とは。
厳密に三交代制のようなものではないらしいが……発想がすごいのう。
前世では、魚がこれほどの知恵を持っているとは、想像もしておらんかった。
あるいは、これは自然の知恵、というものじゃろうか。
そういえば、蟻や蜂のような集団行動する生き物は、ある程度働く役目と休む役目が決まっていて、群れの全員が常に働いている、というようなことはないのだという。
これも、それに似たものなのかもしれん。
なんにせよ、わしらもお休みをもらえると聞いて、嬉しくないわけではない。
「わかった。ありがたく休ませてもらうことにするわい」
「ありがとうございます、長老」
わしと、白さんは、長老に感謝する。
「ああ、構わんよ。というか、こっちこそ、おまえさんたちには、ずいぶん助けてもらったからね。明日一日くらい、ゆっくりしておいで」
と、長老は言う。
つまりこれが、次の日わしらが休むことになった、理由じゃった。
ゅ゜
さて。
単に休むと言っても、わしらは魚と海老。
海の中でできることなど、たかがしれておる。
「白さんは、どうするんじゃね」
「わたしは、巣穴をきれいにします」
「それじゃあ、いつもと変わらんのじゃないか」
「いいえ、このところ忙しくて、手が付けられていなかったものですから」
白さんは楽しそうに、そう言った。
わしにしてみれば、白さんのおかげで巣穴はいつも清潔に保たれていて、そのことに感謝しておったんじゃが……白さんからすれば、不満の残るものだったらしい。
「青さんは、どうしますか」
「わしか? わしは、そうさなあ」
わしには白さんとは別の考えがあった。
ぐるりと、前鰭を回し、
「このクリーニング・ステーションを、一度ぐるりと回ってみたいんじゃよ」
「え?」
「ここはわしらの住処じゃ。じゃがなんせ、広い。わしが挨拶したこともない魚が、たくさん住んでおる」
せめて、今いる魚くらいは、把握しておきたい。
そう言うと、白さんはなるほど、とうなずいた。
「青さんらしい、いい考えだと思います。ステーションの中であれば、危険はないと思いますから、楽しんで回ってきてくださいね」
いやはや。
本当に、白さんの言葉遣いは、うまくなったもんじゃの。
ゅ゜
さて、と考える。
コロニーをどこからめぐるべきじゃろうか。
コロニーの作りは、時計回りに、東エリア・南エリア・西エリア・北エリア、そして真ん中の中央エリアに、大まかに分けることができる。
わしらの住居がある中央エリアは、除外。
東エリアは、このコロニーの玄関口のような場所じゃ。うなぎ長老の巣もあるし、訪れる魚たちでごったがえしておる。じゃから、ここも除外。
残るは南・西・北じゃ。
南には海藻が多く、ホンソメワケベラをはじめとした、多くのクリーナー種が巣を構えておる。
西は、岩場が大半をしめている。タコなどの魚以外の種が多いらしいが、わしはこれまで訪れたことがない。
北は、一段深い海域になっている。もしもこのステーションが襲われたとき、コロニー内に巣のない魚たちが、逃げ込むための場所らしい。数は少ないが、住んでいる魚もおるとか。
わしは考えた末、南から順に回ることにした。
考えてみれば、あれだけホンソメワケベラさんたちにお世話になっておきながら、ご挨拶に行くのははじめてじゃのう。
なにか土産でも用意したほうがええんじゃろうか。
長老に相談してみたほうが、いいかもしれんな。




