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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第2章【初めてのクエスト】
16/29

13話目 久しぶりの町

遮る物のない頭上から降り注ぐ日の光。久しぶりに森から出た僕を出迎えたのは中天にさしかかろうとしている太陽の日差しだった。ここはロォークスの森の東にあるジャラクロゥ草原。出てくるモンスターは………………、調べてないから分からないんだよね。


アイテムストレージの中から干し肉を取り出し、僕を乗せて東へと歩くグリズとその横で周囲を警戒しているテスカに与え、さらにヴァンクの実を取り出してジュエラと一緒に食べ始める。


「それにしても目立つよね、これ」


髪の中から飛び出る尖った耳、いわゆるエルフ耳に触れると今までに感じたことの無いようなこそばゆい感覚が走り慌てて指を離す。


「とりあえず隠しておこう」


マイホームの誘惑に耐えきれず転生してしまったことに後悔はないけど、よくよく考えてみればもう少しレベルを上げてからでも遅くはなかったかもしれない。


森を移動する間に襲ってきた虫系モンスター達のことを思いだし、僕はしみじみとそう思った。

過ぎたことは仕方がないとはいえ、ちょっと軽率だったなと思いながら外套を羽織り、フードを被って耳を隠す。


エルフに転生して得られたのは【精霊言語】のアビリティツリーでこれがエルフの固定アビリティらしい。このアビリティのおかげで【精霊魔法】のスキルを手に入れることができた僕は、特有アビリティこそ手に入らなかったけれど、これで一応僕自身にも戦う術ができたということになる。森から出るまでにもフォレストワスプやポイズンスパイダーなどに風の精・シルフの力を借りたカマイタチで攻撃し倒すことに成功している。

【精霊魔法】はMPを消費して発動できるけれど、そのためには周囲に行使しようとする魔法に対応する精霊の存在が不可欠で、森の中で発動できる魔法はシルフの風魔法、ノームの地魔法、ドリアードの木魔法の三種類だった。川辺ならばウンディーネの力を行使する水魔法や、火があればサラマンダーの火魔法などがさらに使えるらしい。


町でランプが売ってたら買ってみようかな?それでサラマンダーと対話ができればだけど。


「グルゥゥゥゥ………………」


「テスカ?」


干し肉を食べ終えたテスカが喉をならして周囲を見回し、南の方を向いて牙を剥いた。テスカは気配察知のスキルを持っていて、その都度発動させる必要のあるぼくの気配察知と違い常時発動している上に精度が高い。僕も気配察知を発動させるがなにも見つからないけれど、テスカが警戒している以上何かがいることに間違いはない。


「グリズ、お願いね」


グリスの背から飛び降りて首筋を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めたグリスは次の瞬間には目を見開き戦闘態勢でテスカの前へと出る。


「ジュエラも離れないで」


肩に飛び乗ったジュエラに声をかけて、僕も目を凝らして周囲を観察する。ジャラクロゥ草原の草は膝上まで伸びているため開けている割に死角が多い。テスカが感づいた敵モンスターはそんな草よりも背の低いモンスターの可能性が高い。


「とりあえず、いぶりだせるかやってみよう」


テスカが警戒を続けているのを見て敵がまだ去っていないだろうと、静かに目を閉じる。


『あら?アタシたちの力を借りたいの?』


『うん、また力を貸して』


『はぁい、それじゃ一緒に遊びましょ』


脳裏に響くのは周囲にいる風の精霊・シルフの声だ。彼女たちの問いに答えて右手を前へと突き出し、風の刃が草原を薙払う姿を思い浮かべてその手を振るった。


『ゴォッ』


大気がうねる音が周囲に響き、風の刃が草原を走る。


「ギャギャーッ」


そして叫び声を上げて草の中からとびだしてくるのはムカデに薄い羽を生やしたような4体の虫系モンスターだった。頭上に表示されるHPバーにはほんの1ミリほどダメージを負ったことを示す跡が残っている。


森の中でも思ったけど、僕がとどめを刺そうと思ったら残りがこれくらいになるまでグリス達に削って貰わなきゃ無理だよね。


名前を知らない虫系モンスターは、飛び上がった勢いを緩めることなく羽を振動させ僕目掛けて宙を飛んでくる。その速さは僕の比ではなくこのままでは回避するどころか防御の姿勢をとる間もなく攻撃を受けることになるだろう。僕が一人でこの場にいたのなら。


「グゥォオォォオォオオッッ!」


グリズの【咆哮】が大気を震わせモンスターの動きが一瞬鈍る。そして咆哮を上げるのと同時に立ち上がったグリズの腕が先頭のモンスターへ振るわれ、地面へとたたき落とした。さらに立ち上がったグリズの胸元に1匹が激突し、その脇を抜けようとするモンスターはテスカに横から食いつかれ地面に引き吊り降ろされる。最後尾を飛んでいた個体はグリズを避けようと進路を変えたうえに動きが若干にぶっていたため、僕でもギリギリのところで回避することに成功した。


