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転生令嬢は今日も推理する  作者: 深見きくり


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Episode19 届いた凶兆



三人目、ランドールは、社交クラブに入り浸っているという話だった。

貴族の男性たちが集う、会員制の社交施設。

ルシアン様の伝手で、なんとか中へ入ることができた。

葉巻の煙と、談笑の声が漂う中を進むと、案内された先に、優男然とした青年が、カードテーブルを囲んで、上機嫌に笑っているのが見えた。


「少し、いいかな」


ルシアン様が声をかけると、ランドールは、人懐っこい笑みを浮かべた。


「おや、ルシアンか。懐かしいな、学生時代以来じゃないか」


軽い調子で、そう返す。

……なるほど、これは、たしかに軽そうな人だ。

さっきまで、女性の話題で盛り上がってたのも頷ける。

顔だけは整っているガレス様、気弱なアステール様、真面目なクラウス様、そして、この軽薄そうなランドール様。

リゼット嬢、見事に、好みのタイプがバラバラだ。


「リゼット嬢のことで、少し話を聞きたくてね」


その名前を聞いた瞬間、ランドールの笑みが、わずかに強張った。


「……ああ、彼女のことか」


少し離れた場所へ移動すると、ランドールは、深いため息をついた。


「正直、あの子には、ちょっと参ってたんだ」


「参っていた、というと?」


「最初は、綺麗な子だなと思って、僕も軽い気持ちで応じてたんだよ。でも……」


言葉を選ぶように、少し間を置いた。


「とにかく、束縛が凄まじくてね。誰と話したか、いちいち問い詰められて。他の女性と少し言葉を交わしただけで、ひどく怒られる」


「怒られる?」


「ああ。一途な人だとは思うんだけど……その一途さが、重すぎるっていうか」


ランドールは、苦笑いを浮かべた。


「見た目は、本当に好みだったんだけどね。僕とは、縁がなかったんだろうな」


「正直、僕には合わないなと思って。それで、距離を置こうとしたんだけど」


「そうしたら?」


「僕を取り巻いてる女性の方々が、見かねて、彼女に苦言を呈してくれたことがあってさ。その時、クラウスが、たまたま仲裁に入ってくれたんだ」


「クラウス様が?」


「ああ。あいつとは、学生時代からの付き合いだけど……まあ、あいつは真面目だから、俺とは、あんまり気が合わなくてね」


ランドールは、肩をすくめて、そう笑った。


「それでも、困ってる時に助けてくれるあたり、根はいい奴なんだよな」


少し複雑そうな表情を浮かべる。


「まさか、今度はクラウスの方が、目をつけられることになるとはな。しかし、彼女もあっさり乗り換えるものだよね」


「クラウス様のことは、ご存知だったんですね」


「ああ、目の前で見てたからね。俺への仲裁に入ってくれた時、彼女、あっという間にクラウスに惚れ込んだみたいでさ

――その後も、彼女がクラウスに執心してるって話、取り巻きの子たちが、あちこちで教えてくれてね」


他人事のように、ランドールは笑った。


「そういえば……これ、僕が実際に見た話なんだけど」


少し声を落として、続けた。


「彼女、人形と話してるところを、見たことがあってさ」


「人形、ですか?」


……人形と、話す?

一瞬、頭の中で疑問符が浮かんだ。


「ああ。誰もいない場所で、独り言みたいに、ぶつぶつと。……ちょっと、不思議ちゃんだなって思ったよ」


ランドールは、苦笑しながら、そう言った。


もしかして、私にとってのフィンみたいな、そういう存在が、彼女にもいるんだろうか。

でも、それを言ったら、傍から見た私も、同じように不思議ちゃんに映ってるのかもしれない。


「その人形なんなのか、詳しく聞かなかったんですか?」


「いや、そこまでは。なんか覗き見たみたいになっちゃったし……正直ちょっと怖いし」


ランドールは、軽く肩をすくめた。


「ただ、なんだか、大事そうに抱えてたのが、印象に残っててね」


一通り話を聞き終え、私たちは、屋敷を後にした。



社交クラブの喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。


「三人とも、話を聞けましたね」


ルシアン様が、静かにそう言った。


「ええ。でも、薬のことは、誰からも聞けませんでしたね」


そもそも、噂の出どころ自体が、怪しいのかもしれない。

それに、人形のこと。


「アッシュフォード家にも、話を聞きに行きたいのですが」


「伯爵家に、アポなしで押しかけるのは無理だよ」


ルシアン様が、やんわりと制した。


「事件性があるわけじゃないから、まずは正式にアポイントをとらないと」


「……分かりました」


渋々ながら、そう答える。

その日はもう遅かったこともあり、ルシアン様が、屋敷まで送ってくれることになった。





屋敷に着くと、玄関先が、なんだか慌ただしい雰囲気だった。


「エラリー様、お帰りなさいませ」


出迎えたセバスチャンの表情が、いつもより硬い。


「どうかしたの?」


「実は、セレナお嬢様宛に、差出人不明の贈り物が届きまして」


セバスチャンの視線が、ふと、隣に立つルシアン様に向いた。


「……失礼ですが、警邏の方でいらっしゃいますか」


「ええ、ルシアンと申します」


「では、ちょうどよろしいかと」


淡々とした口調で、セバスチャンは、白い布に包まれた何かを差し出した。


「猫の死骸が、入っておりました」


思わず、息を呑んだ。

頭の中が、かっと熱くなる。


「もう、悠長にしていられません。今すぐ、リゼット嬢を訪ねましょう」


「エラリー嬢」


ルシアン様が、静かに、でもはっきりと、それを遮った。


「気持ちは分かるが、それこそ、無茶だ」


「でも……!」


「向こうは、公爵家だ。証拠もないまま押しかけたら、こちらが不利になる」


冷静な物言いに、思わず言葉に詰まる。

……分かってる。分かってはいるけど。


「――お母様に、伝手がないか聞いてみます」


絞り出すように、そう言った。


「それがいい」


ルシアン様は、少しほっとしたように頷いた。


「もし、また何かあったら、いつでも呼んでくれ。すぐに駆けつけるから」


その言葉に、少しだけ、胸のつかえが軽くなった気がした。



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