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転生令嬢は今日も推理する  作者: 深見きくり


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Episode3 聞き込み①



事件を解決するには、関係者への聞き込みが基本だ。


私は屋敷の中を回ることにした。


まずセレナお姉様の部屋を訪ねると、ソフィが髪を整えているところだった。


「エラリー、ごめんなさい、ちょっと急いでて」


「少しだけ。昨日の夜、何か気づいたことある?」


「んー、特に何も。ずっと部屋にいたから。

 首飾り?またお父様がお母様に何か贈ったのでしょう? 

 本当に仲がいいんだから。

 最近応接間に行ってないから、まだ見てなかったのよね。

 今日はクラウス様がいらっしゃるから、久しぶりに応接間を使うことになるわね。お忙しかったから、なかなか時間が取れなかったのよ」


ふふ、と小さく笑って、少し考えるように首をかしげた。


「あら、その眼鏡どうしたの。よく見たらレンズも入ってないじゃない」


「探偵活動用!」


「……エラリー、私たち一応貴族の令嬢なんだけど」


「わかってる」


「その髪も……マリアにきちんと整えてもらいなさいよ。

 クラウス様のお知り合いにでも見られたら困るわ」


「捜査中だから!」


「相変わらずなんだから……。

ソフィ、あなたも昨日の夜、何か気づいたことあった?」


「私はセレナお嬢様のお部屋におりましたので、特に気になったことは……」


「そうよねえ、ソフィは寝るまでは私と一緒だったわ」


「うん、ありがとう」


「じゃあまたあとでね。

 ソフィ、クラウス様そろそろお見えかしら」


「そろそろかと存じます」


「じゃあエラリー、またあとでね!」


セレナはひらひらと手を振って出ていった。


……侯爵嫡男にべた惚れされて婚約者となり、次期侯爵夫人となるお姉様。人生イージーモードすぎる。




次にお母様の部屋へ向かった。


エヴェリンお母様はテレサと一緒に刺繍をしていた。


私の顔を見て、ふんわり微笑んだ。


「あら、エラリー。首飾りのこと調べてるの?」


「……なんでわかったんですか」


「そういう顔をしてるから」


テレサが静かにお茶を注いだ。


「お母様、最後に首飾りをご覧になったのはいつですか」


「首飾り?」母は、刺繍の手を止めずに、のんびりと笑った。

「昨夜よ。夕餉の前だったかしら

 ロベルト様のお部屋から鍵を取って、飾り棚を開けたの」


「——お父様のお部屋から、ですか」


エラリーが、ぽつりと呟いた。母はそれに気づいているのかいないのか、にこにこと続ける。


「ロベルト様が、わたくしに似合うだろうって買ってくださったのよね。嬉しくて、つい見に行っちゃって」


また言ってる、とエラリーは思った。最近会うたびに、お母様はこの話をしている。

母は、ほんのりと頬を染めて、少女のように目を伏せた。


「お母様」エラリーは静かに割り込んだ。

「鍵は、かけましたか」


お母様の刺繍の針がふと止まる。


「ええ、もちろん。鍵束も戻したし——」


母が、ぱちりと瞬いて、少し遠くを見た。憂いを帯びた横顔が、娘の私から見ても息を呑むほど美しかった。


「わたくしが見た時には、確かにあったの。それは、間違いないわ」


「昨夜、何かお気づきのことはありましたか」


「そうねえ……」母はしばらく考えるように首を傾けた。


「夜中に、廊下で物音がした気がして。でも風かしら、と思って」


「何時頃ですか」


「2時すぎかしら。気のせいかもしれないけど」


私はメモを取った。


「ありがとうございます」


「エラリー」


「はい」


お母様がふんわり笑ったまま言った。


「見つけられるといいわね」


……あんなに喜んで惚気ていた首飾りがなくなったというのに、このお母様はなぜこんなに穏やかなのだろう。


我が家の一大事だというのに、まるで他人事である。


天然なのか、内心どう思っているのか、いつもよくわからない。




次にお父様の書斎を訪ねた。


父が私を見た。一度視線を手元に落として、また顔を上げた。


「……その眼鏡は何だ」


「探偵活動用です」


「……レンズが入ってないぞ」


「気合いが入るんです」


「…………そうか」


父は一瞬何か言いかけて、やめた。


「昨日の夜、何か気づいたことはありましたか?」


「特には。この書斎にいたからな。……首飾りのことは、セバスチャンから聞いた。内々に調べさせている」


そうか、セバスチャンも動いているのか。私は少し考えた。なら、あまり時間をかけてもいられない。


「ああ、でも昨日の夕餉のあとはカイルが手伝ってくれてな。書類の整理を少し」


 「何時頃までですか?」


 「カイルは21時頃だったか。あくびをしておったから、先に休むよう言った」


 「その後は?」


 「わし一人で書斎に残っておった。23時頃まで仕事をして、それから寝室に下がった」


「飾り棚の首飾り、最後にご覧になったのはいつですか?」


「……買ってきた日だな。エヴェリンに見せて、棚に入れたきりだ」


父は少し優しげに目を細めた。ペンを止めたまま、しばらく動かなかった。


これはお母様のことを思い出してるな。……いつもながら、仲がよろしいことで。


私はメモを取った。


「お忙しいところすみませんでした」


「ああ」


父はようやく視線を書類に戻した。




次に弟のカイルの部屋を訪ねた。


中ではレオが一人で掃除をしていた。


「カイルは?」


「旦那様のお手伝いに行かれると伺っております」


「お父様なら今書斎にいたけど。レオも連れずに出かけるなんて珍しいわね」


レオは少し視線を逸らした。


「……そうですね」


それだけ言って、レオは掃除を再開した。


私はメモを取る。


カイルが、いない。


レオも連れずに出かけるなんてめったにない。お父様のお手伝いって何か届け物とか?どこへ行ったんだろう。

後でカイルに会ったら聞いてみよう。


「そうだ、レオ。昨日の夜、何か気づいたことはある?」


レオが、ぴたりと手を止めた。少しの間があった。


「……特には」


「そう」


レオがまた掃除を再開するのを見て、私は部屋を出た。



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