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幼なじみと一緒にいたら、スクールカーストの底辺になった  作者: 錦織一也
オタクと幼なじみしかいない冬休みに突入してしまった…
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冬空の雨

 俺は聞かされていたので、大袈裟に驚く事は無かったが、紫苑が引っ越す話を初めて聞いた葛城は、余裕そうな雰囲気は消えて、紫苑に背を向けてしまった。


「……すみません。……この旅行が終わった時に言おうと思っていたのですが、場の流れで言っちゃいました」


 今年いっぱいで、紫苑とまた離れ離れになってしまう事を知った俺は、拳を握り締め、下に俯く事しか出来なかった。長い間会えず、そして約10年ぶりに再会できたと思っていたが、また半年で紫苑は去ってしまう。紫苑をそんな運命にした神を、俺は心の底から恨んだ。


「高村さん。九州のどこなの? 具体的に知りたいわ」

「確か、『く』何とかって地名だった気がしますよ~。一応、ママに確認してみますね~」


 俺も九州のどこかは知らない。『く』が付くと言ったら、ゆるキャラで有名な熊本になるのだろう。だが、熊本ぐらいなら、そう簡単に忘れると思わない。


「マロン」


 親にメッセージでも送ったのだろう。スマホで入力した後、紫苑は俺の顔をじっと見てきた。


「短い時間でしたけど、私はマロン、菜摘ちゃんや果歩ちゃんたちと過ごした日々は、とても楽しかったですよ」

「そうか」


 もう、俺は紫苑の言葉を遮らない。小学生の時の俺は、変に意地を張って、紫苑の気持ちを聞かなかったことを、今でも後悔している。


「もう半年前ぐらいになりますね。その中での一番の思い出は、夏休みにマロンと旅行、デートをした事ですね。浅草で迷子のアイリーンちゃんと共に回った事、その後はカラオケで、喉が潰れるまで歌いました」

「そうだったな。意外と、ロックな歌を歌うんだもんな」


 紫苑はアイドルとか、女性の歌、男性アイドルの歌ではなく、少人数で活動する、男性バンドの曲を歌っていた。そんな激しい曲ばかり歌っていたので、終わった頃には、紫苑は声はかすれ、そんな声が可笑しかったことを覚えている。


「やっぱり、マロンも思い出になるぐらい、楽しかったんじゃないですか」

「外国の子をお守して、スカイツリーに昇って、渋谷で猪俣たちに喧嘩売って、そして帰ったら菜摘に追いかけられて、夜遅くまで尋問される。そんな濃い一日を送ったら、忘れたくても忘れられないな」

「ふふふっ。やっぱり菜摘ちゃんは、手のかかる子ですね」


 紫苑と過ごしていたことで、俺は菜摘に怒られる、そんな定番なオチでも、紫苑は可笑しそうに笑う。


「けど菜摘ちゃんに怒られた時より、やっぱり私と過ごした時間の方が、鮮明に覚えているじゃないですか」


 その日だけは、紫苑と過ごした時間が多い。菜摘よりも話して、『休日出勤』という文字が書かれたシャツを着た紫苑の姿を見て、そんな紫苑の隣を歩いていた。


「私と楽しい一日を過ごして、そんなに鮮明に覚えているなら、もうマロンは私を忘れません。今ではマロンのSNSのIDも知っていますし、すぐに連絡も取れます。今回は海外じゃなくて、日本国内での引っ越しなので、パスポートや入国審査もいらない、電車や飛行機ですぐに会えますよ。だから……泣いちゃ駄目ですよ……?」


 紫苑に泣いている所を見られたくないので、俺は顔を俯かせていた。だが、快晴の空にある、眩しい太陽に照らされた涙が見えたようで、紫苑は俺にそう言った。


「泣いている奴に、説得力はないぞ……」

「こ、これは目が乾いて……。たった今から、ドライアイになったみたいなのですよ……。ううっ……」


 そして紫苑は座り込んでしまい、大きな声で泣き出してしまった。


「わ、私だってマロンと二度と別れたくないのですよ~っ!! 菜摘ちゃんや果歩ちゃんたち、そしてマロンとまだまだ一緒にいたかったです、もっとマロンと遊んでいたかった、もっとマロンの横顔を見ていたかった、もっとマロンの声を聞いていたかった、もっとマロンの傍にいたかったのですよ……」


 そして紫苑は、本格的に泣き出してしまった。

 傍から見ると、俺が紫苑を泣かせたように見えてしまう。

 いや、あながち間違っていない。俺が弱くて、紫苑に強い態度を見せられなかったから、紫苑を不安にさせてしまい、泣かせたしまった。


「ここで慰めようなんて考えたら、松原君はヒーローじゃなくなるわ」


 俺が悪かった。そう言おうとした時、葛城にそう言われた。


「何で謝ろうとするの? お互いに悪い事はしていない、誰もこの場で悪い事はしていないわ。泣くことは悪なの? 悲しくて泣くのは、人の本能。悲しくて泣きたければ泣けばいいの。感情を抑えて、変に格好つけている方が、とっても格好悪くて、この場で一番の悪者になるから」


 そんな事を言う葛城だが、葛城も目を腫らして、唇を噛みしめていた。それは俺がそっくりそのまま、葛城に返せばいいのかと思っていると、紫苑は鼻をすすりながら立ち上がった。


「果歩ちゃん。まだ、勝負の途中ですよ。マロンと相席になる為に、私も全力で歩いて、果歩ちゃんに勝ち――っと、電話なのです」


 紫苑は電話に出た。相手は、さっき引っ越し先を聞いた紫苑の母親のようだ。


「マロン、果歩ちゃん……。誠に申し訳ないのですっ!!」


 暫く会話していると、紫苑は急に俺と葛城の前で土下座をした。


「あの、ママが勘違いしていたようで……。ママが九州、福岡県にある久留米くるめだと思っていたみたいですが、実際は都内にある、久留米って所に、パパが赴任してくるみたいです」

「……もしかして、東久留米ひがしくるめの方? 確かに、小平近くにある、そんな名前の市があったわ」


 暫く紫苑の話を聞いていると、紫苑の父親が日本に帰って来るのは確かなようだ。紫苑の父親は九州に本社がある会社に勤めていて、、その関東支社が東久留米市にあり、そこの部長になると言う話だった。

 紫苑の母親が、父親が帰って、復縁したいと言う話を聞いて、紫苑の母親がパニックになった結果、色々と話がごちゃ混ぜになり、そしてマイホームを構え、九州に引っ越すると言う話と勘違いしてしまったようだ。


「高村さん~?」

「いふぁいのふぇすよ~」


 悲しんだことを損したと思って、葛城は紫苑の頬を摘まんでいたが、お互い泣きながら、嬉しそうな顔をしていた。


「あんまり男の子がわんわん泣くのは、みっともないわよ?」

「今思っている感情を、そのまま晒していた方が、格好いいと思ったからだ」


 葛城に茶化されても、周りの人に心配されても、俺は恥ずかしいと思わなかった。

 まだ紫苑と傍にいられる。まだまだ紫苑と思い出が作れる。その嬉しさをただ涙で表現しているだけなので、男が涙を流して泣くことは、恥ずかしいとは思わなかった。


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