Episode31 思わぬ協力者
急いで屋敷に戻ると、バルナバスは、セバスチャンに任せて、別室で、身なりを整えてもらうことにした。
応接間に向かうと、既に、ローウェンが、待っていた。
「お待たせして、申し訳ありません」
母様が、そう言って、席に着く。
「いえ、こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます」
ローウェンが、穏やかに、微笑んだ。
紫の瞳が、こちらへ向けられる。
……あの、線の細い、病弱な青年の面影は、今は、ほとんど、感じられなかった。
化粧のせいなのか、纏う空気のせいなのか。
目の前にいるのは、如才ない大人の商人、ローウェンだった。
「――あ、今日は、ユリウェンの方だね」
肩の上で、フィンが、ぽつりと、そう零した。
……見えていないとはいえ、余計な茶々を入れてくる。
テーブルの上には、いくつもの宝飾品が、並べられていた。
「本日は、エラリー様に、お似合いになりそうな品を、いくつか、見繕ってまいりました」
ローウェンが、そう言うと、母様の目が、輝いた。
「早速なのですが、こちらなど、エラリー様の瞳のお色にも、よく映えると思うのですが、いかがでしょうか」
琥珀色の石があしらわれた耳飾りを、そっと差し出す。
「参考までに、ドレスの色を、お伺いしても?」
「――深緑です」
少し戸惑いながら、そう答える。
「なるほど。それでしたら、この石の色味なら、きっと、馴染むかと存じます」
「あら、素敵ね」
母様が、嬉しそうに、そう相槌を打った。
ローウェンは、次に、細い首飾りを手に取ると、こちらへ、歩み寄ってきた。
「失礼」
断りを入れると、後ろに回り込み、髪を、そっと、片方の肩に流した。
うなじの辺りで、留め具を、留める。
指先が、肌に、かすかに触れた。
……この間、屋敷で会った時とは、まるで別人みたいだ。
……妙に意識してしまって、心臓がうるさい。
「よくお似合いです」
顔を覗き込むようにして、そう言う。
距離の近さに、思わず、頬が熱くなった。
「こ、これにいたします」
平静を装う余裕もなく、思わず、そう即答した。
「あら、もう少し、他のものも見てからでも……」
母様が、少し、意外そうな顔をした。
「い、いえ。とても、気に入りましたので」
「まあ、そう? ……確かに、素敵なものだものね」
納得したように、そう頷く。
決まってしまえば、あとは、お開きのはず――
と思ったのもつかの間、
「早く終わりましたし、お茶でも、ご一緒にいかがですか」
母様の提案で、しばしお茶の時間になってしまった。
湯気の立つカップを前に、そわそわと、落ち着かなかった。
早く、バルナバスの話を、聞きたい。
でも、マナや涸れ病のことなんて、自分には、分からない。
そういえば――
ふと、目の前の人物に、思い至った。
……そういえば、この人は博識だとリゼット様から聞いた。
「あの、ローウェンさん」
「はい」
「リゼット様から、随分と博識な方だと、伺っておりますの」
少し、探りを入れるように、そう切り出す。
「マナというものを、ご存知でしょうか」
ローウェンの手が、ピタリと止まった。
「――どこで、その言葉を」
紫の瞳が、わずかに細められる。
「……詳しく、お聞かせください」
……やっぱり、何か知っているんだ。
「今日、行き倒れていた方を、お助けしたのですが……、マナというものに、関わりのあるお仕事をなさっているようで」
言葉を選びながら、続ける。
「その方に、少し、お話を伺いたいと思っておりまして……マナというものには、わたくし、あまり詳しくないもので。よろしければ、その方に、お話を伺う際、お力添えいただけませんでしょうか」
「本の知識であれば、多少は存じております」
ローウェンが、そう答えた。その目に、興味の色が、浮かんでいる。
「よろしければ、わたくしも是非、その方に、お話を伺いたいです」
穏やかな笑みは崩さないまま、でも、声には、隠しきれない弾みがあった。




