Episode8 レオの忠誠
街から戻った私は、まっすぐカイルの部屋へ向かった。
カイルはまだ出かけていて、部屋にはレオだけがいた。
「ちょっと、部屋を調べさせてもらうね」
「えっ」
レオが、さっと扉の前に立ちふさがった。
「お、お嬢様、若様のお部屋を勝手に調べるなんて……っ」
「レオ」
私は、懐から似顔絵を取り出した。
「街で聞いてきたの。——カイルが、リイナさんのお宅に食材を運んでたって。お付きの少年と一緒に、何度もね」
レオの顔が、さっと青くなった。
「そのお付きの少年って、あなたでしょ」
「……っ」
「手伝ってたのは怒らない。でも、隠し事はもう無理だよ」
レオは、唇を噛んでうつむいた。
「……食材のことは、はい。お手伝いしました。でも、ぼ、僕は、それ以外のことは、本当に何も……っ」
それ以外のこと。
その言い方で、わかった。
レオも、薄々勘づいているのだ。カイルが、食材以上の何かをやらかしたかもしれない、と。
「大丈夫。ちょっと確かめたいだけだから」
私は部屋に入って、ぐるりと見回した。
机の上、ベッドの下、衣装棚。普段使う場所には、特に変わったものはない。
ふと衣装棚の上の収納ケースに目が留まった。
古着を入れておく、大きな木箱だ。
「あれ、何が入ってるの?」
「え、それは……サイズが合わなくなった、昔のお洋服を……普段は、開けません」
普段は開けない。
レオが普段触らない場所。
「レオ、あれ下ろしてくれる?」
「え……は、はい」
レオは渋々といった様子で、衣装棚の上から収納ケースを下ろした。
私が蓋に手をかけたとき、肩の上のフィンがふと鼻を鳴らした。
「……あ。ここ、あの盗まれた首飾りと同じ匂いがする」
「匂い?」
「うん。あの首飾りと、同じ変な気配の匂い。ちょっとだけ残ってる」
蓋を開けると、たたまれた古着の一番上に、不自然に押し込まれた服があった。
引っ張り出すと——土で、汚れていた。
乾いた泥が、袖や裾にこびりついている。
明らかに、最近、土を掘った人間の服だった。
フィンの言う「匂い」が本当なら、この箱には一度、あの首飾りが入れられていたのかもしれない。
「……これ、カイルの外出着だよね」
「は、はい……でも、なんでこんなに汚れて……お屋敷の外では、いつもきちんとした身なりでいらっしゃるので……」
レオは、困惑した様子で首をかしげた。
土で汚れた理由に、心当たりがないらしい。
私は、汚れた服をそっとたたみ直した。
「レオ、ありがとう。もう大丈夫」
「あ、あの、若様は、何か……」
「まだ、わからない。だから、本人に聞くの」
レオの顔が、また少し曇った。
「カイルが戻ったらすぐに教えて」
「……かしこまりました」
その声には、まだ迷いが残っていた。
主への忠誠と、この状況への不安と。板挟みになっているのがわかった。
*
カイルが戻ってきたのは、日が沈みきる少し前だった。
レオからの知らせを受けて、私は自分の部屋にカイルを呼び出した。
扉を開けたカイルは、私の顔を見た瞬間、あからさまに身を強張らせた。
「……エラ姉様、あの」
「座って」
「え、あの」
「座って、カイル」
有無を言わさぬ声だったのだろう。カイルは、諦めたように椅子に腰かけた。
私は、机の上に二つのものを置いた。
首飾りと、土で汚れた服。
カイルの顔から、みるみる血の気が引いていった




