Episode24 新たな証言
案内された庭園の東屋には、三人の令嬢が座っていた。
「ランドール様のことで、少しお伺いしたいのですが」
ルシアン様が、そう切り出す。
「ああ……以前も来られた時にお話した噂の件ですか」
一人の令嬢が、扇で口元を隠しながら、そう答えた。
「リゼットさんのこと、本当に迷惑してらっしゃいましたもの。ねえ?」
同意を求めるように、隣の令嬢に視線を送る。
「ええ、そうですわ。あんなにしつこくされて、お可哀想で」
もう一人が、すぐにそう続けた。
「本当、あの方って、猫を被るのが上手なだけで。裏では随分酷いことをしているらしいですわよ」
三人の中で一番端に座っていた令嬢が、勢いよく、そう続けた。
「わたくしが聞いた話では――婚約者のいらっしゃる方にまで、平気で言い寄っているとか」
少し声を潜めて、そう続ける。
「それに殿方を虜にするために、怪しいお薬を使っているとかいう噂まで」
妙に、生き生きとした口ぶりだった。
……そういう噂があるとは、耳にしていたけれど。
これまで話を聞いた方々からは、誰からも、そんな話、出てこなかったわね。
「詳しいんですね。……まるで直接見てこられたみたいで」
思わず、そう尋ねてみる。
「そ、それは……皆さんが、そう仰ってますし」
一瞬、言葉に詰まったが、すぐにそう取り繕った。
必死に、笑みを貼り付けているのが分かった。
「わたくしたち、ランドール様には、誰も抜け駆けしないって、決めておりますの。皆で足並み揃えて、応援するって約束しておりますのよ」
別の令嬢が得意げにそう続けた。
「ねえ?」
同意を求めるように、視線を巡らせる。
その瞬間、リゼットの噂を語っていた令嬢の表情だけが、微かに強張った。
「……そ、そうですわね」
さっきまでの勢いが嘘のように、声が上ずっていた。
隣で、ルシアン様が、微かに頬を引きつらせているのが見えた。
……これは、これで、なかなか怖い世界だ。
一通り話を聞き終える頃には、日も傾き始めていた。
ルシアン様に、屋敷の玄関先まで送ってもらう。
「今日は、ここまでにしよう。詰所に戻って、報告をまとめておく」
「ありがとうございました」
そう言って見送ると、ルシアン様は、詰所の方へと去っていった。
……そういえば。
ずっと、贈り物の贈り主をリゼット嬢だと思い込んでいたから、思いつきもしなかった。
うちの使用人にも、何か見ていた人がいるかもしれない。
厨房に向かい、洗い物をしていたココに、声をかける。
「二回目の贈り物が届いた時のこと、何か覚えていることはある?」
「二回目の……ですか?」
ココは、手を止めて、少し考え込むような顔をした。
「そういえば……」
思い出すように、そう切り出した。
「買い出しから戻る途中、門の手前で、男の方とすれ違ったんです。それで屋敷に戻ったら、玄関先に荷物が置かれてて……たぶん、あの方だったんじゃないかなって」
「その方、どんな様子でしたか?」
「顔立ちは甘い感じというか、結構整ってらしたんですけど……顎が特徴的で……割れていたんです」
真面目な顔で、そう言い切った。
「なんとなく印象に残っています」
顎が特徴的に割れている――
……ケツアゴ。
思わず、心の中で、そう繰り返してしまう。
肩の上で、フィンが、噴き出しそうになっているのが分かった。
「ケツアゴ……」
もう一度、口の中で繰り返す。
……あれ、もしかして。
「ガレス様だ」
思わず声が出た。
初めて対面した時の、あの特徴的な顎を思い出す。
間違いない。
「マリア、行きましょう」
マリアを連れて、急いで馬車の手配をする。
ガレス邸に着くと、出迎えたのは、以前対面した時にも見た、あの気弱そうな使用人だった。
「ガレス様は、ご在宅でしょうか」
「あ……あいにく、外出しておりまして」
おどおどした様子で、そう答えた。
「では、少し、お話を伺えますか」
マリアと顔を見合わせてから、そう切り出した。
「あ……何を?」
おどおどした様子で、そう返す。
「以前お伺いした際にガレス様は『未練がおありなんでしょうね』と、仰っていましたよね」
「あ……えぇ」
思い出したように、頷いた。
「それについて、もう少し詳しく聞かせていただけますか」
「未練というのは……その、ガレス様にアステールさんの周りのことを、それとなく調べておくように、と言われまして。あ、アステールさんはリゼット様が、ガレス様から鞍替えなさったお相手なんですけど――」
「それは、いつ頃から?」
「フェリシア様との婚約破棄の話が出た、少し後くらいからだったと思います」
「なぜ、そんなことを言いつけられたと思いますか?」
「それは……」
少し、言葉を選ぶように間を置いた。
「ガレス様、ご自分では、もう吹っ切れたと仰ってるんです。でも、そこまで気にされるなんて。……まだ未練がおありなんだろうな、と感じておりました」
至って真面目な顔で、そう答えた。
……この人、本気でそう信じ切っている。
マリアと、思わず顔を見合わせる。
「アステールさん以外にも、誰かのことを調べるように言われたことは?」
「そういえば……ランドール様や、クラウス様のことも、少し前に同じように調べさせられました」
「具体的には、どんなことを調べたんですか?」
「その方が、どこに出かけているかとか、どなたと会っているかとか……。あとは、婚約者の方が、どんな方かも、聞かれたことがあります。ランドール様には特定な方はいらっしゃいませんでしたが」
「その後も、何か言いつけられましたか」
思わず、そう尋ねてみる。
「あ……はい。今日は少し様子が変で――。リゼット様が今どちらにいらっしゃるか、調べるようにと」
「それで?」
「調べてお伝えしたら……そのまま、飛び出していかれました」
「どちらに向かわれたか、分かりますか?」
「たしか……アッシュフォード伯爵家の方に向かわれたと思います」
不安そうに、そう続けた。
「もしかして……今度こそ、想いを伝えるおつもりなんでしょうか」
……まずい。
背筋に、冷たいものが走った。
「マリア、ルシアン様に、このことを伝えてきて」
「エラリー様を、お一人にはできません!」
「お願い。……あなたじゃないとダメなの!」
真っ直ぐ、マリアを見つめる。
「今の話、ちゃんと説明できるのは、マリアだけだから」
「……っ」
マリアが、唇を噛んだ。
「絶対に無茶はしないでください」
「約束する」
そう言い切ると、マリアは、意を決したように、駆け出していった。




