Episode20 二度目の贈り物
「お母様、少しお伺いしたいことが」
「あ、その前にいいかしら」
お母様は、エラリーの言葉を遮るように、そう切り出した。
「セレナに届いた、あの贈り物のこと、聞いているの?」
「はい、セバスチャンから」
「セレナには、用事以外での外出は控えるように伝えたのだけど、あなたも念のために注意してね」
「――はい」
「猫ちゃんも可哀想だけれど……最近、物騒なこと続くから、護衛なしで出かけないように、気をつけてね」
心配そうに、そう釘を刺された。
「マリアがいますから、大丈夫です」
「そう、マリアが付いてくれるなら少しは安心ね」
エヴェリンは、ほっとしたように微笑んだ。
「それで、突然で恐縮なんですけど……アッシュフォード伯爵家と、エルドリッジ公爵家に、何か伝手はありませんか?」
「――アッシュフォード伯爵家の方々はあまりお会いする機会はないのだけど、エルドリッジ公爵家のオーレリア様となら、よくお茶会でお会いするわね。もちろん、子爵家のわたくしから、お誘いすることはできないけれど」
「そうなんですね」
「次のマグダレーナ様のお茶会に、いらっしゃると思うわ」
「本当ですか?」
「ええ。そういえば思い出したのだけれど、オーレリア様の妹君が、アッシュフォード家に嫁がれたのだったわ。フィオレリア様とおっしゃって」
「妹君……」
ではアッシュフォード伯爵家にリゼット嬢が出入りしていたというのは親戚間なら普通なのかしら……
「ただ、フィオレリア様は10年以上前にもうお亡くなりになっていてね。今は、男性ばかりのお家だから、あまり社交の場でお付き合いすることもなくて」
少し寂しそうに、エヴェリンは続けた。
「ありがとうございます、お母様」
……これで、少しは糸口が掴めるかもしれない。
ちょうどマグダレーナ様から、一週間後のお茶会の招待状が届いているそうなので、私も連れて行ってもらうことにした。
これで、オーレリア様と話せる機会が、思ったより早く巡ってきたことになる。
その数日後――
クラウス様が、大きな花束を抱えて、屋敷を訪ねてきた。
「セレナ、この度は、本当にすまなかった」
深々と頭を下げるクラウス様に、セレナお姉様は、しばらく、つんとそっぽを向いていた。
「……謝って済む話ではありませんわ」
「分かってる。だから、これを」
差し出されたのは、花束だけでなく、小さな箱に入った、繊細な意匠のイヤリングだった。
「セレナに、似合うと思って」
「そんなもので、機嫌が直ると思ったら……」
そう言いながらも、セレナお姉様の頬は、すでに緩み始めていた。
「セレナ、本当に、すまなかった。もう二度と、こんな思いはさせない」
クラウス様が、真っ直ぐな目で、そう告げる。
「クラウス様……」
「セレナがいない毎日なんて、考えられないんだ」
「もう……そんな風に言われたら、怒れないじゃないですか」
頬を赤らめながら、セレナお姉様は、そっと目を伏せた。
気づけば、二人の間には、私たちの入り込む余地なんて、どこにもなさそうだった。
……私は何を見せられているのかしら
先日までの、あの憔悴ぶりは、一体何だったのか。
横で見ていたフィンが、うんざりしたように呟く。
「あー、砂糖吐きそう」
「同感」
和解ムードが一段落したところで、私は、クラウス様に声をかけた。
「クラウス様、お願いしていた件、あれから何か進展はありましたか?」
「ああ、アッシュフォード伯爵家のことか」
クラウス様は、少し困ったような顔をした。
「実は、手紙を送ってみたんだが……まだ、返事がなくてね」
「そうですか……」
「もう少し、待ってみてくれないか」
「分かりました」
……アッシュフォード家からは、応答なし。
お母様に聞いて親戚の家ということもわかった以上、危険な繋がりではないのかもしれない。
……とはいえ、念のため、もう少し確認だけはしておきたいところね。
クラウス様には引き続き連絡をお願いした。
そんな日々が続く中――
また事件が起きた。
お茶会前日、屋敷に、二度目の贈り物が届いた。
今度は、犬の死骸だった。
セバスチャンが確認して処分した後に聞いたので「死骸だったらしい」ということしかわからないけど。
犬の死骸が届いたその日、お屋敷の空気は、すっかり張り詰めていた。
……ネズミや、蛇。そして、猫。
届く動物が、だんだん大きくなっている。
単なる嫌がらせにしては、悪意の込め方が、明らかに変わってきている気がした。
肩の上で、フィンが、珍しく低い声で呟いた。
「……悪趣味にもほどがある」
いつもの軽口とは違う、剥き出しの怒りが滲んでいた。
「エラリー、もう分かっていると思うが」
お父様が、珍しく厳しい顔で、そう切り出した。
「しばらくは、私たちが許可した場所以外への外出は、控えてくれ」
「はい」
素直に、そう頷いた。
さすがに、この状況で我を通すつもりはなかった。
「セレナは、当面、行儀見習い以外の外出は禁止だ。馬車での送り迎えのみで移動して、ソフィ以外の共も必ずつけるように」
「分かりました」
セレナお姉様も、神妙な顔で頷く。
「カイル、お前は、しばらく学校の寮に入りなさい。話だけは通してある」
「分かりました」
カイルもお姉様とそっくりな表情で頷いた。
お母様も、さすがに今回ばかりは、いつもの天然さを引っ込めていた。
「明日のお茶会には、テレサとマリアも一緒に連れて行くわ。セバスチャンにも、同行してもらうことにしたの」
「ありがとうございます」
物々しい体制になったものだと思いながらも、この状況では、仕方ないのだろう。




