Episode26 それぞれの結末
詰所に着くと、ガレスは別室へと連行されていった。
被害者として、リゼット嬢と私も事情を聞かれた。
一つ一つの質問に、丁寧に答えていく。
同じことを何度も聞かれるうちに、薄暗かった外はすっかり、深い闇に包まれていた。
「大丈夫ですか」
まだ震えの残る肩に、そっと手を添える。
「……エリーゼが」
リゼット嬢はぽつりと、そう呟いた。
震える手で、包んだエリーゼを大事そうに抱えている。
しばらくして、事情聴取を終えたルシアン様が部屋に戻ってきた。
「ガレスは、身柄を拘束した。詳しい取り調べはこれから進める」
淡々と、そう報告する。
「今回は、現行犯だ。二人のご令嬢に暴力を働こうとした。証拠も証言も揃っている」
少し、間を置いてから、続けた。
「これまでの贈り物の件については、自白させる形になるだろう。物的な証拠は薄いが……日頃の素行の悪さもある。厳しく、処罰されるはずだ」
その言葉に、少し安堵する。
それから、いつもとは違う、険しい顔をした。
「それよりエラリー嬢。あんな無茶をして……もし、俺が間に合わなかったら、どうするつもりだったんだ」
咎めるように、そう続けた。
「……申し訳ありませんでした」
小さく、頭を下げる。
「今度からは、絶対に一人で突っ走らないでくれ」
念を押すように、そう言った。
「リゼット嬢は、このまま公爵家にお送りする」
「うちの馬車も来てますし、わたくしがお送りします」
思わずそう申し出ていた。
まだ震えているリゼット嬢を、一人にはしておけない。
そんな思いから、口をついて出ていた。
ルシアン様は、少し考えるように間を置いた。
「……分かった。頼めるか」
「はい」
「……お願いいたします」
リゼット嬢が、力なく、そう答えた。
公爵家の門をくぐると、出てきたのはオーレリア様だった。
「あら、リゼット」
娘の憔悴した様子を見ても、その表情は驚くほど変わらなかった。
「今度は何なの。……本当に、面倒だこと」
小さくそうため息をついた。
興味なさそうにそう零すだけで、娘の様子を詳しく尋ねようともしなかった。
「ガレス様に、エリーゼを壊されて」
リゼット嬢が、震える声でそう答える。
「人形ね」
オーレリア様は、小さく鼻で笑った。
「淑女らしくないと、前々から思っていたのよ。ちょうど、良かったわ」
あっさりと、そう言い放った。
その一言に、リゼット嬢の表情が凍りついた。
……この人は本当に、娘のことを何も見ていない。
そう確信してしまう。
「オーレリア様」
思わずそう切り出していた。
「今日、リゼット様は大変な目に遭われました。……もう少しだけ労って差し上げてはいただけませんでしょうか」
できる限り丁寧にそう申し上げる。
オーレリア様は、少し意外そうな顔をした。
「あら……そう、ね」
そう言うと、ふい、と視線を逸らした。
それ以上、何も言おうとはしなかった。
肩の上でフィンが小さくそう呟いた。
「よく言った」
隣で、リゼット嬢が、驚いたように、こちらを見ていた。
そっと、その肩に手を添える。
大丈夫、というように、目でそう伝えた。
リゼット嬢は、包んだエリーゼを、そっと胸に抱き寄せた。
その目には、まだ涙が滲んでいた。
屋敷に戻ると、お姉様の部屋を訪ねた。
「お姉様、少しお話が」
「エラリー? どうしたの、そんな顔して」
心配そうに、そう尋ねてくる。
順を追って、これまでのことを話し始めた。
クラウス様が、お姉様を守るために、あえてリゼット嬢の相手をしていたこと。
リゼット嬢のストーカー行為のこと。
でも、動物アレルギーがあって、死骸の件とは無関係だったこと。
そして真犯人が、ガレスだったこと。
お姉様は次第に目を見開いていった。
「そんなことが、あったなんて……」
呆然とそう呟く。
「クラウス様は、わたくしを守ろうとしてくれていたのね」
その声には、安堵と、少しの後悔が滲んでいた。
「リゼットさんも……」
少し、言葉を詰まらせた。
「ナイフを突きつけられて……本当に、怖い思いをされたでしょうに」
痛ましそうに、そう零した。
それから、ふと表情を強張らせた。
「エラリー」
真剣な声で、そう呼びかける。
「ナイフを持った相手に、たった一人で立ち向かうなんて……何を考えていたの」
声が微かに震えていた。
「もし、あなたに何かあったら……わたくし、どうすればいいか、分からないわ」
強くそう言い切ると、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「二度と、無茶なことは、しないで」
その温もりに、思わず目頭が熱くなる。
「……ごめんなさい、お姉様」
小さくそう謝ると、お姉様の背中にそっと腕を回した。
「心配かけて」
後日、ガレスの処分が下ったと、知らせが届いた。
子爵家から籍を抜かれ、遠方の鉱山で数年間の労役に服すという。
貴族としての地位も後ろ盾もすべて失った。