「グゥォオォォオォオオッッ!」


再度放たれる咆哮でテスカが押さえている以外の3匹の注意がグリズに集中する。宙を駆けて体当たりを敢行する虫達に対し、グリスは足下の1匹を踏みつぶし両腕を振り回して迎え撃った。


『今度は矢を。1発限りの威力を重視した矢を………………』


後退しながらシルフに呼び掛け掲げた手の上に風が集まってくる。手の中で風が渦巻き、それはやがて風でできた不可視の矢となって手の中に顕現する。

狙うのはグリズが相手をしている内の1匹。常に背後をとろうとする虫に狙いをつけて、僕は不可視の矢放つ。


「ウィンドボルト!」


シルフのささやいた名称と共に放たれた風の矢は、グリズの脇を抜けて背後に回ろうとしたモンスターの羽を貫いた。あの羽が弱点だったのか、矢は軽々と羽を貫き虫の動きを止め、グリズはその隙を逃すことなくその虫にスキル【剛腕】の効果で強化された腕を振り下ろし、その体を粉微塵に粉砕してみせる。


それにしてもあれだけ溜めて放った魔法だったのに、与えたダメージって最初のと変わらなかったなぁ。あれってお情けでダメージを受けて立ってことかな、数字にして1くらい。一応羽を貫くくらいはして見せたのに。


グリズが敵を踏みつけていた足を上げ、改めて勢いをつけて踏み降ろすと敵モンスターはそれで頭部をつぶされてHPを全損し、残るはテスカが相手をしているのと併せて2匹。グリズがその1匹を威嚇する声を上げるのを聞きながら残りの1匹の相手をしているテスカの方へと視線を移す。

するとそこでは羽の付け根に咬みつかれ、長い胴体と頭部を前足で押さえつけられた敵モンスターといつの間に飛び降りたのか、猫パンチよろしく前足でモンスターの頭部を叩くジュエラの姿があった。


なんだろう、この脱力感は………………。


がっくりと肩を落としている合間にもテスカの咬みつきによってダメージは随時与えられているらしく、HPバーがジリジリと減り続けていてもうすぐ0になりそうだ。


再びグリズの方を見れば最後の一体の頭部を正面から咬み砕きとどめを刺したところだった。


「ジュエラ、グリズの回復をお願い」


一度に3匹(実質2匹)の相手をしていたためか、多少のダメージを受けているのを確認してジュエラに回復を頼む。


「キュイ」


返事と共に放たれた気の抜けるパンチがちょうどモンスターのHPを削りきり、ジュエラがグリズのそばへと駆けより額の宝石から緑色の光を放つ。それを浴びたグリズのHPは瞬く間に回復し物の数秒で全快してしまう。


カーヴァンクルの固有スキル【癒しの光】。宝石から放たれた光で照らされた対象ののHPを小回復させる効果がある。小回復がどれくらいかというと、全体のHPの20~30%位だ。


グリズのHPが回復するのを確認し、ジュエラが倒した(実質ステラが倒した)虫モンスターに触れてアイテムのはぎ取りを行う。手に入ったのは【フライングセンチピートの牙】に【フライングセンチピートの甲羅】の二種類で、あのモンスターはフライングセンチピートと言う名前らしい。レベルとかがどれくらいかは分からないけれど、少なくとも僕とのレベルは相当離れていたはずだ。それを容易く倒してしまうのだからグリズとテスカの強さがとんでもないものだと言うことが良く分かる。


そばに寄ってきた二匹に労いの言葉をかけて再びグリズの背中に飛び乗り、僕らは東へ向かう。

目指すはキャラルの町だ。






キャラルの町に向かう途中であのフライングセンチピートやグラスヴォルフといったモンスターに何度か襲われながらものんびり進んでゆくと、町が近づいてきたのかモンスターと戦うPT達の姿が見え始める。


あるところでは体長3mはありそうな巨大な狼の攻撃を盾で防ぐ騎士の姿。その後ろでは髭を蓄えた僧侶風の男性が回復魔法を施し、横合いから剣を持った戦士が狼に攻撃を加えている。


他にもいくつもの氷の矢を降り注がせて高笑いをしているきわどい格好をしたどこか危なそうな雰囲気の女性やその横でげんなりしている栗毛色の髪をした魔導士ふうの女性がいたり、青い髪を背中まで伸ばし剣を持っているのにパンチの連続でゴブリン系のモンスターと戦う偉丈夫や、刀を手に大量のフライングセンチピートをトレインしてしまっている青い髪をツインテールにした少女。


