閑話 愛を知らないという罪
物心ついたときから、わたくしは「間違い」なのだと教えられていた。
お父様とお母様は、いつだって仲が悪かった。
わたくしのせいだ、とお父様は冷たく吐き捨てた。
お母様は産後の体調が思わしくなく、回復に随分と時間がかかったらしい。
お父様は、そんなお母様を、疎ましそうに見ていた。
お祖母様――お父様のお母様は、事あるごとに、お母様を責め立てた。
「跡継ぎの男児も産めずに、何をしているの」
そんな言葉を幼いリゼットも、何度も耳にした。
お父様とお祖母様の当たりの強さに、お母様は次第に心を閉ざしていった。
そしてその矛先は、いつしかリゼット自身に向くようになった。
……女として生まれた、わたくしのせいなのかもしれない。
そう、思うようになったのは、いつからだったのだろう。
育ててくれたのは、乳母だった。
優しい人だった。
でも七歳になった年、乳母は屋敷を去ることになった。
理由は、教えてもらえなかった。
それからは、家庭教師がついた。
最低限の礼儀作法と学問だけを教えてくれる人だった。
……お母様に認めてもらいたい。
そう思って勉強は人一倍頑張った。
それなりに物覚えは良い方だった。
ただ、お母様はわたくしに興味を抱くことすらないままだった。
五歳の頃、一度だけお母様がプレゼントをくれたことがあった。
「これ、あげるわ」
そう言って渡されたのは、一体の人形だった。
……本当は誰かから貰ったものを、そのまま渡しただけだったらしい。
でもそんなことはどうでもよかった。
これは、お母様からの贈り物。
そう思うだけで、胸が温かくなった。
「エリーゼ」
そう名付けた。
それから片時も離さなかった。
寂しい夜も、エリーゼがいれば耐えられた。
「エリーゼ、今日はお庭のお花を見てきたの」
誰も聞いていない部屋の中で、エリーゼにそう話しかける。
「あら、素敵ね」
エリーゼが、そう答えてくれる。
いつしかエリーゼは、リゼットにとって、たった一人の味方になっていた。
従兄弟の存在を知ったのは、いつだったか。
アッシュフォード家に、体の弱い従兄弟がいる。
そう聞いて、居ても立っても居られなくなった。
侍女を連れて、押しかけるように会いに行った。
「ユリ」
そう呼ぶと線の細い儚げな少年が、静かに微笑んだ。
さらさらとした銀色の髪に、紫水晶を思わせる、透き通った瞳。
顔立ちは美しいのに、どこか作り物めいて見えるほど血の気が薄い。
体は細く、同じ年頃の子供たちに比べても、随分と小柄だった。
本当に体が弱そうだった。
話してみると、ユリの境遇もリゼットとどこか似ていた。
母親を早くに亡くし、父親は病弱な息子に興味を示さない。
……この人も、わたくしと同じ。
そう思うと、放っておけなくなった。
「わたくしが、色々構ってあげますわ」
そう告げると、ユリは困ったように笑った。
それからリゼットは、時間を見つけてはユリのもとへ通うようになった。
……この人には、わたくしが必要だ。
会いにきてあげて、構ってあげて――そうすることで、初めて、自分の存在を、認められているような気がした。
両親にも見向きもされない、わたくしが。
誰かに必要とされる存在になっている気がした。




