Episode27 新しい目
※今回は、エラリー視点から始まり、途中で別の人物の視点に切り替わります。慣れない構成で読みづらいかもしれませんが、お付き合いいただけますと幸いです。
数日後、自室でフィンと一緒にお茶を飲んでいた時のことだった。
カップを置いて、勢いよく立ちあがると
「よし。今から、お父様にお願いしに行くわよ」
と宣言した。
フィンが、不思議そうに首を傾げた。
「何、藪から棒に」
「やっておかなきゃいけないことが二つあるんだけど、まずは、その一つね」
「絶対、また、変なことでしょ」
「失礼ね」
そう言いつつも、内心では少し緊張していた。
上手く、お父様を説得できるだろうか。
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呼び出しを受けたのは、突然のことだった。
ガレス様が捕まってからというもの、お屋敷の暮らし向きは、目に見えて厳しくなっていった。
使用人の数も、次々と減らされていった。
ネイトも、その一人だった。
ベルナード子爵家から、使いの者が来た時、心臓が止まるかと思った。
……何か、罪に問われるのだろうか。
自分はガレス様に付いて、色々とお世話もしていた身だ。
もし何か責任を問われるようなことがあれば。
震える足で屋敷の門をくぐる。
同じ子爵家のはずなのに、目の前に広がる光景は、まるで別世界だった。
手入れの行き届いた庭、磨き上げられた石畳。
見上げるほど大きな屋敷は、ガレス様のお屋敷の、優に三倍はありそうだった。
エントランスに飾られた調度品も、一目で、値の張るものだと分かる。
……天と地ほどの、差がある。
出迎えたのは、白髪の老執事だった。
一分の隙もない立ち姿、皺の一つ一つにまで、長年の風格が滲んでいる。
「よくいらっしゃいました。旦那様が、応接間でお待ちです」
物腰は丁寧だったが、それが、余計に落ち着かなかった。
案内された応接間には、ベルナード子爵が、静かに座っていた。
「よく来てくれた」
穏やかな声だったが、それが余計に、恐ろしく感じられた。
……いよいよ、覚悟を決めなければ。
そう思った、その時。
「単刀直入に言おう。うちで、働いてみないか」
「……え?」
思わず、間の抜けた声が出た。
……もしかしたら、職を失ったことを、気の毒に思ってくださったのかもしれない。
そう思うと、少しだけ、肩の力が抜けた。
「娘から、聞いている。君は、なかなかの調査力を持っているそうだな」
「あ……え?――そんな」
(――調査力?)
自分がしていたのは、言いつけられた事と、周辺の噂話を耳に入れていたことくらいで。
(それを、調査と呼ぶのだろうか……?)
「謙遜しなくていい。しかるべき仕事を任せたい」
(謙遜では、ないのだけれど……)
戸惑うネイトの様子に、子爵は、少し、笑った。
「もちろん、無理にとは言わない。だが、悪い話ではないと思うが」
「あの……なぜ、わたくしなんかを」
やっとの思いで、そう尋ねる。
「娘が、お前のことを、随分と買っていてな」
子爵は、静かに、そう答えた。
「地味で目立たないが、よく物事を見ている。それに忠実だと」
……エラリー様が、そんな風に。
思いがけない言葉に、目頭が、熱くなりかけた。
熱くなりかけて、ふと、止まった。
……地味で、目立たない。
褒めて、いただいたのだろうか。
いや、褒めていただいたのだろう。文脈的には、そのはずだ。
そのはずなのだけれど、なぜだろう、素直に喜べない自分がいた。
「お前は、随分と、色々なことを、聞き知っているようだな」
意味深に、そう続けた。
……なぜ、そんなことを、仰るのだろう。
自分では、特に、何も、意識したことはなかったけれど――
不思議に思いながらも、頷いた。
「ただし」
子爵の声が、一段、低くなった。
「今後は、我が家以外の誰に何を聞かれようとも、調査の内容は、一切口外しないように。それだけは守ってもらう」
その目には、有無を言わせない、鋭さがあった。
「もし、それが破られれば……分かるな?」
静かな声だったが、背筋が、冷えるような迫力があった。
「……肝に、銘じておきます」
震える声で、そう答える。
「よろしく、お願いいたします」
深く頭を下げた。
……よかった。
とりあえず当面、仕事には困らなさそうだ。
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「お父様、ありがとうございます」
執務室を出たところで、待っていたフィンに、そう報告する。
「まさか、本当に頷いてくれるとは思わなかったわ」
「あの子爵、変わり者に理解あるよね」
「変わり者?誰のことかしら」
はぐらかすように返事をしながら、内心では、ほっとしていた。
これで、また一つ、頼れる目が増えた。
「さて」
軽く息をつくと、フィンの方を、ちらりと見た。
「これで、一応、準備は整ったわね」
満足げに、そう呟く。
「準備?」
フィンが、不思議そうに首を傾げた。
「これから色々と調べたいことがあるの。……頼れる目は、多い方がいいでしょう?」
にっこりと笑うと、フィンは少し呆れたような顔をした。
「また何か企んでるでしょ」
「さあ、どうかしら」
はぐらかすように、そう答えると窓の外に目をやった。