なんだろう、今みた人たちってoyo以外のどこかで見たことがあるような……………………気のせいだよね。


脳裏に浮かんだ危ない考えを首を振って打ち消し、敵と間違えられて攻撃されないよう他のプレイヤーから距離をとって草原を横断する。たくさんのPTがいるからかモンスターのエンカウント率が減っているようだ。うん、これなら思ってたよりも早く町に着きそうだな。

などと考えている内に遠くに城壁が見えてくる。現在攻略組の活動拠点となっているキャラルの町だ。


町の城壁が見えてからはモンスターの襲撃もなく、僕はすんなりと町にたどり着くことができた。フードをしっかりと被り直してグリズの背から降り、僕は町の門をくぐった。


町の中は攻略の最前線なこともあって活気があり、至る所から呼び込みの声が聞こえてくる。呼び込みが行われているのは主に露店で品を売っている人たちだ。

僕はなぜか割れる人垣の合間をまっすぐに進んでゆき町の中心にある噴水にたどりつく。噴水からは東西南北、北東、北西、南西、南東と八方に道が伸びていて、今通ってきた西の道のすぐ隣、南西の道へと入る。その通りは露店が並んでいた西の通りとは違い、呼び込みの声ではなく鎚を振るう音が響く通りだった。β時代には来たことはなかったけれど、ボラーから聞いていた職人通り。彼はβ時代この通りにお店を構えていたらしい。


お店の名前はたしか………………。


「あった、『虹色モヒカン』」


やたらと達筆な筆遣いで書かれた店名に呆れながらテスカとグリズに外で待っているように告げて、ジュエラを肩に店の扉を潜った。


「いらっしゃい、ご用件は?」


店内に入って駆けられた声に振り向くと、カウンターの奥で何かの革を縫い合わせているモヒカン姿があった。そういえば防具とかの作製って地味に手間がかかるんだっけ?


「久しぶり、ボラー」


「あん……………………お前、ツバサか?」


被っていたフードを外すとボラーは間の抜けた顔で手にしていた革と針を落とした。


「おいおいおいおいおい、その耳………………おま、エルフに転生したのか?ていうかお前いつの間にそんなレベル上げたんだよ………………!」


見事なまでに混乱した様子を見せてくれる彼につい苦笑しつつ、僕は森であったことをキャラルの町に来た理由も含めて説明することにした。


「お前ってよくよくレアイベントに遭遇するのな」


「レアって、条件さえ満たせば誰でもできるはずだけど…………」


カウンターを挟んで座ったボラーがため息を吐きながら呟くが、そんなため息をつくようなことだろうか?


「そうだな、誰でも条件を満たせばそりゃイベントを見ることはできるだろうさ。けどな、お前の遭遇してるイベントの条件はどれも厳しいんだよ。こんなログアウト可能な状態ならそりゃみんなでイベント探しだって検証したりするだろうけどな、この状況下でそんなことしてる余裕のある奴なんてほとんどいやしないさ。

だってのにお前は検証もなにもせず、偶然条件を満たし、偶然イベントの場を訪れた。

お前一体いくつイベント起こしてるよ?カーヴァンクルのテイム、称号【森の人】に【森の民】。おまけに転生イベント。事前に情報つかんで狙ってやったって言われた方がよっぽど納得いくわ」


「事前にって、そんなことしてないけど」


「わかってるよ、その方がよっぽど納得いくってだけだ。やっかみみたいなもんだほっとけ。

それで、お前が森で集めてきた素材っての見せてみろ」


ボラーの言葉に釈然としない物を感じながら言われたとおりにアイテムストレージを開いて素材を取り出す。


フォレストワスプから穫れる【森蜂の甲殻】に同じく【森蜂の毒針】【森蜂の薄羽】【森蜂の顎】【森蜂の頭】。マンイートスパイダーから穫れる【蜘蛛糸】に【人喰蜘蛛の甲殻】【人喰蜘蛛の牙】。ソルジャーアントから穫れる【兵隊蟻の牙】


他に友好度を上げたことで貰うことのできた物でヴォーパルベアから【赤毛熊の毛】、ガーディアンジャガーの【守護者の毛】、トレントの【樹人の枝】、七色鳥の【虹色の尾羽】、フォレストウルフの【森狼の牙】【森狼の毛】


後はジャラクロゥ草原で手に入れたフライングセンチピートの牙と甲羅、ロンリーウルフの【孤独狼の大毛皮】【孤独狼の大牙】、スタンボアの【猪突猪の牙】


「よくもまぁこんな集めたもんだよ、鑑定するからちょっと待ってろ。」


呆れ顔で素材に手を伸ばすのを見て僕は席を立った。


「ん、僕ちょっと町を見て回ってくるからお願いね」


「あいよ、迷子になるなよ」


「ならないよ!」



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