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転生令嬢は今日も推理する  作者: 深見きくり


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Episode27 新しい目

※今回は、エラリー視点から始まり、途中で別の人物の視点に切り替わります。慣れない構成で読みづらいかもしれませんが、お付き合いいただけますと幸いです。



数日後、自室でフィンと一緒にお茶を飲んでいた時のことだった。

カップを置いて、勢いよく立ちあがると


「よし。今から、お父様にお願いしに行くわよ」


と宣言した。

フィンが、不思議そうに首を傾げた。


「何、藪から棒に」


「やっておかなきゃいけないことが二つあるんだけど、まずは、その一つね」


「絶対、また、変なことでしょ」


「失礼ね」


そう言いつつも、内心では少し緊張していた。


上手く、お父様を説得できるだろうか。




************************




呼び出しを受けたのは、突然のことだった。

ガレス様が捕まってからというもの、お屋敷の暮らし向きは、目に見えて厳しくなっていった。

使用人の数も、次々と減らされていった。

ネイトも、その一人だった。


ベルナード子爵家から、使いの者が来た時、心臓が止まるかと思った。

……何か、罪に問われるのだろうか。

自分はガレス様に付いて、色々とお世話もしていた身だ。


もし何か責任を問われるようなことがあれば。

震える足で屋敷の門をくぐる。

同じ子爵家のはずなのに、目の前に広がる光景は、まるで別世界だった。


手入れの行き届いた庭、磨き上げられた石畳。

見上げるほど大きな屋敷は、ガレス様のお屋敷の、優に三倍はありそうだった。

エントランスに飾られた調度品も、一目で、値の張るものだと分かる。


……天と地ほどの、差がある。


出迎えたのは、白髪の老執事だった。

一分の隙もない立ち姿、皺の一つ一つにまで、長年の風格が滲んでいる。


「よくいらっしゃいました。旦那様が、応接間でお待ちです」


物腰は丁寧だったが、それが、余計に落ち着かなかった。

案内された応接間には、ベルナード子爵が、静かに座っていた。


「よく来てくれた」


穏やかな声だったが、それが余計に、恐ろしく感じられた。


……いよいよ、覚悟を決めなければ。

そう思った、その時。


「単刀直入に言おう。うちで、働いてみないか」


「……え?」


思わず、間の抜けた声が出た。

……もしかしたら、職を失ったことを、気の毒に思ってくださったのかもしれない。

そう思うと、少しだけ、肩の力が抜けた。


「娘から、聞いている。君は、なかなかの調査力を持っているそうだな」


「あ……え?――そんな」


(――調査力?)


自分がしていたのは、言いつけられた事と、周辺の噂話を耳に入れていたことくらいで。


(それを、調査と呼ぶのだろうか……?)


「謙遜しなくていい。しかるべき仕事を任せたい」


(謙遜では、ないのだけれど……)


戸惑うネイトの様子に、子爵は、少し、笑った。


「もちろん、無理にとは言わない。だが、悪い話ではないと思うが」


「あの……なぜ、わたくしなんかを」


やっとの思いで、そう尋ねる。


「娘が、お前のことを、随分と買っていてな」


子爵は、静かに、そう答えた。


「地味で目立たないが、よく物事を見ている。それに忠実だと」


……エラリー様が、そんな風に。

思いがけない言葉に、目頭が、熱くなりかけた。

熱くなりかけて、ふと、止まった。


……地味で、目立たない。 


褒めて、いただいたのだろうか。

いや、褒めていただいたのだろう。文脈的には、そのはずだ。

そのはずなのだけれど、なぜだろう、素直に喜べない自分がいた。


「お前は、随分と、色々なことを、聞き知っているようだな」


意味深に、そう続けた。

……なぜ、そんなことを、仰るのだろう。

自分では、特に、何も、意識したことはなかったけれど――

不思議に思いながらも、頷いた。


「ただし」


子爵の声が、一段、低くなった。


「今後は、我が家以外の誰に何を聞かれようとも、調査の内容は、一切口外しないように。それだけは守ってもらう」


その目には、有無を言わせない、鋭さがあった。


「もし、それが破られれば……分かるな?」


静かな声だったが、背筋が、冷えるような迫力があった。


「……肝に、銘じておきます」


震える声で、そう答える。


「よろしく、お願いいたします」


深く頭を下げた。


……よかった。

とりあえず当面、仕事には困らなさそうだ。




************************




「お父様、ありがとうございます」


執務室を出たところで、待っていたフィンに、そう報告する。


「まさか、本当に頷いてくれるとは思わなかったわ」


「あの子爵、変わり者に理解あるよね」


「変わり者?誰のことかしら」


はぐらかすように返事をしながら、内心では、ほっとしていた。

これで、また一つ、頼れる目が増えた。


「さて」


軽く息をつくと、フィンの方を、ちらりと見た。


「これで、一応、準備は整ったわね」


満足げに、そう呟く。


「準備?」


フィンが、不思議そうに首を傾げた。


「これから色々と調べたいことがあるの。……頼れる目は、多い方がいいでしょう?」


にっこりと笑うと、フィンは少し呆れたような顔をした。


「また何か企んでるでしょ」


「さあ、どうかしら」


はぐらかすように、そう答えると窓の外に目をやった。



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